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【roots2】《28章》絆・2

三人分のコピーの山を眺めて、この一枚一枚に自分たちの歴史が書かれていると思うと。より重たく思えた。
この後の冒険が未だに続いている事にもため息が出た。

帰宅がすっかり遅くなり、ルビーとリリーで夕食を取ってもらった。もう寝ているかとデイブとオーウェンはそっと階段を上ってそれぞれの部屋に別れた。

リビングでルビーは待っていてくれた。
「何かわかったから遅かったんでしょ?」
顔を見るなりルビーは言った。好奇心に満ちた目でデイブを見ている。
「ルビーは本当に賢いな」デイブは紙袋からルビーの分のコピーを出した。 
「ここに僕たちがどうして旅に出たのか書いてあったんだ」
「そんなものがあったの?」
ルビーは恐る恐るコピーの1枚上にそっと触れた。
「驚くことが沢山書いてある。今日はもう遅いから明日にしたら?」デイブが言うと
ルビーはブンブンと首を振って
「読むわ、すぐに」とコピーを自分の膝に乗せた。

ルビーが読み終わるまでデイブは横で待つことにした。ルビーは表情もほぼ変えることなく淡々と読み進め数時間で最後まで読んだ。

コピーから顔を上げると目にいっぱいの涙を溜めて「私を選んでくださったデイブのお父様とお母様に感謝するわ。そうじゃなかったら、絶対にデイブとは出会えないんですもの!」と言って両手で口元を押さえるとポロポロと涙がこぼれた。
ルビーは嬉しそうにニッコリと笑って両腕を大きく広げた。流したのは嬉しい涙。
デイブはありがたくて、何も言えず涙も堪えきれずにルビーに抱きついた。
「両親と別れる事になって…僕のせいで…」途切れ途切れ嗚咽混じりにそう言うと。
「きっと私も、オーウェンの両親も選ばれて光栄だったわ。泣かないで」
ルビーは心から喜んでいた。
沢山の不思議な偶然や奇怪な出来事も腑に落ちた。それに。
閉じ込められたままで別世界へ送られてしまっていたらデイブとは会う事も無かった。
良かった。こちらに来れて。
これが自分の運命だと明確に突きつけてもらえて心は晴れやかだった。
デイブは、そんな事には気づくよしもなく。
ルビーの方が泣きたいだろうに僕に気遣って…と、自分の涙が止まらない事を恥ずかしく思いながら、だのに止められず。
ルビーにしがみついて泣いた。
ルビーはよしよしと頭を撫でて
「サイラスが本当に助けてくれたのね。出会えた重みを感じるわ」と言った。
本当にその通りだと思った。
「父さんの言葉を守ってくれた…唯一父さんの世界とつながっている存在だったんだね」
デイブはルビーから体を離してティッシュで涙を拭きながら言った。
「じゃあさ、この王様が埋めたって…サイラスの下に有るんじゃないの?」
「え?」
「ほら、ここ。書いてある」
ルビーが最後の方のページを出してデイブに見せた。
「本当だ…」
「サイラスは私たちが気づくように根元から倒れたのかしら?」
「そうなのかな…。明日タイラーとトレバーに頼んで調べて貰おう」
涙も引いて少し元気を取り戻したように見えるデイブに
「デイブ、辛い10年だったわね。閉じ込められて育つなんて…思い出してしまったんじゃない?」
「いや。僕も自分から引きこもっていたとばかり思っていたから、ビックリしたけど。大丈夫」
「チェイスがそんな昔から、追いかけて来てまでしつこくしていたなんて!ね!」
「サイラスに出会えてなかったら、解決していないよね。大切に育てなくちゃ」
「またお話ししたいね。もっとちゃんとお礼を言いたいわ」
ルビーに言われて、サイラスの低く優しい声が懐かしく胸に響いた。

