『スーツ=軍服⁉』(改訂版)第71回
『スーツ=軍服⁉』(改訂版)連載71回 辻元よしふみ、辻元玲子
◆サッカーのユニフォームの色
四年に一度のサッカーW杯といえば、色とりどりの各国代表のユニフォームが思い浮かぶ。
FIFA(国際サッカー連盟)が成立して近代サッカーのルールが確立するのが一九〇四年、第一回W杯が一九三〇年のことだ。その時期から、各国の代表チームはチームカラーを決めるようになった。
大抵は、国旗の配色がチームカラーに選ばれる。たとえば二〇一四年のブラジルW杯、一次リーグで日本代表とぶつかったコートジボワール代表はオレンジ色だったが、これは国旗にあるサバンナの大地の色を示した。ギリシャ代表のホーム用は白、アウェイ用は青だが、これも国旗の色で、オスマン帝国からの独立運動の時の旗印が起源だという。コロンビア代表は黄色・青・赤を配するが、これは黄色が黄金、青がカリブ海、赤が独立戦争の際の流血を示すのだとか。それぞれいい加減な制定ではなく、国の歴史とプライドを背負っているわけだ。
二〇二二年のカタールW杯で日本代表と同じグループに入ったコスタリカは、赤いシャツに青いショーツ、白いソックスというのがメインの配色だった。これも国旗にちなんだ配色で、この国はフランス革命の影響下でスペインから独立した国なので、フランス共和国の三色、赤・白・青にちなんでいる。スペインは赤と黄色を基調とするが、これは十八世紀に決めた軍艦旗の色から国旗に昇格して今に至っているという。
最も古いサッカーチーム、イングランド代表の白と赤は、国旗の色でもあるが、十五世紀の薔薇戦争のランカスター家とヨーク家を示している。イタリア代表は国旗の色ではない青だ。これはかつて、イタリア王国を治めていたサヴォイア王家の紋章(白地に赤い十字)を目立たせるために、地色を青にした名残だという。もちろん今のユニフォームに王家の紋章は入っていない。ドイツ代表が白、黒、赤を基調とするのは、現在の国旗の色(黒・赤・金)ではなくかつてのプロイセン王国(白・黒)およびドイツ帝国(白・黒・赤)を表していたからである。オランダ代表のオレンジ色は、オラニエ(Oranje)王家の色から。オラニエ王家の名は本来、ケルト神話の女神アラウジオArausioが語源なのだが、やがて発音が似ているためにオレンジと混同され、王家の色、さらにユニフォームの色にまでなった。
さてでは、日本代表のサムライ・ブルーは? これも国旗の色ではない。どうもこれは、たまたま最初に日本代表チームになった東京帝国大学蹴球部のチームカラーが青系の色だった、というのが起源のようである。八八年に、一時的に国旗の色の赤色にしたことがあるが、成績がふるわず元に戻された。これは実は不思議なことである。対戦競技の場合、心理学的には、赤いユニフォームの方が勝率が高い、というデータがある。古来、ローマ軍団やイギリス軍、あるいは武田信玄や真田幸村の軍勢の統一色が赤だったのも、それが理由であることは間違いない。日本代表チームはなぜか、青い方が力を発揮するようである。
日本代表チームのシンボルマークの八咫烏は、古事記や日本書紀に出てくる伝説の鳥で、神武天皇に勝利をもたらしたとされる。日本にサッカーを紹介した中村覚之助氏(一八七八~一九〇六)にちなみ、彼の出身地の熊野大社の使いである八咫烏が採用されたといわれている。
このように、どこの国の代表も、一国の歴史と誇りをかけてユニフォームを制定している。そんな背景に思いを寄せて試合を見るのも興味深い。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?