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「どうすればいいですか?」

向かい側に座った彼女は食い入るような眼差しで

占い師であるわたしの顔を覗き込んでいた。


「ではカードに聞いてみましょう。」

緊張を隠してカードを手に取る。


いつのまにか日は沈みはじめ

空にはうっすらと紅色が広がっている。

これからゆっくりと綺麗な濃い火の色に変わって行く時間だ。


イベント広場の一角に小さなスペースを陣取り

新米占い師はカードを繰る。

ただただ無心にカードを繰る。


 彼女は、これで運命を決めるんだ、とでも言わんばかりに

占い師のその仕草を見逃すまいと

一挙手一投足食い入るように見つめている。


くっきりと二重の瞳は薄茶色なのだが

どこかよそのお国の血が混ざっているのかな?と

思うような少し不思議な色合いをしていた。

今時の小さなお顔

鼻筋も通りきゅっと結んだピンク色のくちびる。

この子が少しでも困った表情を浮かべれば

たちまち周りの男の子たちは

彼女を助けようと我先に手を差し伸べるのだろう。

そんなほっておけない感じの可愛らしい女の子だ。


柔らかそうな巻き毛が風にそよいで

フワンと軽く泳いでいる

でも、その瞳の奥には容姿とは裏腹に

意志の強さがうかがえる。

彼女は真剣だった。


初めての恋という不安と期待。

想いはビシビシ伝わる。

(…しかし、やりにくいなあ…。)

内心その圧力に押されながらも

ポーカーフェイスでカードを繰り終え、

一枚のカードを開けた。

(…ほっ…カードぶちまけずにうまくいった…。)


「魔術師…えっ?魔術?」

タロットカードは今や一般的に出回っているので、

基本的な絵柄や簡単なカードの意味などはすでに知られている

なのでお客さんである彼女が先にカードの名前を言った。

(…魔術師。始まりのカードだ…。)

「そうですね。

とりあえず始めてみればいいんじゃないんでしょうか?

これは始まりのカードですから。」

「え?とりあえずって…どうやって?」

「う~ん。そうですね。

例えば、まずは思いついたものから。とか?」

「…はぁ…」

なんだかピンとこない様子だった。

「ヨガなんかされたことはありますか?

あれは自分の体との対話なんですよ。

 例えば深呼吸。

ひとつ大きく吐いて~吸って~をすると、

幾分か気が楽になったり落ち着いたりしますよね。

さらにポーズをとっていって、体が気持ちいいっていっているのを感じて、

そこからゆっくりほぐしていったりするんですね。

体と心は繋がっているってよく言いますでしょ?

頭でこうしようと考えるんじゃなくて、まず自分に聞いてみるんです。

どうしたい?って。」

「自分がどうしたいか…。」

「そうです。それがまず大事です。」

「…自分が…どうしたいか…。」

その大きな瞳が少し下を向いた。半分伏せられたまぶた。その先の長いまつ毛…。

ふと菩薩の半眼を思い出した。

少し、体に聞いてみる。

を実践されている様子。

「…自分の中のこと…。実は…」

彼女は自分の中の感覚を確かめながら

ポツリポツリと自分の考えを話し始めた。


空に一番星が輝いている。


「この絵をよくみてください。」

わたしもいよいよ本題にはいっていく。

このカードをひいた彼女の地図が彩られて行くのはこれからだ。




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