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月影の話

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月影一家のやや暗い目の話
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痛みを覚える日:寒空のこと(暁月)

痛みを覚える日:寒空のこと(暁月)

 痛みと言う奴は本来、《こんなに痛いのか》と、片手剣を握り直しながら考える。

 身体中が痛みと重さに苛まれていて走り回るだけでかなり辛いと思う。今頃、《俺の身体》はどの辺を彷徨いてるのやら。身体だけがふらふらしてるなら良いが悪い事に中身がよりによってゼノスなのでこのままモタモタしていては彼奴が俺のフリをしてキャンプ・ブロークングラスに辿り着いてしまう。そうなったら何をするか分からない。いや、大方

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表裏の縁Ⅲ:肆

表裏の縁Ⅲ:肆

 決めておいた日時。シロガネにある自宅ではレンや兄貴をはじめ同居人たちが例によって不在にしてくれている。雷刃だけは手伝いを兼ねて居残ってくれているが。今回は珍しくアドゥガンも出かけてくると冒険者の支度を済ませて出発していった。栗丸は兄貴が連れて行ったのであの子の心配もしなくていい。以前は刹の姿で出迎えさせてもらったが今日は分り切っているので初めから絶影の《支度》を済ませてあった。ただし玄関先へ出迎

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表裏の縁Ⅲ:参

表裏の縁Ⅲ:参

 久々に家に帰れるな、と思ったが一度、グリダニアの宿である止まり木に寄って身なりを刹に戻しておいた。普段よりも長く白髪でいたから黒髪が久々だ。ずっと《静観していた内側の絶影》もようやっと一息つけそうかとため息をついている。今回は俺自身が《絶影の演技》をする形での仕事中に起きた事件だったから片が付くまで俺が表にいたわけではある。が、《彼の方》も緊張と警戒をしながら過ごしていたから疲れたらしい。悪い事

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表裏の縁Ⅲ:弐

表裏の縁Ⅲ:弐

 「本当だな?」
「ええ。絶影本人から聞いたわ。」

《スピットファイヤ》が店にいない隙に、ボスに仕事の話があると猫目石の部屋に入って貰って話を伝える。《スピットファイヤ》自身はどこで何してるのか分からないけど。どこほっつき歩いてんのかしら。証拠らしい証拠が無いと言うこともキチンと話したけれど、ボスとしては《スピットファイヤ》に疑念があるようで恐らくは絶影の予測通り《スピットファイヤ》の仕業だろう

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表裏の縁Ⅲ:壱

表裏の縁Ⅲ:壱

 ターゲットを追い詰めて黙らせる。喉を掻っ切ってから胸を刺してそのまま腹へ縦に切り裂いた。悲鳴を出させない為の一撃の瞬間に、今日は聞いてないぞと絞り出したのが聞き取れていた。それだけが引っかかる。《今日は》聞いていない?何をだ?俺の仕事に関してなら《少し前でならば聞いていた》とも取れる言葉だ。やけに周囲を警戒して過ごしているなと思ったが何かしら、誰かしらと接触があったのか?もし《俺の情報》が漏れて

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表裏の縁Ⅱ:後編《紅蓮》

表裏の縁Ⅱ:後編《紅蓮》

 しっかり数日休みながら栗丸を構い倒して過ごした。

 ちょっと遠くまで散歩に行きたいだので休めたのかどうかやや疑問ではあるが仕事中のような緊張はしなかったからヨシとしよう。戦闘も避けておいたし、いくらか体も休まっているはずだ。家で過ごしている最中にモーグリから直接手紙を渡されたが、どうやら不滅隊の連中はあの下衆な坊ちゃんを正式に捕縛して独房へ放り込んだらしい。差出人は偽名になってるがスウィフト大

