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【roots】少年期 《七章》澄みきった水・2

一つ目はルークとルーカス。ペリカン兄弟に何でも楽しんでみる事を教わって一気に目の前が明るくなった事。

二つ目はドラゴンと空の旅。自分がどれだけ小さい世界しか知らずに閉じこもって生きていたのか知った事。

三つ目はとても苦しい思いをした事。以前の自分を見つけてしまい影に飲み込まれそうになった。
その時にオーウェンが助けに来てくれた。友達が助けに来てくれるって事は僕はもうすでに前の僕じゃなかったんだ。1人じゃ無いって心強いと知った事。

四つ目は海の旅。大きな鯨のディランに自分の周りの小さなものを守ることが自分を守ることになると教えてもらった事。

五つ目はここに来る前にいたキツネとの楽しい森の話。誤解から始まったけど信頼し合うまでになれた事。自分が何げなくした事で人を嫌な気持ちにさせている事がある事。
そして名前を思い出せたら自分の半分くらい知る事が出来たような気持ちになった事。
*****
長い長い話をルビーは、にこやかに驚いたり笑ったりしながら聞いてくれた。
「頑張ったのね。もっと弱虫かと思ったのに」
「自分でも驚いてるよ。僕には出来ないと決め付けていたからね」
ルビーは小さな箱を取り出した。
「ここまで頑張ったご褒美。どうぞ開けて」
とテーブルの上に置いた。
「ご褒美なんて!僕は自分のためにしているだけで。誰かに褒められるためにここまで来たんじゃ無いよ。自分を知るために旅をしている、それだけだよ」と箱を受け取る事を断った。ルビーは顔色を変えて
「人は誰でも物を欲しがるものでしょう?」
と強く言った。
「物?僕は今ハンカチ一枚持たずに旅をしてる。
物を持つと戦ったり、羨んだり、人は間違った方に心を奪われるんじゃない?だから、気持ちだけ頂いておくよ」と僕が言うとルビーはますます怒り出し「私があげると言っているのに?」と大きな声で言った。僕は慌てて
「だって、自分のために頑張ったのにルビーに頂くっておかしいでしょ。それに僕はルビーに何のお返しも出来ないし。…そんなにどうしてもって言うなら物じゃなくてさ、花園を案内してよ。ルビーの一番好きな場所を見せてよ!」と言った。
「仕方ないわね!!」ルビーは怒ったまま歩き出した。

そんなにどうして僕にくれたがるのか?不思議だったけれど、テーブルに箱を置いたままでルビーについて行った。
途中、花の香りを楽しんだり、蝶に囲まれてルビーの機嫌も直っている様子に安心した。

小川の横を歩いて気がついたら雄大な滝が目の前に現れた。
ドドドドっとたっぷりとした水が美しく輝きながら下の湖へと勢いよく落ち続けていた。
湖の水が澄みきっていて魚が泳いでいるのが見える。湖の岸にある大きな岩に腰を下ろして、圧倒される滝の雄大さに2人静かにただ落ちる水を眺めた。
「デイビッド。私ね、あなたを試したの」
「え?」
「心の中に少しでも狡猾なものがあったなら箱を開けるだろうって。私は開けて欲しかったけど…それなのに、開けもしなかった」
「そうだね。女の子からのプレゼントなのに。開けるくらいするべきだったのかな…気が利かなくてごめんよ」と僕が恥ずかしそうに言うと
「違う!ここに来てわかったの。この水の清らかさはあなた自身なの。この豊かな水の量も湖の澄んだ青さもあなたなのよ」とルビーは一気に言って黙ってしまった。急いで、
「嬉しいな。この雄大な滝が?こんなにカッコいい男じゃないけど」と恥ずかしそうに言うと。
「自信持っていいのよ」と言ってくれた。
「もしも箱を受け取ってたらどうなっていたのか聞いても良い?」
「どうって…この場所はきっとない」
「滝が?」と驚くと。
「ううん。私と花園」と言った。
「自分を賭けて僕を試したの?何故そんなことを…?」
「あなたに優しさや清らかさに愛情があると知ってホッとしたわ。辛い思いや長い旅のせいで心が良い方に変わるとは限らないもの」と滝を見たまま言って、やっとゆっくり顔を動かし僕をみた。
「私を消さないでくれてありがとう」
僕は何と言って良いかわからず黙ってしまった。
「心の中はすぐに濁るの。清ければ清いほど小さな一滴の泥水であっという間に濁るのよ」と悲しそうにルビーが言った。
「知ってる。影に飲み込まれそうになった時たった一言であんな楽しかったはずの毎日が一気に暗がりになったんだ」
「怖いでしょ」
「怖かったよ。でも自分だけで頑張れない時助けてもらうことは恥ずかしい事じゃ無いって教えてもらったから」
「オーウェンね」
「それから、自分が飲み込まれるくらいなら。相手にしないでその場を離れるって事も教えてもらったし」
「私も離れたい」
「え?」

「良い友達がいるのね」ルビーは寂しそうに滝を眺めていた。僕は話を変えようと
「この花園も獅子門だったね」と言った。
「オーウェンが守り番だもの。良い友達がいるのはあなたの力よ。私には無い…」
ルビーの手を取るとルビーが両手で握り返してくれた。
ルビーは僕の目をじっと見つめて
「水が無ければ心は死んでゆくの。何も育たず枯れ果ててゆく。たとえ水があっても汚く汚れていたら決して育たない。この清く美しい水が失われなかったからあなたは沢山学んで自分を取り戻すことが出来たのよ。水があって清らかである事は特別な事なの」と言ってくれた。
まるで自分が宝物のように感じられて恥ずかしかった。
「ありがとう。この景色を一生忘れないようにするよ」滝は轟音を響かせて輝く。水しぶきが眩しかった。しばらく静かに滝を眺めていた。
あの廊下の旅はここで終わり。そんな気がしていた。
僕は今の気持ちを素直に打ち明けた。
「このまま、僕と一緒に行こうよ」
ルビーは繋いでいた手を離して
「そんな事きっと出来ない」と寂しそうに呟いた。
「この旅は僕のための旅だけど、ルビーが望んでくれるなら可能なはずだよ。僕はルビーと行きたい。どうかな?」
「私も」
ルビーがそう言うと湖の水がみるみる溢れ出して一瞬のうちに2人は水に飲み込まれた。
僕とルビーはしっかりと抱き合って頷き合うと澄みきった水の中に沈んで行った。
深く 深く
青く澄んだ青に沈んでいった。

少年期Fin。

to be continue…

青年期に続きます📙☕️

今日もワクワクとドキドキと喜びと幸せを🍀

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