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『新装版 間宮林蔵』を読んで、知識の大切さを想う

つながる旅行記#99や、宗谷岬でも登場した間宮林蔵

樺太の間宮海峡を発見した人』ということしか知らない自分だったが、Kindle Unlimitedにちょうどあった『新装版 間宮林蔵』をやっと読んだので感想を書いておこうと思う。

相変わらず吉村昭氏は良い本を書くなあ……。

これは史実を元にした小説なので、もちろん実際に起きたこととは多少の差異があると思われる。でもやはり小説は専門書よりも面白く伝える効果があることを実感した。

そしてこの本を読んでいて思ったのは知識の大切さだ。

なんだか読んでいる間、「(旅で)色々知っといてよかったわ~!!」と思うことが多々あったのである。


それは例えば地名

作中には各地の地名があれこれ出てくる。
もはや自分の出身県よりも北海道の地理のほうが詳しい自分は、位置関係もおおよそ正確に把握できる。なので実にスムーズに読めるのだ。

青森の地名もかなり出てくるが、自分は青森中毒者
三厩」も違和感なく読めるし場所もわかる。
読んでいて引っかかる部分が少ないこと!
なんて爽快な読書だろうか。


そして歴史的な出来事

例えばシャナ事件
#99でも登場した、択捉島にロシア人が襲撃してきた事件だ。
本作はその事件から始まる。
北海道を警備する津軽藩出身者やその病気についても出てきた。

ゴローニン事件も作中に登場する。これは函館の資料館的な場所で知っていた知識だ。当時の日本とロシアを語る上で重要な事件である。
もちろんシーボルト事件もしっかり登場する。伊能忠敬や間宮林蔵の作成した渾身の日本地図を含んだ物品を、国外に持ち出そうとした事件だ。
ああ、知ってるイベントばかりだと理解が早い!!


そして人名
林蔵の師匠の伊能忠敬を始めとして、高田屋嘉兵衛ゴローニン(ゴロブニン)シーボルト、一瞬だけ出る二宮敬作、シーボルト事件に関わりの深い高橋作左衛門
これまた知っていると理解が進むし楽しい!!


そして民族
#99でも展示があったが、樺太には多数の民族が居たのだ。
アイヌだけでなく、オロッコギリヤークサンタン(山丹)
その知識も得ていたのでここもまた面白く読めた。
もちろん小説的な脚色もあるのかもだが、山丹人が怖すぎてヤバい。


まさか間宮林蔵の本を読む際に、こんなにあれやこれやの雑多な知識が活きてくるとは。

やっぱり知識の蓄積は大事なのだ。

そして知識がなければ、同じ本から吸収できる事柄や、読んだあとの感想にも圧倒的な差が生まれるのを自覚した。

こりゃ頭が良い人は、確実に自分とは違う世界が見えているのだろう……。

そして、雑多な点のような知識を色々仕入れたら、それらの知識を繋げて一つの線に出来るような本や動画を見るのが大事なんだな……!

……いや、「それ今更気づいたの?」と思わなくもないが。


なんだか本の内容を全然書いてない気がしたので、それについて書いていこうと思う。

タイトルの通り、これは間宮林蔵の人生を書いた小説だ。

あとがきを見るに、史実の資料にちゃんと当たって書かれたものらしい。
しかし間宮林蔵は謎が多い人物らしく、なかなか大変だったようだ。


序盤はいきなり戦闘シーンから始まり、当時鎖国下の日本が置かれた外国船になすすべもない状況が語られる。

二度の樺太探検においては、自分が想像していたより圧倒的に過酷な様子が描写され、「山丹人に襲われるから行きたくない!」と怯える同行アイヌの様子や自然の厳しさなど、自分の想像力の浅さに気付かされる。

前人未到の場所に当時の環境で向かうのは相当なことなのだ。
いやまあ前人未到というか「ヒト」はいるのだが、言葉は通じないし襲いかかってくるわけで。そして蚊やアブも相当なものだっただろう。

リアリティのある描写を小説でしてくれたことで、年表からじゃわからない間宮林蔵の旅の様子が理解できた気がした。

(自分の想像力では水曜どうでしょうのユーコン川が浮かぶけど)


また、伊能忠敬と間宮林蔵の師弟関係もまた素晴らしかった。
日本地図=伊能忠敬という認識だったが、どうやらこれは改めなければならないだろう。間宮林蔵の活躍も含めて、日本地図は完成したといえる。
しかし伊能忠敬も良い弟子を持てて嬉しかったんだろうな……。


そんな一大事業を成し遂げて幕府からも認められた間宮林蔵だが、後半は幕府の隠密として活躍する。だがシーボルト事件に関する世間の風評にしだいに追い詰められてしまうのだ。
小説ではあるが、なんとも世間の人間は勝手なことをいうものだなと思ってしまう。この小説の刊行は1987年だが、昔も今も勝手なことをいう人がいるのは変わらないのだろう。


そして最後はなんとも儚い感じで終わる。

日本中を旅して、あまり実家にも帰れなかった林蔵。
生家は朽ち果てており、生涯結婚することもなく、最後はお手伝いさんに看取られることとなる。

だが林蔵は自分のやるべきことをしっかり成し遂げた人生なのだ。
人生で全ての物事を完璧に成し遂げられる人間などいない。
達成できないことは出てきてしまうもの。

それに林蔵の偉業はそうそう成し遂げられるものではない。

紛れもなく、日本が誇るべき偉人だろう。


新装版 間宮林蔵』。
一人の人間の生き様を知れる素晴らしい本だった。

それと同時に、積み上げてきた雑多な知識の大切さもわかった。

今後も無駄にあれこれ蓄積していこう。
相変わらずたくさんこぼれ落ちていくだろうけど。


皆さんも、興味があればぜひご一読を。


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