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【連載小説】私の明日はどっちだ?2-③

おばさん世代の転職活動はいばらの道。手持ちの駒もスカスカで、さあどうする!

これまでのお話はこちらからどうぞ。

履歴書は、クリアファイルにはさんでから封筒に入れ、それをぐにゃぐにゃにならないよう固めのファイルに入れたことを何度も確認した。
自分で書いた志望動機と、入社したら何ができるかを繰り返し唱えた。

それから、間違っても途中でこぼれたりしないよう密閉容器に入れたカレーを、小さなトートバッグにそっと入れた。仕方がない。持ってきた理由は…面接の時までに何とか考えよう。

企業のHPを見ても、イメージばかりで詳しいことはわからなかった。
(大丈夫か?こういうところだから面接の連絡が来たんじゃないのか?)
今の自分に、社会的な価値があるとは思えない。
また変なところに足を突っ込んでしまうのだろうか。
でも、もしそうだったとしても私はこの道を行くしかないのだ。
雇ってくれるところが他になければ、そこで生きていくしかないのだから。

そんな気持ちを背面に、前面では質問に対する答えを反芻していると、
いつのまにか会場の入り口に来ていた。

(普通に立派なビルだ…)

今回は、下見にも来ていない。ぶっつけ本番だった。
エレベーターを7階で降りると、いかにも「オフィス」という雰囲気が漂っている。(ここで登録して、別の施設に行くのかもしれない。でも、どうせまた落ちに来たようなものか)とぼんやり思う。

(どうしてカレーなんか持って来ちゃったんだろう。)
恥ずかしいのと緊張してきたのとで、カレーが匂わないかどうか
頭の中は、ただそのことだけで埋め尽くされていた。

入り口のドアを開け、無人感のある受話器を取る。
「面接で伺いました、薮田と申しますが」
「ただいま参りますのでお待ちください」

30分ほど待っただろうか。
そんなはずはない。が、それほど長く感じられた。あまり深く考えずに応募してしまった自分が、急に怖くなった。

「お待たせいたしました」

流ちょうな口調ながら、温かみは感じられない若い女性社員が出てきた。
こちらへ…と通された部屋にたどり着くまでの通路は、むかし文化祭でやった迷路かと思われるほどくねくねしていた。
いくつものパーテーションで仕切られ、どれも似たような空間に見える。
面接が終わっても、自分ひとりでは帰れないだろうなと思った。

面接室に通されたのかと思いきや、そこには4名ほど先客がいた。
待合室か。すでに私は、このいたたまれない雰囲気にのまれてしまった。
だがこの面々の中を勝ち残って、職を手に入れなければならないのだ。
敵を見ずしては戦えまい。失礼します的な会釈をしつつ、
私は周りをざっと見渡した。

左端にはガッツリ企業研究してますオーラを放っている男性。20代後半か。
隣は彼と同年代と思われる女性、データ処理とかバリバリできそうだ。
その隣には、若者というには少し慣れた感のある男性。ネクタイはカエル柄だった。おしゃれだけれども、面接にはどうなの。
最後の一人は、仕事が早いうえ周囲に気配りもできる万能型(という印象の)女性。40歳…にはいってないか。のんびりした仕事だろうと思っていたのに、これでは、まるで普通の企業の面接のようだ。

そんなことを考えていたら、突然(面接室に入る時のノックって何回するんだっけ?)という疑問が浮かんできた。でも待っている間はスマホは見ないように、と転職サイトで言っていたし…。

2回?3回?ああ確かめたい、でも見ちゃいけない、何でこんな時にこんなこと思い出しちゃったんだろう!

「では、こちらへどうぞ」
さっきのクールな女性社員が、早口で言った。

私には、「時間切れです」と聞こえていた。





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