もうだめだと思うのは過去への執着だ。

如月と言う月を指す言葉。

漢字も読み方もボクは好きだ。

けれど寒さに極端に弱いから苦手でもある。

なんだか上手くいかないな、なんて思いながらも

気が付けば、如月も中旬へと差し掛かっている。

明日は、エビで鯛を釣るイベント……

いや、女の子が意中の相手に告白することを

後押しする謎のイベントが控えてくる。

マスメディアでは、不必要に特集を組んでは

変わり映えのしない映像ばかりを流している。

もう見慣れた光景、チョコが安く仕入れられるから

ボクとしては、それだけで意味のあるイベントだ。


睦月から始まった結婚式ラッシュが折り返し地点まで

辿り着いて、七日間で二件の結婚式に参加してきた。

煌びやかで、眩しい景色が染まる時間を

ボクは似合いもしない正装で眺めていた。

結婚=幸せと言う公式が何故だか蔓延っているが

正直言えば、ソレに関しての理解が乏しく

『人でなし』という一言で表現できてしまう。

良くも悪くも、ボクはそんな人間だ。

恐らく、何かを放棄している弊害であり

手に入れることのできないものへの嫉妬でもある。

そんな風に客観的に見つめることはできる。

しかし、見つめれば見つめるほどに

悲しくなってしまう、あくまでボクの主観。

参加した二人の友人の結婚式は

それぞれの個性が出ている

とても良い結婚式であった。

それは間違いないのだけれども

冷静な観察者、と揶揄される

二宮拓斗の生き写しみたいなボクは

どこかで冷静に状況を切り取って

物語で利用できないか、と考えてしまう。

まがいなりにも小説家を目指しているから

そこだけで判断すれば、ちっぽけではあるけれど

才を持ち合わせているのだろうと安い安堵感を

抱くのは、自信のない証明だろうか。

何に自信がないのか?

何故、自信がないのか?

どうして自信を持てないのか?

どうしょうもない問題の根源で

答えが出ない、と言い聞かして

複雑怪奇な問題として提起しては

都合の良い論理で身を固めてしまう。

いつからか染み付いた逃避思考で

先送りの方法論を敢えて使うのは

辿り着くべき答えに怯えているから。

いつか、ボクは向き合う覚悟を

腹に据えることができるのだろうか。

言い訳ばかりの人生を覆すには

相応の行動力が求められる、なんてな。


執筆の方は、全くもって進んでいない。

弥生末日締切のすばる文学賞に

送りつけるつもりでいる

小説の添削(五周目)を進めているけれども

あまり進捗しないのが現実で、情けなくなる。

脳内には、二つの拙いプロットがあるけれど

文字に起こしていないから、妄想でしかない。

一つのプロットは私的小説スタイルで

「結婚式」に派生する感情を使えないか、と

模索しているけれど、中身がスカスカ。

まだまだ考えていく必要性があるが

鮮度が落ちる前に組み立てないと、という

厄介な緊迫感があるから、厄介だ。

もう一つのプロットは

得意分野というか、野球という

スポーツを軸に据えて考えている。

こちらは割と起承転結が出来ているが

戦略的根拠と都合の良い側面を

修正していく必要がある。

どちらも形になっていないが

漠然と考えているだけでも

そういう時間は、楽しかったりする。



今回紹介する今日の一冊は

「東京難民」 著 福澤徹三

都内で大学生活を謳歌していた

主人公である時枝修が

度重なる学費未納により

(父親が事業に失敗して

仕送りどころか学費すら

払えずに夜逃げしてしまっていた)

大学を除籍されてしまうところから

物語は始まっていく。

大学生では無くなった修は

今まで当たり前にあったものを

次々と失っていく現実と直面し

そこから転がり落ちるように

日本社会、格差社会の闇へと

勢いよく飲み込まれていく。

最初は好意に相談に乗り

仕事を紹介してくれたり

住むところがないから、と自分の部屋に

居候させてくれた友人とも

相談に乗りながら献身的に

修を支えようと金銭的な

援助をしてくれた彼女との関係も

少しずつギクシャクしていく。

(絶望的な展開の中での早とちりは

仕方がないとはいえ、修にとっては

泣きっ面に蜂だよな、とは思う)

身分を失い、住む場所も失い

ネットカフェを転々としつつ

ポスティングから始まり

怪しげなテレアポにティッシュ配り

治験まで手を伸ばすことになるが

留置所にぶちこまれたりと

悲惨過ぎる日々で染まっていく。

ようやくまとまった金を手に入れても

街で話しかけられた瑠衣に騙されて

ホストクラブで多大な金を失うことになる。

そしてこれが修の一つの転機になる。

金を稼ぐために、修はホストに

転身することを決め働き始める。

そこで一人の男に出会う。

(正確にはホストクラブで

瑠衣と呑んでいる時に出会っているが)

月に百万を稼ぐと話す順矢だ。

彼は修を騙した瑠衣の彼氏であった。

(ただ瑠衣の働きで修に指名客が付くが

それが新たな問題に繋がっていく)

その後、紆余曲折があり

順矢と共に阿漕な日雇い土木の仕事で

働くことになり、新たな出会いを重ねていく。

しかし、再び瑠衣が火種になり

どうしょうもできない展開に巻き込まれる。

最終的に修はホームレスとしての

生活が始まり、その間に幾つもの選択を

強いられることになる……。

この小説を読んだ時、他人事じゃないな、と

恐怖に似た感情を抱いたのは忘れられない。

社会の闇の部分、決して日が差し込むことのない

昼間のノンフィクションにでも出てきそうな

内容は、無知だったボクには衝撃的であり

人間の怖さ、金という社会を回す潤滑油に対して

今まで持っていなかった概念が加わったのは

印象深く刻まれたし、何より物語の冒頭に

記された言葉は、最後まで読むと重たい。


きょうあるものは、あしたもあると思うものである。


体調が優れない中でも文章を紡ぐことに

盲目であれる自分がいることが

どうしょうもない今の中で

唯一差し込む光のようにすら感じている。

読むことも好きだけれども

やっぱり書くことも好きなのだと

改めて実感するボクは、まだまだ未熟だし

物書きとしての土俵にも入っていないだろう。

でも、こうして書く場所があり

キーボードを叩ける環境があるだけで

なんだか満ち足りた気持ちになるのは

不思議なものだ、なんてことを呟けば

青い、と言われてしまうのだろうか。

それでも構わない、青いと言われようが

ボクは好きなことを見つけられている。

あとは、盲目になれればいい。

言い訳なんて、後からどうでも言える。

だから、ボクは書くことを続けていく。


結婚式という明るい話題があるのに

今回の小説紹介で東京難民を選ぶ辺り

ボクは歪んでいるのだろう。

それが、ある意味、ボクの武器だと

誰にいう訳でもない自負をしている。

こういう根拠のない自信も必要でしょ?


朝比奈 ケイスケ

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