ダニの本で思った以上に学べた記録【ダニが刺したら穴2つは本当か?】
長い物語を読み終わったときの達成感は凄い。それはわかる。
しかしながら、読書に慣れていないとぶっちゃけ長編はきつい。
最近『死都日本』を読んで、「火山って怖いなあ」という小学生並みな感想を得たが、読み終わるまでに計8時間くらいかかったと思う。
もちろん風呂で読んでいるので、手がもうふにゃふにゃのシワシワである。
電子書籍で買ったのでよくわかっていなかったが、紙だと文庫で600ページあったらしい。(そりゃきついわけだ)
そんな自分に一服の清涼剤のように登場した本がこちら。
『ダニが刺したら穴2つは本当か?』である。
何が良いって「薄い」のが良い。
いや内容の話ではなく、ページ数の話だ。
この本は約120ページという非常に読みやすいページ数で写真もいっぱい。
そう、今の自分はこういう本を求めてたんだよな……!
(ダニにはとくに興味無いけど)
本を開いて最初に目にしたのは、細密画で描かれた沢山のダニのページだ。
著者は言う。
「落ち着いてその姿をよく見てみれば、どのダニも個性的な姿をしていて、まるで着飾った紳士淑女のようではないか」
……なるほど。独特な感性をお持ちのようだ。
自分には正直「化け物大集合」に思えてしまうのだが、
愛情は見ている世界を変えるっていうしな……。
思えば自分も、昔は『ジョジョの奇妙な冒険』を絵柄で避けていたが、今は原作を全部読んでアニメまで見るようになった。
もしかしたらこの本を読み終わる頃には、自分もダニを愛せるようになっているのかもしれない。
さて、紳士淑女に見えるかどうかはともかく、世界に2万種、日本に2000種いるというダニたち。
しかし、マダニのように危険なものは日本では20種くらいだという。
基本的には無害な小さい生物なのだ。
例えばベンチに座ったときによ~く見ると居たりする、1mmくらいの赤い虫はカベアナタカラダニという。(花粉を食べているらしい)
そして本の中ではこんなダニたちの電子顕微鏡写真が載っている。
その中で自分が「おお!!」と思ったのが、ホシモンカザリダニだ。
体長0.3mmで、体には星型の模様があるのが特徴。
走査型電子顕微鏡の写真を見ると、見事に☆になっているのがわかる。
ジョジョに登場していないのが不思議なくらいだ。
ツイッターにも画像があった。
っていうか著者のツイートだった。
研究者もSNSをどんどん活用する時代なのだ。
そして話はチーズに飛ぶ。
皆さんはダニが関わっているチーズがあることを知っているだろうか?
そのチーズの名前はミモレット。
チーズダニが住み着いており、表面はボコボコしている。
その部分は不味いらしいので、食べるのはオレンジ色の中身だけ。
色々なサイトを見るに、
ダニによって良い香りがつくとか、
ダニがカビを食べてくれるとか、
ダニのおかげでコクと旨みがうんたらかんたらとか、
なにやらダニの影響力はすごいようだ。
……しかし、著者の意見はこれらとは異なる。
「ダニの外分泌物質はチーズに何ら影響を与えていません」
「カビみたいに内部まで影響を与えているとも思えません」
そう、著者らの研究によって、ダニが直接的にチーズを美味しくしたわけではないことは証明されたらしい。
だが実際のところ、ダニの居るチーズの方が美味しいという事実がある。
で、著者の結論としては……
チーズとダニが共生できるということは、貯蔵庫の環境が一定に保たれている証拠であり、丁寧に管理されているということ。
つまり、
手間と愛情を注いで丁寧に管理してるチーズは美味しい!
なるほど!!!!
さて、話はトキへと移る。
学名はNipponia nippon。
日本すぎる学名である。
しかし御存知の通り、日本のトキは絶滅してしまった。
その後、中国からトキを持ってきて繁殖させ、今に至る。
なんでダニの本でトキの話をしとるんだと思う人も居るだろう。
実は鳥にはダニがついているものなのだ。
「ウモウダニ」と呼ばれるそれらは、鳥の羽にしがみついて、羽の油かなにかを食べて生きている。
これは鳥にとってもメリットがあり、革靴を手入れする際に汚れや油を落としたあとにクリームを塗るのと同じで、古い油脂をダニが食べてくれることで、鳥は新しい油脂で体を覆うことが出来るのだ。
そんなウモウダニの一種に、「トキウモウダニ」というものがいる。
名前の通り、トキにくっつくことに特化したダニである。
ではそんなトキ用に進化したダニは、トキが絶滅したらどうなるのか。
著者らは2020年に、佐渡島のトキ保護センターで繁殖された中国産トキの羽にトキウモウダニが居るかを調査した。
結果は……一匹も見つからなかった。(他種のウモウダニは居たが)
日本のトキの絶滅とともに、トキウモウダニも絶滅してしまったのだ。
あくまでも中国のトキは中国のトキであって、日本のトキと共に生きていたトキウモウダニとの関わりは無かった。
特定の生物と共生するための進化を遂げてきた生物は、その種が絶滅すると自分も絶滅するしかないのである。
こういった例はトキだけではなく、レッドリストに掲載されているアマミノクロウサギなどにも特定の宿主限定のダニは確認されており、同様の事態になる可能性がある。
当時中国トキの繁殖の件を聞いて、「絶滅は悲しいけど、同じ生物が繁殖したんだから良かった良かった!」なんて自分は思っていたが、そんな単純な話ではなかったのだ……。
そして今、ブータンでシロハラサギが日本のトキと同じような危機に瀕している。
残り25羽となったシロハラサギは、果たしてどうなるのだろうか……。
……すごい。
120ページで、しかもダニの本で、こんなに学びがあるとは。
もちろんここに載せたのは一部なので、是非とも興味が湧いた方は他の部分も読んでみて欲しい。
読んでみて、ダニへの愛は著者ほどには湧いて来なかったが、ダニの生物としての面白さはかなり実感できたと思う。
しかしやはり生物と環境の話は、知れば知るほど奥が深すぎて実態がつかめなくなってくる。
これに日々向き合っている研究者の方々には頭が下がる思いだ。
何気なく手に取った本だったが、思った以上にいい体験が出来た。
重厚でページ数の多い名著もいいが、こういうすぐ読める本も素晴らしい。
これからも節操なく色んな本を読んでいこう。
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