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表裏の縁Ⅱ:前編《紅蓮》

表裏の縁Ⅱ:前編《紅蓮》

 商売の邪魔をしたシェーダーのゴロツキをシメてくれと言う依頼を受けて、黒衣森のそう言う連中を少々調べて回る。

 あそこには元々、似我蜂団という盗賊連中が幅を利かせているんだがそれとは別の連中らしい。小規模な野党のような奴等でせいぜい十数人のだと。黒衣森をうろつきながら調べた限り地味な盗みしかしていないようでよほど似我蜂団の連中の方が質が悪いのだが依頼人が積荷をくすねられたのがその小規模な連中なの

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真夜中のコーヒー《漆黒》

真夜中のコーヒー《漆黒》

 ー刹。ー

 例のごとく眠れなくて、自室で仕方なく本を読んでいた時だ。頭に直接、そう声が聞こえてくる。俺とほとんど変わらない声。真夜中に声を掛けてくることは珍しいから少しだけ驚いて視線を本から持ち上げてしまう。

「……どうした?」

別に俺自身も口から声を出さなくてもいいのだが、誰も居ないのならばこうして返事をするのが常だった。もし誰か居て聞かれていたら、一人で見えない何かと話しているように見

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真夜中のコーヒー《漆黒》に出てきた人たち

真夜中のコーヒー《漆黒》に出てきた人たち

刹 月影(セツ ツキカゲ)

アウラ・ゼラ族の青年。表の顔は冒険者、裏の顔は復讐専門の殺し屋。冒険者としては忍者として活動することが多いが、あらゆる職種を齧るため、ほかの立ち回りもある程度は出来る。故郷で《忍びの真似事》を継承してきたため、通常の忍術以外に隠し武器や銃の心得もあるが、普段は冒険者に準じた忍者として行動する。目が悪く、自然光、人工光どちらにも弱いため、シェイデッドグラスを愛用する。至

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衝動、二つ

衝動、二つ

―おい、立て?休んでる場合かー

腹の底の方から発破をかけられる。疲れと負傷で膝をついていたところで、勘弁してくれよと苦笑してしまう。

―まだ足りないだろ?―

「……もう大分《喰い散らかした》ぞ。」

乱戦。
帝国の連中との小競り合いに、妖異が乱入してきて滅茶苦茶になっている。結構に惨状だ。大勢の人間が負傷し、死に絶えているし同じくらいの妖異が砕け散って還っていく。全体が同じように減っていくの

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冒険者のお仕事:空賊の追跡《漆黒》

冒険者のお仕事:空賊の追跡《漆黒》

 「それでその禄でもない空賊を捕まえてこいと?それを冒険者に頼むか。」
「人手不足なんだと思います……。」
「まあ武術鍛錬がてら受けるか。盗品も多いって話だったな。」
「らしいです。どこかにまとめて隠してるんでしょうけど。まさかいちいち船に積んで持ち歩いてないでしょうし。」
「燃料の浪費になるからな。」

イシュガルドの酒場。あまり治安がいいとは言えない貧民層の出入りが多い酒場、だったと言った方が

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影の素顔《紅蓮》に出てきた人

影の素顔《紅蓮》に出てきた人

狂い月の絶影(くるいづき の ぜつえい)

黒い仮面で顔を隠し、冴え冴えとした白髪をしたアウラゼラ族の黒服の男。名乗り名は狂い月の絶影。復讐専門の殺し屋を自称し、働きに対して相応の対価を支払うと事を成してくれる。復讐専門とは言うものの、それ以外を受けないという訳ではなく、情報収集や人質の救助なども請け負う。が、最優先されるのは復讐である。仕事の邪魔となれば無害な相手であろうと平気で始末する一方で、

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影の素顔《紅蓮》

影の素顔《紅蓮》

 よく抵抗する獲物だった。

 不意打ちで取り巻きは全員潰したが最も重要な獲物が非常に活きの良い奴だった。追い立てる分にはこの上なく楽しいが長時間の小競り合いは避けなくてはいけない。一切の物音を立てずに戦闘を行うのは現実としては不可能だからだ。真夜中でも激しい物音を立てては目を覚まして様子を見にくる奴や不穏と察して見回りに衛兵が来るかもしれない。だからそろそろ死んでもらいたいんだが、これはこれで面

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