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小説✳︎「月明かりで太陽は輝く」第37話

佳太ー一歩前へ


その日から
僕はリコの部屋に
寝泊まりする事にした。
荷造りしたら、あとは寝袋で過ごそうと
思っていたし、彼女と一緒に居られる時間を
もっと増やしたかった。

彼女が夜勤で、僕の帰りが
早い時は,夕飯に腕を振るったり
逆に、僕より早く帰っていたリコが
食事を用意してくれたり。

あの日の泥団子は、美味しい手料理となり、ままごとみたいな一週間を過ごした。

いよいよ、引っ越す前日の夜。
ほのかな灯りの下
たとえ離れていても
心はすぐそばにいるから離れないからと。
淋しいと呟く、リコの顔を僕の手で包み込んだ。
心から愛おしいと思った。

新幹線に乗れば
郊外への移動と変わらない位の時間で済む。
でも、コロナ状況によっては
簡単ではないかもしれない。
何より、近くに居た毎日が
当たり前過ぎて明日からの生活に
慣れるのは、僕も時間がかかりそうだ。

その前にと
リコがお願いがあると言う。
「ケイの部屋の残りの荷物は
業者さんが、全て処分してくれるんだよね」
「うん、使えるものはリサイクルショップに
送られるらしいね」
「あの、これも一緒にお願いしても良い?」
リコはクロゼットの奥から
段ボールを出してきた。

あの時の……
紘太さんとの思い出が詰まった箱。

「いいの?」
「うん、思い出は心に残しておくから。
手放す事が出来なかったけど
前に進む一つとして決めたの。
私はケイと生きて行きたい」
「分かった。じゃあ、部屋に置いてくるね」
「うん」

僕の部屋の鍵を開けて
まとめた荷物の横に、そっと箱を置いた。
リコの気持ちは、これからも揺れ動くだろう。
それも僕は、受け止めよう。
僕自身も,また一歩前へ進むんだ。

その後、リコの部屋に戻って
僕たちは抱きしめ合い
手を繋いだまま、最後の夜を
一つになって眠った。


#創作大賞2023
#恋愛小説
#残ったもの
#思い出の箱
#心から愛おしい


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