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つれづれ完結済ジャンプ漫画感想記録vol.1 めだかボックス(全22巻)

人を見 人を知るたび 私は人間に憧れてきた
私は人間が大好きです!

めだかボックス 21巻


学園異能インフレ言語バトル漫画、らしい(最終巻原作者あとがきより)。

本作を私なりに軽く表現するのならば、「少年漫画好きな捻くれ者が書いた少年漫画」だ。とにかく拗らせている。

 原作者が西尾維新と言うことで、持ち味である奇妙な言葉遊びや掛合い、突飛なネーミング、饒舌な会話劇なども魅力だが、本作は何より、「能力バトル漫画」である。それもかなり奇矯で奇天烈な。

 西尾維新が漫画好き、というかデビュー前に漫画家を志望していたというのは割かし有名な話だと思う。あとは、ユリイカ(手元にあるが陰陽元参照するの面倒なのでパス)では自身に影響を最も与えたものとして「少女漫画的な物」をあげている。確かに、漫画に色濃く影響を受けているからか、やたらと饒舌な語りや装飾過多なキャラ描写は小説というより漫画的で、だからこそゼロ年代では新世代のライトノベル作家として脚光を浴びたのかもしれない。あー、わたしは当時小学生か幼稚園生なので良く知らないが兎に角そういうことらしい。

 本作の主な舞台は、「箱庭学園」。(正しく箱庭のような学園にそのままのネーミングを投じる辺りが最高に西尾維新らしい)学園モノだ。ジャンプ漫画のお家芸なのか、最初は登場人物たちの顔見せのようにお悩み相談問題解決から始まった物語は、黒神めだかという完璧超人率いる生徒会執行部なる異能集団と学園の暗部に潜む者の異能バトルの色彩を帯びていく。僅か三巻にして日常編は終わり、人為的天才を作る「フラスコ計画」の実験台や首謀者、果ては兆年の時を生き一京のスキル(異能のようなもの)を有する安心院なじみなる黒幕的存在との「戦い」へと、物語は驚異的なスピードで変貌を遂げていく。正しくインフレ。書いていて訳が分からなくなってくる。

 だが、けして本作の筋は無軌道なわけではない。寧ろ王道だ。でなければ強者ひしめくジャンプで中堅作品とは言え四年も連載し続けるなどできないだろう。王道に対する逆張り的な解釈をするまでもなく、本作のプロットはとても優れていると感じた(こういう読みを擦る辺りが少年の心が薄れているのを感じる所以でもない)。

日常編→フラスコ計画編→戦挙編→後継者選び編……、と、ご丁寧に新キャラを出し、その度に編を区切り、盛り上げるところは盛り上げ、嘗ての敵を仲間にし……若いし和解し……正しくこの構造は、「王道少年漫画」だろう。

 だがその一方で、本作はこれ以上ないほどに捻くれてもいる。というか、ひねくれ過ぎだ。前述したようなインフレ要素もそうだが、とにかく登場人物たちが「漫画」や「物語そのもの」を擦る。メタ発言やパロネタも多く、既存の物語の王道に冷や水を浴びせかけるような展開も多々あるだけに、万人にお薦めできるかというとそれは定かではない。ジャンルを瓦解させかねないほどの逸脱である。

『目の前にいる僕を無視するなんて酷いなあ これは週刊少年ジャンプだったら規制されかねないいじめの描写だよ』

めだかボックス 10巻

 だから見てな アニメが始まる前に 僕がこの漫画を終わらせてあげるぜ

めだかボックス 15巻

 なかでも本作において最高に歪んでいるのは「球磨川禊」というキャラクターだ。こいつは一体何なのか。「生まれながらに負けている」という点では戯言シリーズ(今度新刊が出る)の主人公のいーちゃんを彷彿とさせるが、球磨川の行動原理はいーちゃんと似ているようでいて決定的に異なる。

実際のところ。
ぼくは傍観者ではなく、
敗北者だったのかもしれない。
ただの惨めで悲惨な敗北者。
だからぼくはいつからか、疑問に対して明確な答えを出すことに積極的でなくなった。消極的になったというより、疑問に対して無気力になったのだ。

クビシメロマンチスト

 あいつらに勝ちたい
 (中略)
 嫌われ者でも! 憎まれっ子でも! やられ役でも!
 主役を張れるって証明したい‼

めだかボックス 10巻

いーちゃんと球磨川禊の明白な差異は、行動の有無、というか正しく価値観にある。同じようなものを抱えながらも、敗けていながらも、球磨川はどこまでも突き進み、戦い続ける。そして負け続ける。人気投票一位も頷ける。本作の歪みや歪(ひず)みを象徴するようなキャラクターだからだ。「なかったことにする」異能『大噓憑き(オールフィクション)』も彼のキャラクターにそぐったもので、センスに脱帽する。また、球磨川の台詞には『』が付いていたり(嘘という意味)、他にも、財部依真という女子は「球磨川のバカ」というように喋ったりと、こういう視覚的な面白さも追及して暮れる(誤変換)辺りが『ライトノベル』作家としてのキャリアを感じさせられ、とても良かった。物語終盤の「言葉使い」たちとの戦いなどは西尾維新先生の得意とする言葉遊びの極北のようなもので、最高に中二心を刺激された。純粋に面白い。

そもそも、「異常性」(アブノーマル)だとか「過負荷」(マイナス)のような自身の剣呑で異常な特性を、本作のキャラクターは受け入れ、個性として抱え、絢爛豪華な戦いを繰り広げる。自らの異様をそのままで肯定する。その威容は本作の抱える痛々しさ、漫画の持つ根本的な幼稚さ、未成熟さを幾ばくか軽減せしめる効果を孕んでいると思う。格好良く(右翼)、それでいて洒脱で、面白い漫画だった。ある意味では何よりも王道漫画としての志を秘めた挑戦的な作品である。

 コミュニケーション、人との関りの大切さを登場人物に何度も語らせるのも、戯言などの過去作が抱えていた「きみぼく」的閉じた世界からの脱却を感じさせ(本作の主人公コンビはいい意味で仲たがいする)、なんだろう、西尾維新の技量の幅広さというか少年漫画の愛とかひしひしと感じました。

 このくらいかな。好きなキャラクターは名瀬妖歌ちゃんです……。


 …………。

 冒頭に書き忘れたのだけど、ジャンプ漫画のストックが大分あるので(大分前のセールで大人買いした)、折角だから読んだ感想を書き綴っていこうと思う。ジャンプから漫画を本格的に読み始めたものとしては原点回帰。適当に更新します。

①週刊少年ジャンプで連載した作品であること
②完結済作品であること
③面倒なので略

comicspaceなる漫画記録用アプリを最近始めました。なかなか使いやすく、ベスト作品なども登録でき便利なので使ってみてはいかがでしょう。では。


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