写真の話ではなく、カメラの話をしよう[ハッセルブラッド編]
人類が、月に降り立つという偉業を成し遂げたとき、それを支えた道具もまた、最高の名声を手にした。アポロ11号を送り込んだアメリカの科学技術が文字通り世界一であることを知らしめると共に、宇宙飛行士たちが利用していた腕時計は、今なお高級ブランドとして時を刻み続けており、その瞬間を捉えたカメラも、名誉の頂点に立ったのだ。
このカメラの何が立派だったのか説明する前に、以前紹介した、Nikonの一眼レフ。こちらで言及した、「フルサイズセンサーこそ王道」という説明について、まず補足を行いたい。
「フルサイズ」のセンサーの大きさが、フィルム時代のフィルム1コマと同じ大きさで、その半分の面積がAPS-Cである。
フィルム時代のハーフサイズと呼ばれたカメラが、そのコンパクトさと安価さをウリにしていたのに対し、王道と呼ばれた一眼レフは、もちろんしっかり1コマ使っていた。
「FXがホンモノであり、DXはまがい物である」
そう、フィルムを半分ずつせせこましく使うカメラより、1コマきっちり使うカメラの方が、画質は高かった。デジタルカメラの時代となった現代においても同様に、センサーサイズは撮影者のプライドの大きさそのものであり、どのようなくだらない写真も、フルサイズカメラで撮影する事が望ましい。
フルサイズよりも大きなセンサーを使えば、もっと偉い
ここまでの説明を読まれた方には、容易に想像が付くであろう。フィルム1コマよりも、もっと大きなセンサーを付けたデジタルカメラは、もっともっと撮影者のプライドを膨らませてくれるのでは無いか?という疑問について。
中判カメラ、それはカメラの王
そう、もっと大きなフィルムが存在したのだ。そのフィルムを利用するカメラを、中判カメラと呼ぶ。普通のカメラが1ショットで36mmx24mmのフィルム面を利用するのに対し、中判カメラは56mmの正方形をワンショットとして利用していた。面積比において3.6倍である。
フィルムの時代において、フィルムの利用面積こそが画質そのものであり、最高の画質は、大きなフィルム面によって達成された。現代であれば、軍事衛星やドローンが活躍する戦場において、偵察機が命がけで上空から敵地を撮影していたのだ。当然ながら、そのカメラには高い信頼性が求められるとともに、解像度もまた重要な要素だった。そこで、ハッセルブラッドが生まれることとなる。
その高い品質と信頼性は、月に降り立つアポロ11号で写真を撮影する、という栄光へと繋がっていったという。
ハーフサイズ中判デジタル
Fujifilm GFXと、Hasselblad Xシリーズ
現在、Phase Oneという車プライスなカメラを除き、中判デジタルカメラは主に二つのブランドが存在する。いずれも、44mmx33mmというセンサーサイズであり、面積では56mmx56mmの約半分である。そのため、「中判APS-C」と呼ぶのが、適切な呼び方である。そう、56mm正方形というセンサーサイズは、未だ商品化されていないのだ。
フルサイズ中判デジタルは、どこだ
前章で「車プライス」として除外してしまったが、実は、一回り小さい54mmx40mmのデジタルセンサーは存在する。これを「フルサイズ中判センサー」と呼ぼう。実のところ、中判フィルムもこの切り方(645)をしているモノがあり、それらは、56mmx41.5mmの大きさのフィルム面を利用していた。
いずれのカメラも大変に高価であり、プロの写真家や建築家など、特別な職業の人々がメインユーザーであったという。そして、現代に至っても、このセンサーサイズの機種は非常に高価だ。
しかしながら、しょせんはデジタルカメラ、単にセンサーサイズが大きい型落ちを買えば良いのでは無いか、という指摘について。こちらのリンクをご覧いただきたい。50万円のカメラは10年落ちでは5万円もしないかもしれないが、500万円のカメラはそこまで値下がりしないのだ。
「カメラボディ」が20万円ぐらいで売っているだろう、という野暮なツッコミはなしだ。その中判「カメラボディ」はタダのレンズアダプターであり、中判デジタルカメラの本体はこちらの「デジタルバック」と呼ばれるセンサーモジュールの方だ。
上記リンクでは、「値下げ」の札と共に130万円の値が付けられていることを強調したい。そう、良いモノは高いのだ。
そんな高価な物は、さすがに買えないあなたにも
Hasselblad Hシリーズ
わずか50万円未満という極めて安価なプライスで、Hasselblad H4-60というフルサイズセンサー機が手に入る。なんと、デジタルバックとカメラボディがセットである。それがこちらの我がカメラだ。
大きなセンサーで写真を撮ろう
広々としたセンサーは、晴れ晴れとした青空にふさわしい。ゆったりとしたセンサー面を心に、のびのびと写真撮影を行うのが良いだろう。幸いにして、このシリーズのレンズ沼は大変浅い。そもそも種類が多くないのだ。構造上、レンズにシャッターが取り付けられているため、他のマウントのレンズを利用することはもちろん不可能だ。
これを、目にしてしまうまでは。
次回:写真の話ではなく、カメラの話をしよう[オールドレンズ編]
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