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【roots】青年期 《十章》それぞれの仕事

僕は1度目のペリカン兄弟までの原稿を持って出版社を訪ねた。
新聞に求人広告を出していたので住所を書き写して直接足を運んだ。
ドラゴンマークのファンタジー小説を扱っている「ドレイク書房」
ドラゴン書房って事。名前が気に入った!

ドアをノックして中に入ると古い紙の匂いがした。瞳があのドラゴンに似た年配の男性が近づいて来て「何か?原稿?持ち込み?」と聞いて来た。
「は、はい!これはまだ序章で長い長い話なんですけど…」と言った所で「預かります」と遮られた。
連絡先を残して出版社を後にした。
*****
あれ以来初めての外出だった。
僕が動いてしまう事で何か起きやしないかと心配でジッとしていた。
少し街を歩いてみると、見覚えのあるピンクの派手なネオン管がチカチカしている店がある。
外の窓からカウンターが見えた。
「pink bar」中には2人の男性が立っていた。
僕は「ルーク!ルーカス!」ドアを勢いよく開けて叫んだ。
2人はびっくりして動かない。
「ご、ごめんなさい。僕だよ、デイビッド。あ、知らなかったか。えっと…どうしたらいいのかな…」僕は自分の説明をしたいけど、あの時はまだ名前も思い出していない状態だったと気づいた。
「初めてのお客様ですよね。僕らの名前はどこで知ったんですか?」と聞かれた。
僕は困った末に「歌います!」と店には他にもお客様がいるにもかかわらず、手拍子を打ってあの曲を適当に歌った。
するとルークとルーカスの顔が明るくなってトランペットとサックスを取り出し演奏し出した。店内が一体になって他のお客様も一緒になって手拍子打って体を揺らし盛り上がった。
「デイビッド。デイブ君がデイブか!オーウェンが必ず訪ねて来るからって噂してたんだよ。僕がルーカス」「ルークだよ」と2人が右手を出してくれた。握るとブンブンと握手をして肩をパンパンと叩いて抱き合った。2人は嬉しそうに僕を見て
「最初来た時は知らんぷりしてたのにね」
「実はこんなにノリノリなんて、な」とふざけて笑った。
「今さ、そこの出版社にこの旅を書いて持ち込んだんだ。ちょうど1度目のペリカン兄弟の所までだよ」
「本当かよ⁈「俺たちのことを?」嬉しいね〜!良いね〜!と2人はとても喜んでくれた。時計をみると18時。
「楽しくて時間を忘れてたよ、またくるね。今度は奥さん連れて来る」とカウンターのイスをおりハイタッチした。
「デイブ約束だぞ」
*****
後ろ髪を引かれながら店を出て足早に歩くと花屋から出て信号待ちをしているルビーを見つけた。横断歩道を挟んでルビーの正面に立った。
ルビーは空を眺めていて僕に気づかない。
いつ気がつくかなとワクワクしている僕に気がついた。自分から笑顔かこぼれる事が嬉しくて、声を出して笑ってしまいそうだ。
信号が青になりルビーが歩き出した。
僕に気づいて!!と心の中で叫ぶとルビーの顔がふわっと明るくなった。
「どうしたの!」と走ってきたルビーの腕を捕まえて一緒にアパートのロビーへ入って行った。
エレベーターのスイッチを押すなり、
出版社へ行った事。
ドレイク書房のドラゴンに似ている人に原稿を預けて来た事。
そしてペリカン兄弟に会えた事。一緒に歌って次はルビーを連れて行く約束をした事。
オーウェンが僕が必ず店に来るからと言ってくれていた事を一気に話した。
終始うんうんと嬉しそうに聞いてくれるルビーがいる事を心の底から感謝していた。
玄関で靴を脱ぎながら
「もう出版社へ行ったのね」とルビーが言って
僕は「1度で預かってくれるなんてありがたいよね」と陽気に部屋へ入って行った。

to be continue…

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