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【roots】青年期 《15章》旅

2度目のペリカンまで再び書き上げた。
僕はオーウェンと出版社を巡っていた。

時折、エイデンの話もしたけど新しい情報も探すあてもなく時間だけが過ぎていた。

今日は僕が調べていた3つ目の出版社。
ファンタジー本を出しているフォールズ出版。
とりあえず読んでくれるとのことで原稿を渡してお願いをして建物を出た。
2人で少し休もうと久しぶりにペリカンの店に寄った。

すっかり、何も起きずにいる事が僕たちを逆に不穏にさせた。
「この店にさ、エイデンって客はくる?」とオーウェンがペリカン兄弟に聞いた。
「エイデン?来るよ。結構いる」
「結構?」「4人か?5人かな」
「そんな良くある名前じゃないだろ…怪しいな」
とオーウェンが言うとルークが
「探しているのはどんな奴?」と聞いた。
「どんな…良い奴だと思う」と僕が答えるとオーウェンは微笑んで「2番目くらいに良い奴を紹介してくれないか?」とふざけると
「デイブに聞いたのが悪かったな」とペリカン兄弟も笑った。
窓の外から夕陽が眩しく見えた。
ルビーが帰るから、僕はこれで。と帰る挨拶をして店のドアを開けた。
開けた途端に風が強く吹いて男性客が1人店に入って来た。
すれ違ってからドアを閉めると、
「じゃあね!」と外から店の中の3人に手を振って店を後にした。
2日後、フォールズ出版から連絡があり、続きのあらすじ等聞きたいと言ってもらって。オーウェンと2人で打ち合わせをさせてもらった。
最後の滝の辺りをすごく気に入ってくれて、本にする方向で進む事になった。
オーウェンも今回は大丈夫そうだと警戒心を解いた様子。
「コーヒー飲んでかないか?」とオーウェンが誘った。

「この間さ、ペリカンの店から帰る時。男とすれ違ったろ?覚えてる?」オーウェンが切り出した。
「ああ、いたね」
「ルビーの店で働いてる人?」オーウェンが聞いた。
「いや、違うと思う。見覚えなかったから」
「そうか」
オーウェンはそこで話を終わりにした。
僕は気になって
「何よ、どうかしたの?」と聞いた。
「うん…店でさ、ルビーの話をしてた。」
「誰と?」
「知らない奴とさ」
「エイデンじゃない?」すかさず僕が聞くと
「違うと思うよ」と答えた。
「ルビーの旅の登場人物って事かな?」
オーウェンに僕の思いついた持論を話した。
僕の旅に出ている人もそれぞれ自分の旅をちゃんと生きている事。
「この間も言ってたな」オーウェンは静かに聞いてくれた。僕はルビーの旅の邪魔は出来ない。だけど守ってやる事は出来るだろう。
「そいつ、悪そうだった?」
「そんな事ない。久しぶりに会っても綺麗だったと、ルビーは変わらないなってさ」オーウェンは続けた「俺はさ、デイブの旅の中で生きてる。だから俺の旅はデイブの旅なんだ。でさ、ルビーの旅って存在してるのかな?ルビーもデイブの旅の中心人物でいる事を選んで生きてると俺はずっと
思ってたんで…少し妙でさ」
「妙って?」
「エイデンと湖に沈むなんて…するかな?」
「どう言うこと?」僕の言葉にオーウェンは深く一呼吸して真剣になった。
「デイブの旅の終わりはいつもルビーが決める事になってるんだ。お前の命が消える前に2人で閉じるんだ。それでまた2人一緒に生まれ変わる。そのタイミングはルビーが決めてるんだよ。」
何?何それ!僕の知らない事がまだまだ沢山あるんだ…。噛み砕いて飲み込むのは後にして!まずは今。今だと思った。僕も一呼吸して。
「そうなの?じゃあ、この旅はルビーの旅になってるとか?」
「そうなのか?いつの間にか?え?」オーウェンが考え込んだ。
「じゃあ、俺もペリカンもチェイスもルビーが作ったって?そんな訳ない。デイブの旅の登場人物だ」
「どこかで旅の主人公が入れ替わっているとか…
そうじゃないなら、そのルビーの話をしていた2人は僕の知っている人って事?」
「2人じゃない3人だよ」
「3人⁈ならキツネだよ!僕の旅に3兄弟のキツネが出てきたんだ」て言って思い出した
「キツネの所にエイデンが迎えに来てルビーの元へ行ったんだよ」と僕が言うと
「突然?迎えに?」とオーウェンが疑い深く聞いた。そう言われると突然だったかな…。
「ルビーとキツネが知り合いで、ドラゴンに居場所を知らせて迎えに行かせたって言うのか?ルビーはお前を信じていつまでも待ち続けるタイプだと思うけどな」オーウェンは続けて「まさか…まさかとは思うけど」真っ直ぐに僕をみた。
「ドラゴンがルビーになりすました…」
「え?ルビーとドラゴンは同一人物なの?」
「違うよ。だから本当のルビーはここにはいない」オーウェンが言い切った。
「…僕の名前を知っていたんだよ…門の前で大声で言ったけど、あ!エイデンには話した…」
僕は頭が混乱してしまった。
「まぁ、俺も聞かなくても知ってたけどね」とオーウェンは笑ったけど。僕は脳裏に湧き出てくる
あの日のことで胸が苦しくなって来た。
「滝に入って行く時。一緒に行こうと誘ったら、そんな事出来ないって言ったんだ。僕は怖いからかと思ってたけど…偽物だからって事?」
「マジか」
「僕がエイデンと湖に入って、ルビーが行方不明になっているのかもしれない…ルビーの事をエイデンと…入れ替えて話した…」
「エイデン探しは、ルビー探しをしろって事か?今更嘘ついているのが耐えられないとか…?」オーウェンが結論づけた。
「エイデンは話せなかったから…性別はわからないよね」
「エイデンは男だけど、ミアってドラゴンがいる女だよ」オーウェンは「あ!」と言って
「実は、ルビーに初めて会った日。顔はルビーだったけど髪の長さが気になったんだ。ルビーはいつも髪を腰くらいに長くしていて…。それに、今までの旅の話もあまり覚えて無い感じが…変だったな。
ドレス!結婚写真のドレスも今回だけ違うんだ…色々おかしな所があったのに…ごめん!今頃」
次々と疑問点が浮かび上がる。
僕も心の中に違和感があって、それが何かは言葉に出来ないけれど…最初からあったんだ…ずっと。遠くを見て考え込む僕に
「デイブ大丈夫か?家、帰れるか?」とオーウェンがものすごく心配してくれたけど
「そうと決まったわけじゃないから」と少し笑って答えた。
「まぁな…」
「竜と影だけが想像上のものなんだよね。自在に姿を変えられても不思議じゃない…。そうか…。とにかく様子を見るよ」と僕が言うと
「帰ってすぐに日記を確認するよ」とオーウェンが言ってくれた。
なんとも言えない気持ちでオーウェンと別れて、テクテクと歩いた。
ルビーがルビーじゃなかったら…
僕は何てことをしてしまったんだ…
200年近く続いているこの旅がどうなってしまうんだろう。
こんな事をして大丈夫なのか…
きっと意味があって僕らは繰り返し生きている。なのに…僕は。
美しすぎる夕方の空が僕の不安を深く苦しいものにした。
to be continue…

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