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TABU tabloid

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共同主宰・たかやまのアート・レポートなど *tabloidはメンバー個人が作成するマガジンです。 *マガジントップ画像:齊藤智史氏の“イシキ”より
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#ART

透けているけど、明らかにそこにあるもの。

川端さんの絵は藝大の学部時代から拝見していて いつもその精緻な鉛筆の表現に驚嘆してきた。 しかしながら、川端さんはただ正確に対象物を描くということではなく 人と人(あるいは対象となるもの)との間に横たわる相互作用の不全を描いている印象がある。 歪んだ(あるいは歪められた)目元。その視線は行く先を失い、 見るものもキャンバス上の人物の目線を捉えることはできない。 やがてその視線が捉えたであろう人物たちが、霞の向こうに現れる。 けっして焦点が合うことはなく、ディテールは定かでは

誰かに違いない「彼女」たち。

江口寿史 イラストレーション展「彼女」 千葉県立美術館に江口寿史イラストレーション展「彼女 〜世界の誰にも描けない君の絵を描いている〜」を見に行った。 いやぁ遠かった。 約500点もの作品が展示されている。 いろいろと引っかかるものはあったのだが、 “ライブドローイング”のドキュメンタリー映像がまずもって面白かった。 目から描く場合があるかと思えば、髪から書き始めるときもある。 どの絵も江口寿史の中にある“彼女”なのだが、 ペン先(おそらくボールペンの類)の微妙なタッチ

時空冷凍庫から取り出された、解凍できないメッセージ。

キンマキさんの画をはじめて拝見したのは、五美大展だった。 「木を見て森を見ず」という作品である。渓谷の河原に、豆粒のような人物たちが描かれている。自然の大きさを感じさせる画だ。もう一枚のキャンバスには、その人物たちがバーベキューをしているシーンが描かれている。背後に川が流れている。そしてもう一枚。今度はバーベキューの網の上がクローズアップされている。バーベキューをやっている人物のスニーカーがわずかに描かれている。 あたかもドローンで空に舞い上がったごとく、あるいは河川敷数十セ

洞窟と窓。あるいは夢について。

移転後のTAKU SOMETANI GALLERYに初めて伺って、内田麗奈さんの個展「クロマニヨンの夢」を拝見した。 内田麗奈さんは、2019に東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻(油画第一研究室)を修了し、現在は、東京藝術大学油画科助手を務めている作家だ。 壁にかかるベロア生地を支持体としたカーテンのようなものは、洞窟壁画をイメージしたものだとか。内田さんにとってカーテンは瞼のようなものであるらしい。 閉じているカーテンを洞窟壁画に見立て、そのカーテンの影に隠れている窓

子どもの頃と交信する、私小説のような作品たち。

上北沢にあるギャラリー「Open Letter」で室井悠輔さんの「Bサイ教育」(会期終了) という展示を見た。室井さんは1990年、群馬県生まれ。2019年に東京藝術大学大学院美術研究科グローバルアートプラクティス専攻を修了した作家だ。 それにしても、いつも「Open Letter」にお邪魔するのは、展示最終日になってしまう。なぜだろう。 ま、それはともかくまずは、室井さんのステートメントから言葉を抜き出してみよう。 室井さんの展示作品数は、このギャラリーとしては多い方

見えているけど分かってはいない。あるいは見たつもりで見えていない。

【第70回 東京藝術大学卒業・修了作品展】 川端健太さん(東京藝術大学美術研究科油画技法材料研究室)の作品「Untitled」 「ご無沙汰しています」 そう川端さんから声をかけられた。 びっくりした。学部の卒展のときにお話も聞いたし、たまたま外部の先生が、川端さんの画を講評する場にも居合わせたりしたものだから、その精緻な鉛筆の筆致とともに、私にとっては忘れられない作家さんだった。 今回も、絵画棟で、あ、川端さんの画だと思って、誰もいない部屋に見に入ってしばらく、川端さんが戻

生贄にされた羊の話。

この砂の一粒のような私のnoteでも、多少なりとも見ていただけている記事がある。それが、アーティストの林菜穂さんが、東京藝術大学大学院修了展で見せてくれた「昨日の今日のあしたの日」という展示を観たことの感想のような駄文「羊をめぐる考察。」だ。実は、私のnote記事の中で、全期間を通してダントツのビューを誇っている。 その後も林さんの展示の話は見聞きしたし、ぜひ、観たいと思っていたのだが、すっかりコロナ引っ込み思案となり、さまざまな展示から足が遠のいていた。 少しリハビリを

