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【roots】老年期 《28章》出会い2

風車が見えてきたな」グウングウンと風車の回る音とカタンカタンと別の音が聞こえた。
「何の音かな?」
「粉を挽いているんだよ」
「この中で?そうなの⁈」オスカーは興味津々で風車にへばりついて耳を澄ました。
「オイ!何してんだ!」
オスカーくらいの歳の少年が声を掛けて来た。
オスカーは「ご、ごめんなさい!風車を初めて見て…中で製粉してるんですか?」と丁寧に尋ねた。「うん。そうだけど…見るか?」と風車の戸を開けてくれた。風車から繋がった棒が動いている。歯車がカタンカタンと回って石臼で粉が挽かれていた。
「小麦粉だよ」へぇ〜。オスカーは熱心に見つめた。「ここの特産品なの?」
「特産品かは知らないけど、美味いよ」
少年は自信満々に言った。
「へぇ〜食べてみたいな」思わず呟いた。
「じゃあついて来いよ。母さんに何か作ってもらうよ」少年はニッコリ笑って言った
「良いの?突然なのに?」と心配すると
「大丈夫さ。気にすんな」こっちだよと、すぐに少年は歩きだした。
風車を出ると丘に鹿はいなかった。
猫と時と一緒で居なくなってしまうんだなぁと少し寂しくなりながら少年について行った。
丘を下りた所にある可愛らしい小さな家に少年は入って行った。
そのままそこで待つとお母さんと一緒に少年が出てきた。「なに?うちの小麦粉食べてみたいんだって?」と明るく聞かれた「は、はい!料理に興味があるんです」と咄嗟に答えた。
「作ってみたいってこと?」
「で、出来れば」とオスカーが言うとお母さんは
ニカーっと笑って「嬉しい事を言うじゃないの!入んなさい!」と手招きしてくれた。
「あ、ありがとうございます!」
「あんた、名前は?何処からきたの?1人?」とお母さんはエプロンを着けながらオスカーに質問した。「あ、僕はオスカーです。1人で来ました。旅の途中です」お母さんはエプロンをもう一枚出すとオスカーに差し出して「あら、旅してるの?珍しい料理じゃあないけど。パスタ作ろうか」と微笑んだ。
「よろしくお願いします。」とオスカーは頭を下げるとお母さんは「オスカーよろしく。私はアリソン。ママって呼んで。息子はキース働き者なの。お父さんもね、畑に出てる」と家の裏を指差した。ママの口調は飾らなくて心地良い。
朗らかで楽しい人だなとオスカーは思った。

*****

大きなボウルに粉を入れて混ぜ出した。
ほら、あんたやりなと手で合図されボウルの前を交代した。オスカーは初めて小麦粉に手を差し入れた。ふんわりと温かくて気持ちが良い。

これを丸めて少し生地を休ませる間にソースを作る。台所にある勝手口から外に出るとキッチンガーデンが広がっていた。
ママはテキパキとハーブにトマトなどをカゴに入れた。
「今とってすぐ料理するなんて、楽しいですね」とオスカーが言うと。嬉しそうに笑って
「全部手作りっていいでしょ?」と言った。

野菜を洗って、刻むとフライパンに火を入れた。ソースはあっと言う前に出来た。
味見をさせてもらって思わず「美味い!」と目をまん丸にして言うとアリソンはバンバンとオスカーの背中を叩いてワッハッハーと嬉しそうに笑った。

生地を小さくちぎる。
手のひら二つ分位の長さの細い棒を使って生地を平たく伸ばしながらクルリと丸め筒のような形になった。
「ガルガネッリっていうんだよ」
「僕には難しそうです。」
「いいの。自分たちで食べるんだから。楽しく作って、みんなが喜べば。それで良いのよ。難しく考えないの」
「なるほど」オスカーが素直に感心するとママは生地を丸めながら
「料理人になりたいの?」とオスカーに聞いた。
「そうなのかな。今興味があるのは料理だけです」
「好きな仕事につくのは覚悟がいるよ」とアリソンが優しく言って手を止め、話を続けた。
「いつもそのことに誠実で一生懸命でいないといけない。お金を頂くんだしね。人の口に入るものだからね。うちの小麦粉もそうさ。天気や出来不出来、虫がついたら…。毎年同じ様にはいかないんだよ。でもお客様には安全で同じ量をさ。喜んで頂くように届けないといけないだろ。だからずーっと一年中、気が抜けない。」
「一年中…」
「365日さ」
オスカーはうなづいた。
「味が落ちれば次は買ってくれないからね」
アリソンはまた手を動かし始めてオスカーも辿々しく丸めた。
「さっき、息子さんが美味いよ!って。自分が作った物を美味いって言えるって誠実に作ってる証ですね」
「あら、そんなこと言ったの?じゃあ美味しく作らないといけなくなったわ」とアリソンは笑った。
「楽しみです。手作りって素晴らしいです」
オスカーがしみじみ言うと
「オスカーならきっと良いシェフになるわね。真面目だもの」と言ってくれた。

2人で丸めたパスタを茹でてソースの入ったフライパンに移しさっと和えた。台所に良い香りがたちこめた。

テラスのテーブルに運んで皆で食べる事にした。
キースとお父さん、アリソンとオスカー。
各々が取り分けると教会の鐘がカーンカーンと鳴った。
「ちょうど12時。さぁ召し上がれ」
「いただきます」

口に入れた途端にふわっと甘い小麦が香るモチモチのパスタ。トマトとフレッシュバジルのソースもとても美味しい。
あぁ、幸せだなとこの瞬間をかみしめた

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