世襲とは何か

世襲とは何か

これから書くのはただのおとぎ話です
実在する団体組織への批判でも揶揄でもありません
ただこんなこともありかな的な寓話にすぎません
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今一人の名人がいます
Aさんとします
Aさんの特技は格闘技でもスポーツでも伝統芸能でも
囲碁将棋でも芸術でも学問でも宗教でも健康法でも
何でも好きに考えてもらって結構です
今まで誰も見たことがない技を連発するAさんの名声は
たちまち全国に広がり
Aさんに習いたいという人がたくさん集まります

さてXX年後 Aさんは惜しまれつつ亡くなります
Aさんはその弟子たちの組織「Aの会」の代表になっていました

Aの会の目的はAさんの教えを請うことですから
その目的はなくなりました
「Aの会は解散します
 会員は元の場所に帰ってそれぞれの道を歩みましょう」
となってもよさそうなのですが
Aの会は絶対に解散しません

Aの会は入会金や会費や講習授業料、
書籍物品販売で収益をあげています
Aの会の幹部職員たちはそこから給料を貰っています
Aの会を解散するとそれが全部無くなります
Aの会幹部職員も家庭があり子供がいます
いきなり無職無給になる訳にはいかないのです

Aの会を解散しないのは食っていくためですが
建前としては便利な言葉が多用されます
「A先生の御遺志を継ぐ」です
A先生の御遺志を継いでAの会は続けられます

ここで一つ問題が発生します
Aの会の新しい代表を誰にするかです
単純に考えると
Aの会の幹部で一番実力があるBさんが後継者になりそうです

しかし実力で後継者を選んでしまうと
これから先Aの会に分裂と反乱のリスクが残ります

Bさんに次ぐ実力のCさんDさんが不満を持ち
子飼いの会員をごっそり引き連れて退会し新団体を作ります
つまり分裂です

数年後若手のEさんが自分のほうが実力がある
自分のほうが代表にふさわしいと言い出します
つまり反乱です

実力で後継者を選ぶことにはこのようなリスクがあります
そのリスクを回避できるのが「世襲」です

A先生の未亡人が全会員の前に息子を立たせ
こう宣言します
「この子を新しい代表にします」
Aの会幹部のBさんCさんDさんにとってもこれは渡りに船です
分裂の危機が無くなります
まだ若いA先生の息子を自分たちが操縦していけばいいだけです
実権は自分たちにあります

そして平会員たちや世間一般も世襲には好印象です
なぜか世襲は歓迎されます
「さすがは御血筋です」みたいに

ここで重要なのはAの会の目的が
A先生の死去によって
「A先生の教えを請う」から
「いかにしてAの会を存続させるか」へ
変化していることです

こうして新代表が決まり
前途洋々に見えたAの会に
10年後予想もしない危機が訪れます

Aの会に入って数年というFさんがすごい才能を発揮します
A先生もできなかったような新技を次々に発表します
Aの会に入ってくる新人はみなFさん目当てです
幹部さんたちによる講習なんて見向きもしません
習いたいのはFさんからだけです

FさんはAの会にとって有益に見えますね
もしA先生がご存命であれば
Fさんを賞賛しFさんの登場を喜んだかもしれません

しかし思い出してください
現在のAの会の最大目的は
「いかにしてAの会を存続させるか」です
Fさんの存在がそれを脅かしています

「A先生による誰も真似ができない業績」
という大きな土台があるからこそ
新代表も幹部たちも安心してその上に座っていられます
Fさんが新技を一つ編み出すたびに
その土台に一つヒビが入ります

Fさんは代表と幹部たちの前に呼ばれ
こんな宣告を受けます
「君が開発した新技はAの会の教えに背くものです
 今後は新技をすべて禁止します
 この命令に反した場合は君を除名とします」

Fさんは驚き混乱し必死に弁明しますが
命令が覆ることはありませんでした

めでたし めでたし

(終わり)


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