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【cinema】消えた声が、その名を呼ぶ

1915年の第1次世界大戦中、オスマン帝国のマルディン。アルメニア人の鍛冶職人ナザレットはある日突然、憲兵によって妻や娘と引き離され、砂漠に強制連行される。激しい暴行を受け、声を失ったものの奇跡的に生き延びたナザレットは、生き別れた家族に会うため灼熱の砂漠を歩き、海を越えていく。やがて8年の歳月が流れ、地球を半周したナザレットは遠くアメリカのノースダコタへとたどり着く。(映画.comより転記)

オスマン帝国におけるアルメニア人虐殺については、ナチスのユダヤ人に対するものと同じくらい興味があり、これは是非見たいと思っていました。そして、私の好きなファティ・アキン監督作品!

彼はトルコ系ドイツ人であるので、彼がこのテーマで撮るというところに大きな意味があると思います。今でもトルコはその虐殺について認めていないし、根深くセンシティブな問題の1つであるかと。

この映画を見て、オスマン帝国の蛮行を描いた映画を2本思い出しました。1つは同じくアルメニア人虐殺をテーマにしたアルメニア系カナダ人監督アトム・エゴヤンの「アララトの聖母」、もう1つはオスマン帝国でのマケドニアの苦しみを描いた「ダスト」という作品です。後者はそれだけがテーマではなくて、兄弟の確執が現代と20世紀初頭と跨がるかたちで描かれていますが。どちらも10年以上前に見たのですが、見応えのある映画だったなぁと今でも思います。

さて、この映画の主人公ナザレットは過酷で壮大な旅をします。愛する家族(娘たち)を求めて、時には暴力も厭わず…この気力はどこから湧いてくるのだろうと言わんばかりに、砂嵐の中をひたすら歩き続ける。

一番酷いシーンは、アルメニア人の女性、子ども達が強制移住させられた砂漠キャンプのシーンで、ナザレットはそこで瀕死の義姉に再会するんですが、その表情を見て真っ先に感じたのが、自分が死ぬ瞬間ってどんななんだろうということと、死に対する恐怖で、それはどんなに酷いホロコーストなどの数々の映像シーンを見ても感じたことのない得体の知れない恐怖でした。それくらいインパクトの強いシーンだったと思います。

はなればなれになった家族や恋人など愛する人を求めて旅する(彷徨う)映画は他にも多くあると思います。それらとこの映画の違いは、ナザレットが喉を切られ、その後遺症で声が出ず、自分の想いを伝えるのが困難なことと、そのルートの意外性で、あの時代のキューバは繁栄していて多くのアルメニア人が北米へ渡っていく際にキューバを足がかりにしたとのこと。

って、別にフツーじゃんと思われるかもしれませんが、娘の足跡を辿って、当てがあるようでない長い道程をひたすら追いかけていく父親の姿は尋常ではなく、彼の内に燃える心の炎というものを見たように思います。

長々と書いていますが、まだまだ私にとっては興味関心の尽きないテーマなので、自分でも勉強していきたいです。

原題は「The Cut」。これは喉を切られたってことと声を失ったってことを表しているのでしょうか…
それともナザレットが道中アレッポで見て涙した無声映画「キッド」でチャップリンと子どもが強く抱き締め合う「カット」を隠喩しているのか…

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