次の日の朝、オーウェンが四階に上がって来た。
ルビーは見つけるとすぐにハグをしに飛びついた。オーウェンは軽々と受け止めて
「三人の絆がわかって俺は凄く嬉しい」とルビーをギュッと抱きしめた。
「私たちを選んでくれて本当に良かったわ!そうじゃなかったら、こうしていないんだもの。オーウェンが居てくれたから、私。頑張れたの。本当にありがとう」
「俺だって。ありがとうな」
2人は照れくさそうに体を離すと
「リリーには?言ったの?」とルビーが聞いた。
「もちろん。驚いてたよ。で、リリーがさ。この本が本当なら、サイラスの下に何かが埋まっているんじゃないかって」
「僕もそれを言おうと思ってた」
3人は顔を見合わせて微笑むとデイブが
「タイラーとトレバーに調査してもらって掘ろうか?」と言った。
「闇雲に掘るもんじゃないし、文化財かもしれないし」とオーウェンが付け加えるように言った。
デイブがうなづくと
「じゃあ、早速連絡しとく。それからデイブ…大丈夫だろうな?」とオーウェンが小さな声で聞いた。
「何?あ…大丈夫、大丈夫」昨日ルビーに言わなかったか確認されてしまった。信用ないな。デイブが焦ってバタバタと手を振って返事をした。
「何の話?」とルビーに不思議そうに聞かれて
「オーウェンに叱られた話だよ」とバツが悪そうに答えると。「あら、かわいそう。くわしく聞かないであげるわ」とデイブの真っ赤な顔を覗き込んで笑った。

ごめん、本当は言ったけどね。少し。
僕の元に2人が一緒に来てくれた。
本当にこの奇跡に感謝だよ。
オーウェンとルビーが笑い合う姿を見て
デイブは心から自分の幸運に感謝した。
もし、僕に何も起きていなかったとしても2人とこんな風になれていたのかな。
王子と立場が違う2人とは、友達にはなれなかったかもしれない。ましてや親友や家族には。
あの物語が全て真実だとしたら…。

ふと、デイブはチェイスが鬼と表現されていた事に違和感を感じた。
鬼…鬼ってなんだ?
チェイスは最初実体が無かった。
影が見える程度の存在だった。
闇。見えはしないが心を巣喰う…それがチェイスだった。力をつけて実体を動かせるようになっていたが。
チェイスは僕の中の闇だった…違うのかな?
鬼?

デイブが頬杖をついて考え込んでいるとオーウェンが頭をポン!と叩いて。
「なんだ?眠れなかったのか?」と優しく聞いた。
「いや、寝た。良く寝たよ」
「何か気になることがあるのか?」
デイブはチェイスの話はやめておいて。最初に感じた話をした。
「あ…もしさ。僕が鬼に狙われなくて。普通に王子だったらさ。2人は仲良くしてくれたのかなって」恥ずかしげも無くサラリと6歳みたいな事を言ってしまった。
オーウェンもルビーもニッコリ笑って。子どもに接するように話し出した。
「普通に王子って?」
「もしもは無いのよ」とデイブの右と左隣にそれぞれ座った。
「そうなのか…」とデイブが素直に納得すると。
2人は左右からデイブの頭をわしゃわしゃかき混ぜた。
「何?何よ?」と驚くデイブに
「私がお姫様だったらどう?」
「俺が王子だったら?」
デイブは2人を順番に見ると、なんとも言えない優しい顔で見つめ返してくれた。
初めて会った10歳の僕ら。成長しても。何年たっても。
その表情から充分受け取れた。ありがとう。
「そうだね。何も変わらないね。」
もしもなんて考える以上の経験を3人で乗り越えて来たんだ。
全てが不思議で全てがあり得ない所からのスタートだった。それでも今こうしている。
色々考えるのはよそう。
考えたって仕方ないんだ。まずは事実を知る。
そして見えてきたものを受け止めてゆこう。
3人なら大丈夫だ。
ここまで人生を諦めずに来れたのは、3人だったから。そうだよね。

to be continue…
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3人で良かった。3人じゃなきゃ📙

毎週更新📙✨

ワクワクとドキドキと喜びと幸せを🍀
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