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TABU tabloid

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共同主宰・たかやまのアート・レポートなど *tabloidはメンバー個人が作成するマガジンです。 *マガジントップ画像:齊藤智史氏の“イシキ”より
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記事一覧

その思いが伝わる「私のリサ・ラーソン」展

実はリサ・ラーソンをはっきりと意識したことはなかった。目つきの悪い?マイキーを、何かのキャラクターだろうといった思い込みをもって横目で眺めていたくらいだ。 なので、この展覧会は家族に誘われて向かったものだ。 が、展覧会として非常に良かった(この会場は、知り合いの家の目と鼻の先だった)。 入口には彼女の作であろう置物が目印として置かれている。階段を上がっていくと、すかさずスタッフに声をかけられた。展示構成の説明と、写真は一点だけなら撮ってよいと告げられる。 何が良かったかと

道草を喰む小さな実践。

いったいいつ以来だろう。体験型ワークショップに参加してきた。 コロナ禍前、とびラー仲間だったグループで展示するというので、そこに出かけていって、そのとき拝見した別の作家の方のお一人・水野渚さんの「Forage the Poetry:道草を喰う。詩の奏作ワークショップ」というもがそれだ。 どうもよくわからなかったが、ワークショップの開催場所となっているComorisという場にも惹かれて、申し込んだ。 わからないものに身を晒す。その感覚を忘れかけていたので、もう一度、そうした振

地に立つ。それは過去に立脚すること

衣真一郎さんの個展「積み重なる風景」を拝見した。 衣さんは、一九八七年、群馬県生まれ。東京造形大学絵画専攻を卒業したあと、パリ国立高等美術学校に交換留学を果たす。二〇一六年、東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻を修了された画家だ。 絵のモチーフは、自身の生活の中で見てきたもの、身体的な感覚や記憶が元になっているという。それゆえ、衣さんが生まれ育った群馬の山や畑、田んぼなどの田園風景がベースになっている。 絵の中には古墳や埴輪などが存在していたりする。それらはその地に住む

コマとコマの間に潜み込むもの。

アートプロジェクトハウス「Open Letter」で開催されている〝最後の手段〟の「NEW首都高」という展示を見に行った。 〝最後の手段〟とは何か。いや、誰か。 〝最後の手段〟は、有坂亜由夢、おいたまい、コハタレンさんの三人が二○一○年に結成したビデオチームだ。手描きのアニメーションと人間や大道具小道具を使ったコマ撮りアニメーションなどを融合させ、有機的に動かす映像作品がその特徴。人々の太古の記憶を呼び覚ますのが狙いだという。 〝最後の手段〟というユニット名は、行き先の定

解いた周縁に起ち上がるのは線なのか。

もう随分時間が経ってしまった。鎌倉に三瓶玲奈さんの個展を見にいったのは八月の下旬のことだ。その日は美学者で一般社団法人「哲学のテーブル」代表理事の長谷川祐輔さんと詩人のカニエ・ナハさんを迎えて三瓶さんが語るというトークイベントも用意されていて、一通り画を拝見した後にそこに紛れ込ませていただきもした。 三瓶さんは日頃、まるで修行僧のように線を描くプラクティスをこなしている。手首を固定してスライドした線や、キャスターごと身体を移動させたときの線など、とにかく線を引いている。その

映像エスノグラフィーが捉えるもの

 久しぶりに映像エスノグラファーである大橋香奈さんと、大橋さんと同じ慶應義塾大学政策・メディア研究科で学んだジョイス・ラムさんの映像を見に、藤沢アートスペースまで出かけた。大橋さんは、私が何度か書いている〝Home in Tokyo〟のナビゲータを務めた、いわば私の先生のような立場の人だ。ジョイスさんとも〝Home in Tokyo〟で出合っている。 今回は、ジョイスさんの展示がメインで、その特別企画として〝家族を巡る2本の映像上映会〟が催され、そこに大橋さんの作品も掛かった

透けているけど、明らかにそこにあるもの。

川端さんの絵は藝大の学部時代から拝見していて いつもその精緻な鉛筆の表現に驚嘆してきた。 しかしながら、川端さんはただ正確に対象物を描くということではなく 人と人(あるいは対象となるもの)との間に横たわる相互作用の不全を描いている印象がある。 歪んだ(あるいは歪められた)目元。その視線は行く先を失い、 見るものもキャンバス上の人物の目線を捉えることはできない。 やがてその視線が捉えたであろう人物たちが、霞の向こうに現れる。 けっして焦点が合うことはなく、ディテールは定かでは