まさゆめに佇む。

(この記事のヘッダー画像は、公式サイトから借用しました。Photo: KOBAYASHI Sora) オリンピック憲章は、 オリンピック・パラリンピックの開催にあたり、教育を含めた文化オリンピアード(文化プログラム)の実施を義務づけている。 つまりオリンピック・パラリンピックは、いささか商業的過ぎるとしても、スポーツと“文化”の祭典なのだ(開催の是非については、ここでは触れない)。 大成功と謳われたロンドン大会(2012年)では、北京オリンピック終了後からの四年間で文化プ

風にゆらぐ静かな絵画たち。

ロバート・ボシシオ「BEYOND」展 104GALERIE 池尻大橋まで歩いた。 それは、私にとってはさしたる距離でもなく、 とても日常的な行為だけれども、 お金で時間を買う行いのほうが自然な忙しい人たちにとっては 不可解な行動かもしれない。 私にとっては、歩く間に、余計な考えが徐々に削ぎ落とされ、鑑賞に向かっていく感じがまたよいのだ。 週末にギャラリーをいくつも回ろうとしているときなどは、 そうもいかないことが多いのだけれど、 今回は、ロバート・ボシシオだけを見に行く。

複眼的なひとつのせかい。

小西景子「水の影、光の粒子」 染谷さんのギャラリーに最初に伺ったのは 三瓶玲奈さんとやましたあつこさんの展示のときだった。 このとき、実は会期に間に合わず、 三瓶さんから教えていただき、染谷さんと連絡をとって 会期後にギャラリーを開けていただいて拝見した。 ・ 四階まで階段を登り(エレベーターはない、しかもなかなかに急な階段だ)、ドアを開けると、染谷さんが時間に合わせて待っていてくれた。 ・ もちろん目的は、 三瓶さんとやましたさんの合作展を拝見することだったが、 染谷さん

静謐な世界にざわつく気持ち。

髙木大地さん個展「Light, colour, outlines」 初めて拝見した。 2010年に多摩美術大学大学院美術研究科修士課程を修了した作家で、 「DOMANI・明日展 2021」に参加されていた髙木さんの 三年ぶりの個展だそう。 ・ 「DOMANI・明日展 2021」を見逃していただけに、どうしても見たかった。 ・ ギャラリーの芳名帳のそばに、予約申込表があった。 何かと思ってみると、 約10年間の作品をおさめた作品集「Daichi Takagi 2010-202

分け入っても分け入ってもたどり着けない。

山本亜由夢さん個展「我々の休暇」 アーツ千代田3331から上北沢の一軒家に移転した Open Letter。 オーナーの自宅兼ギャラリーとなった。 ギャラリー部分は、DIYで仕上げられ、 漆喰の壁塗りワークショップに私も参加した。 いやぁ、楽しかった。 上北沢に来ても、土曜日・日曜日のみ開廊のスタイルは変わらない。 これがなかなかにハードルが高い。 そしてパンデミック。 そんなさなか、オーナー家は三人家族となった。 壁塗り以来お邪魔できずにいるうちに いろいろなものが動

そこにあるのは過ぎ去った風景と人々。

川窪花野さん個展「ところにより 通り雨」 川窪さんは、五美大展ではじめて拝見した。 「コーヒーと1パイント」という作品だった。 とても印象に残っていて、いつか個展を拝見したいと思っていた。 その後、川窪さんは女子美術大学洋画専攻を卒業し、 東京藝術大学大学院美術研究科に所属している。 そして今回の個展。池之端にある花園アレイの五階 「THE 5TH FLOOR」がその会場だ。 元社員寮だった建物らしい。 5階の501、502、503号室の三つの部屋がその会場。 この三

リズムがドットになり、旋律が線になる。

久保晶さん個展「Fanfare」 東京藝術大学大学院美術研究科油画技法材料研究室に在籍していた 久保晶さん。 今は離れてしまったスタジオモカ〜の初期メンバーでもあり、 そのオープンアトリエにお邪魔して拝見したのが最初だ。 その後、修了展で実に多くの作品を拝見した。彼女は多作な作家なのだ。 その数の多さに、修了展のときは(鑑賞者としての私の)焦点が定まらないような感覚を覚えた。 ・ 今回は、中目黒の薬膳カレー&&薬膳料理「香食楽」の二階を会場とした小品を中心とした展示である。