【つながる旅行記#10】in函館 恵山登山の行方と函館の人情
いよいよここから登山が始まる。
時刻は16時20分。
登山道は白い。
自分の人生で始めての体験だ。
こんなに荒々しい山を登ったことは無かった。
しかしこれが麓から1時間歩けば見られる景色だとは。
素晴らしい。
落石だろうか。道端に巨大な岩がある。
直撃したらヤバい大きさだ。
いやもうなんというか……すごい景色だ。
荒々しさと緑のこの感じ。
良いなあ。
来てよかったなあ……!
山肌には薄っすらと黄色いものが見える。
硫黄だろうか。
道はだんだんと荒々しさを増していく。
なんだろう、自分は今生きてるって感じがする!
ずっと引きこもってアウトドア経験など皆無だったせいか、こういうものを見たときの感動が限界突破しているようだ。
もう全てが美しい。
来てよかった。
本当に来てよかったなあ……!
美しさと険しさでクラクラしそうだが、山頂を目指して歩き続ける。
正直疲れとかより感動が勝っているのでガンガン行ける。
高度が上がるほどに見えてくる美しい周囲の風景に感動しっぱなしだが、いきなり道のド真ん中に巨大な岩が出現した。
油断は禁物。
今の自分に急な落石があったら、避けられずに直撃する自信がある。
気を引き締めていこう。
なんだかシャーマンキングで見た恐山の雰囲気っぽくなってきた。
そこらへんに風車が刺さっていてもおかしくはない。
なんだか登るにつれて風も強くなってきたし、もし風車があったら盛大に回転してそこら中で音を立てていたことだろう。
※Nexus5での動画。あまりのグニャグニャ感に震える。これが当時のスマホの限界だったというのか。
登って登って、いよいよ山頂付近に近づくと、逆に緑が現れた。
本当に飽きさせない山だ。
そしてたどり着く。
山頂に到着。
時刻は17時ジャスト。
遊歩道の辺りから40分ほどで山頂に着いたことになる。
バスで着いた麓の登山開始地点からだと、1時間30分ほどで山頂か。
頂上にはセミがいた。
そう、今は夏だ。
良い夏の想い出が出来た。
帰ろう。
恵山。
素晴らしい山だった。
また絶対に来よう。
さて、徒歩で来た自分は帰り道も徒歩だ。
見下ろすとスケボーでもあったら楽なんじゃないかと思うほどのつづら折りの坂道。
とはいえ実際にスケボーを使ったら確実にコケる自信がある。
そもそもスケボーに乗ったことがない。
下山完了。
バス停に戻ってきた。
時刻は18時30分。
往復3時間でここまで戻ってこれた。
そして目にする。
バスの時刻表を。
平日のバス運行時間
18時13分
19時38分
ふむ……?
どうやら18時のバスはもう存在しないらしい。
となると今から1時間待たなければならないのか……。
いやしかし、もし山頂でダラダラとティータイムを過ごしていたら最終便に間に合わなかった可能性があったわけだ。
今更ながらに恐怖した。
最悪タクシーで帰るにしてもいったいいくらかかるんだ。
(調べたら1万円は余裕で超える)
さて、ここでみなさんならどうするだろうか。
近くには自販機くらいしかないこの場所で1時間待ってバスに乗る?
真っ当な人ならそうするのがいいかもしれない。
しかし自分はそうしなかった。
「ちょっと……歩いてみようかな」
そう、歩いたのである。
恵山から函館に向かうバスは海沿いのルートを通る。
つまり、海沿いを歩いているぶんにはバス停を逃すことはないはず。
せっかくお金をかけてここまで来たのだ。
恵山近辺の海沿いの景色も見ておかなければもったいない。
そうそう来れる場所ではないのだから。
海沿いを歩いていると今日の登山を思い出す。
登れそうにないと最初は思っていた、遠くに見える恵山。
しかしやってみたら意外にできるもの。
そして山頂から見えた美しい風景。
自分はこんな場所があることも知らず、一体どれだけの人生を浪費してきたのか……。
いや、感傷的になってはいけない。
自分の人生はようやく始まったのだ。
これから先も、自分の知らない景色をどんどん見に行けば良い。
たとえ残念な過去があろうと、これから頑張れば……。
気がつけばうつむきがちに歩いている自分が居た。
そしてそのとき、自分の横に唐突に軽トラックが停止した。
ななななんだ?と思ったら、車の窓が開く。
「兄ちゃんどうしたんだい?・・・乗ってく?」
どうやら優しい一般住民だったようだ。
自分がいまにも死にそうな気配を感じて止まってくれたのかもしれない。
なにせ今まで歩いていても自分以外は誰も道を歩いていなかったのだから。
この道を、こんな時間に、トボトボと歩いている男……これはただ事ではない。そう思って……?
いや、よく考えれば今の自分めっちゃ不審者じゃないか……?
ま、まあそんなことは置いておこう。
乗ってくかと言われてしまっては答えは一つだ。
「はい!!!」
普通に乗った。
どうやらこの心優しいおじさんは温泉に行くらしい。
正直な所、代わり映えのない海沿いの景色にちょっと飽きていた。
どこかスポットに行けるのなら願ったり叶ったりだ。
車内にて、自分が恵山に登ってきたこと、そしてその素晴らしさについて話すと、少しおじさんが嬉しそうな表情になった気がした。
到着したのはふれあい湯遊館。
この付近の住民にとっての憩いの場なのだろう。
おじさんにお礼を言って別れる。
残念ながら自分は温泉に入るわけにはいかない。
次のバスを逃したら終わりである。
なにせまだ函館駅までは30kmあるのだから。
すっかり日もくれた。
っていうかぶっちゃけ怖い。
バス停に着いた。
しかしおじさんのおかげで高速移動出来たことにより、バスの到着時間まではまだまだ余裕がある。
ただ待つか、それとももう少しだけ恐怖のナイトウォークを楽しむか……。
もうちょっとナイトウォークを楽しむことにした。
思えば自分はこうやって夜に歩くことも全然なかったなと思う。
いや普通の人はそうそう夜道なんて歩かないし、今歩いている自分はこの地域の人から見るともう完全に不審者な気がしないでもないけれど。
そんな感じで歩き続け、いよいよバスの時間が近づいた。
これでバスが来なかったら完全に終了なのだが、無事にバスは来た。
日本の公共交通機関は優秀だ。
時刻は20時20分。
すっかり夜である。
思えば山に登り、下山して、親切なおじさんに会って、夜道に恐怖して……これがたった5時間の間に起こったことなのか。
ニートの頃、5時間どころか一日があっという間に過ぎていった日々を思い出す。
やはり引きこもっていては何も始まらないのだ。
自分は今が一番充実している。
こんな人生がずっと続いたらどんなに良いだろう。
揺れるバスの中で、そんなことを思ったのだった。
次回↓
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