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小説✳︎「月明かりで太陽は輝く」第27話

佳太ー心を伝える

僕が懐かしく感じた事。
記憶の奥の奥に触れるもの。
それは何か分からないけど
間違いではなかった。

それを見逃す事なく、気付かせてくれたのは
あの時、電車の中で鳴ったスマホの着信。
それは紘太さんだった。
彼もまた、自分がこんなに早くリコと別れなくてはならないとは思いも寄らなかっただろう。
僕をリコと引き合わせてくれたのは
紛れもなく、紘太さんだ。
「結里子の事。後は頼んだよ」
そう言われたような気がした。

引っ越しの準備もしていかなきゃならない。
リコと離れ離れになる前に、気持ちを伝える。

僕は決めた。
紘太さんにも応えるためにも。
自分の心を伝えて、しばらくはそばに居られなくなるけど必ず迎えに行くから。

たとえ彼女が、僕を必要としていなくても、大切に守ってくれる人が現れるまで
見守る事でもできる。

公園の池に、スワンボート。
子供の頃はあれに乗りたくて何度も
母に頼んだけど泳げない母は、ボートなんて絶対無理と乗せてくれなかったなぁ。

「スワンボート。乗ってみる?」
揺れるボートに乗り込む時に
僕はリコに手を差し伸べ
ぎゅっと握りしめた。
あの泥だらけの女の子の手が、大人になって
今度は握りしめる事になったんだ。

誘った割に思っていたよりボートの中は
狭くて、足をかけるのも大変だった。
「うまく漕げないもんだね」
苦笑いの僕に
「ケイにはサイズ的に、無理だったね」と
笑うリコ。

どうにか、池の真ん中まで来た。
水辺特有の、風が吹く。
「あのさ。俺、3ヶ月後に転勤が
決まったんだ」 
「え?」
「せっかく近くなれたのに。
リコのそばに居ようと決めたのに」
「そうなんだ…」
「俺はリコの側でずっと見守りたかった」
「ケイ」
「通勤電車の中で、初めて君の存在に気付いてからずっと俺は片想いをしてきた。
これからもずっと、リコのそばに居たいと思ってた。紘太さんの事は忘れられないだろうけど
それでも俺は、リコが好きで仕方ないんだ」


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#恋愛小説
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#心を伝える
#スワンボート
#井の頭公園

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