絶望の中で 13話
彼女がいつもの場所で笑っていた。
人付き合いというものが苦手なボクのところにも、噂が届くくらい話は広がっている。
彼女はもう…と言う噂には誰でもいいから教えて欲しくて、声をかけてみようかと思ったが、出来なかった。
クラスが違うから、担任に聞いても無駄だと思ったし、ボクは以前の事からこの担任への感情は、苦手に変わったので話しかけたくも無くなった。
保健の先生はいつもの様に笑ってボクを迎えてくれた。
ボクにとっていい先生を紹介してくれたから、お礼を言いに行ったら、その後からすごく声をかけてくれる様になった。
鼓膜切開の話もした。
ちょっと怖くなって、情けないボクを見せたけれど、その時も安心をくれるように笑ってくれた。
だけれど、やっぱり彼女の事を聞く事は出来なかった。
司書先生は教えてくれるかもと思って、何度か話しかけようとしたけれど、どうでもいい話しか言葉に出来ない。
噂もしばらくすると消えてしまうので、もう誰にも聞くことが出来なくなった。
ボクはやっぱり、雷を怖がる子どもから成長していない。
「遅い」
「……ご、ごめんなさい」
懐かしい。
何度もしたやり取りを忘れずにいた。
司書先生は笑っている。
この流れはボクが何か面白い話しをしないといけないのかな。
そんな心配をしているボクに座ってと促す。
「大丈夫?」
司書先生が彼女に声をかける。
しっかりと頷いてボクに話しかける。
「この前…ごめんね」
彼女に初めて謝られたけど、本当はボクが謝らないといけないのに。
「…泣くしかできなくて。でも、泣くと疲れちゃって。だから泣くのをやめて、全ての感情を止めたの」
何の話だろうと思った。
「ゆっくり歩くの。疲れない様に。だから運動会も遠足も行かない。歌も小さい声で歌った。普通の生活するために、色々な事我慢した。だから喜ぶのも、怒るのも、悲しむのもやめた。疲れちゃうから…」
凄く辛そうな顔をしている。
「でもね、やだなぁって思ってた。皆んなが楽しそうなのも、悲しい時に大泣きするのも、喧嘩してるのでさえ羨ましい。そう思っちゃった」
だからボクを相手にその感情を出していたらしい。
「ありがとう。私の感情を受け止めてくれて、付き合ってくれて」
「ボクは…ごめんね。気がついてあげられなくて、助けてあげられなくて」
「ううん。だって私たち子どもだから、出来ない事ばっかりなんだから」
それから前の様に司書先生と3人で話しをした。
ボクも彼女も、大きく笑って、ちょっと言い合いもして、たくさん話をした。
最後にもうこの学校には来ない事、それから手術をする事を聞いた。
彼女の親が迎えに来たから、お別れをして司書先生と見送る。
ボクは少し泣いてしまった。
司書先生が見ていて恥ずかしい。
でも、彼女の為に泣くのは今だけしか出来ないからいいんだと思う。
今日は疲れた。
ベッドに入ると直ぐに眠りについた。
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