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【cinema】名誉市民

アルゼンチン映画。
私はこの映画を見て、コロンビアの大作家ガブリエル・ガルシア・マルケスのことを思い出さずにはいられなかった。彼の作品は数作しか読んでいないけれど、何となく、このダニエルという主人公をガルシア・マルケスと重ねてしまって。

ダニエル・マントバーニ、彼は欧州在住のアルゼンチン人作家であり、冒頭いきなり彼のノーベル賞受賞シーンから始まる。そう、彼は自身の故郷アルゼンチンの片田舎サラスを舞台に小説を書き続け、ノーベル賞作家となった。そんな彼の元にサラスから手紙が届く。名誉市民として表彰したいので、サラスまで来てほしいという依頼である。受賞後、世界各国のあらゆる招待や依頼を断ってきた彼は、なぜか何十年ぶりかに帰郷しようという気になる。しかし、そこに待ち受けていたのは、彼をもてはやす同郷の人々たちだけではなかった…。

ダニエルは表彰されたいが為に故郷へ戻ったのではない。まぁ半分はそんな気持ちもあっただろうけど、自身が書き続けてきたサラスという町は、どうなっているのか。興味本位と郷愁に駆られてのことだと思う。そこで、再会するのはかつての恋人、というのはお約束なんだけど、ありがちな情熱的なものは感じられない。そうなるには、ダニエルは故郷を離れすぎていたんだと思う。

サラスの人々は、この田舎町から誕生したノーベル賞作家という英雄を最初こそ歓待するも、そこには妬みや嫉みが介在し、事態は穏やかではなくなってくる。もはや、この町にダニエルの居場所はない。かつての友人も、恋人も、見えない刃を隠し持っている。

この感じが、昔読んだガルシア・マルケスの描く世界観に似ているなぁと思ったのです。あと、ガルシア・マルケス自身の姿にもあてはまるんじゃないかなって。実際、ラストは衝撃的というか、してやられた感がすごい。彼の胸に挿してあるドライフラワーが全てを物語っている。

うまく言えないけれど、静かに人間の狂気を描いている。一見何の変哲もない田舎町の素朴な人々である。けれど、素直に彼の栄誉を喜ぶ人はいない。作中サラスをけなしやがって、と卑屈になる人がいる。また、如何に彼を利用できるか。自分にとって有益な存在になるか。そういう感情がこの町には渦巻いていて、それがダニエルを人間嫌いにした所以であると思うし、彼が故郷を離れた要因でもあると思う。

万人受けはしないけど、ラテンアメリカ特有の渇いた空気感と、それとは裏腹にべたついた人間の業みたいなものが感じられて、私は見応えがあったなぁと思いました。常にダニエルの視点から、サラスという町を俯瞰する感じでした。

一つ印象的なシーンがあります。彼が一部の輩から罵声を浴びせられ、疲弊しきって町を歩いている時に、ふと立ち止まった家から差し出されたのは、マテ茶。ボンビージャっていうのかな、このマテ茶専用の壺。あ、アルゼンチンぽい!と一人で嬉しくなってました。というのも友人がアルゼンチンからマテ茶を買い付ける話を聞いていたので、とても身近に感じられて。

↑こんなの。アルゼンチン人は専用の水筒やこれにマテ茶を入れて、フツーに飲み歩きするらしい。

とまぁそんなこんなで、見てよかったです。

ラテンビート映画祭にて。

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