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小説✳︎「月明かりで太陽は輝く」第38話


結里子ー目に焼き付けて

いよいよ引っ越しの日。
ケイの腕の中で目を覚ます。
ケイの眠る顔を見つめた。
しばらく会えない分
私の目に焼き付けておこう。
そう思いながら、じっと見ていたら
ふわーっと、頬にエクボが浮かんだ。
薄目を開けて,微笑むケイ。
「そんなに見つめたら、穴が開いちゃうよ」
「やだ。起きてたの?」
「今、目が覚めた。おはよう」
そしてケイは腕を伸ばして、私を抱きしめた。
「このままずっと
こうしていられたらいいのにな」
「それ、私が言いたかったのに」
笑い合った後に、少し淋しい気持ちが
また顔を出す。

チョビが、にゃーと鳴きながら
私たちの間に入り込む。
「チョビは、お腹すいちゃったか?
俺も、そろそろ支度をしないとな」
起き上がるケイ。

今日は、奇しくも8日。
職場の人は、何も言わずに
休みを取らせてくれる日。
少しでも一緒に居たいから
東京駅まで、見送ることにした。

荷造りと身支度をするケイ。
お互い言葉も、少なくなっていく。
チョビが、ケイの寝袋の中で
すやすやと寝ている。

「邪魔になるかもしれないけど
俺のもの少し残していっても良いかな?」
「もちろん。でも寝袋はチョビのものに
なっちゃうかもね」
「あはは。おしっこすんなよ」
大きく歯を見せるその笑顔も
切り取って記憶に残さなきゃ。

「じゃ、行こうか」
ケイは玄関に行き
私は後をついてきたチョビを抱き上げると
「ちょっと待って」とケイは
スーツケースからカメラを取り出して
「行ってきます」と言いながら
チョビを抱く私に向け、シャッターを押した。

「あ、私にもカメラ貸して!」
と、ケイの手からカメラを受け取り
「いってらっしゃい」と言って
シャッターを押した。
今朝、目に焼き付けた
その顔だけど写真にも
残してもらいたかった。
「この写真、パソコンに送ってね」
「いや、プリントするよ。そしてこれを渡すために帰ってこようかな?良い理由が出来ただろ?」
笑いながら言う。




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