そこに封じ込められた時代感。

パナソニック汐留美術館 開館二〇周年記念展 「ジョルジュ・ルオー かたち・色・ハーモニー」 汐留にジョルジュ・ルオーを見に行った。 パナソニック汐留美術館は、開館以来、ルオーの作品を継続的に収集し、 二〇二三年三月時点で二六〇点を所蔵しているそうだ。 今回は、フランスや国内の美術館などから、国内初公開作品含む 初期から晩年までの代表作約七〇点が展示される。 〝かたち・色・ハーモニー〟とは、ルオー自身の言葉。 理想の装飾芸術を目指すうえでのルオー自身が掲げたモットーだという

測れない距離感の向こう側。

インスタで開催されていることを知ったムラタ有子さんの展示に伺った。 六本木通りを西麻布方面へ。けっこう歩いたところで、右に折れてすぐ。 ギャラリーサイド2。初めて伺うギャラリー。 ギャラリーには鍵が掛けられていて、インターホンを押して来訪を告げる。 すると二階からギャラリストの島田さんが下りていらして解錠してくれる。 この展示は、新作油彩画一四点と新旧ドローイング六点で構成されている。 ムラタ有子さんを拝見するのは初めてだと告げると、 基本的な情報を的確に伝えていただいた。

オフの微笑みにほっとする。

三好桃加 初個展「仁王像たちのオフの日」  寺院の山門に二体一対で立つ仁王像。ここから先に仏敵を入れないために日々守護についている。現代ではこの仁王像たちもそれほどの激務をこなしているわけではなく、休日には休日の仁王像たちがいる。それをユーモラスな視点でものにしたのが、東京藝術大学大学院文化財保存修復彫刻研究室を二〇二二年三月に修了した三好桃加さんだ。  彼女の作品は、藝大の卒展・修了展で大いに話題になったそうだが、事前予約のチケットが取れずそれを真に受けて当日に行ってみる

まさかの、3331 Arts Chiyoda閉館

「地域に開かれたアートセンター」を標榜していた3331 Arts Chiyodaが閉館するという。思いもよらぬアナウンスに接して、本当に驚いた。千代田区との契約が満了となるためだというが、なぜ更新されなかったのかはわからない。とにかく3331のこれまでを振り返る最後の大型特別企画展「3331によって、アートは『    』に変化した」が開催されていて、私がそのことに気づいたのは、最終日の二日前だった。  3331の存在を知って行き始めたのは、「とびらプロジェクト」のメンバーに

アーティストZINEの発行

共同主宰として関わっている「tuesday」という アートコミュニケーション・ユニットで 藝大卒の若きアーティスト小久江峻さんの ZINEを刊行しました。 ぜひ、記事をご覧ください。

誰かに違いない「彼女」たち。

江口寿史 イラストレーション展「彼女」 千葉県立美術館に江口寿史イラストレーション展「彼女 〜世界の誰にも描けない君の絵を描いている〜」を見に行った。 いやぁ遠かった。 約500点もの作品が展示されている。 いろいろと引っかかるものはあったのだが、 “ライブドローイング”のドキュメンタリー映像がまずもって面白かった。 目から描く場合があるかと思えば、髪から書き始めるときもある。 どの絵も江口寿史の中にある“彼女”なのだが、 ペン先(おそらくボールペンの類)の微妙なタッチ

時空冷凍庫から取り出された、解凍できないメッセージ。

キンマキさんの画をはじめて拝見したのは、五美大展だった。 「木を見て森を見ず」という作品である。渓谷の河原に、豆粒のような人物たちが描かれている。自然の大きさを感じさせる画だ。もう一枚のキャンバスには、その人物たちがバーベキューをしているシーンが描かれている。背後に川が流れている。そしてもう一枚。今度はバーベキューの網の上がクローズアップされている。バーベキューをやっている人物のスニーカーがわずかに描かれている。 あたかもドローンで空に舞い上がったごとく、あるいは河川敷数十セ