見出し画像

2021 BEST ALBUMS

2021年インディーで愛聴してきたアルバムです。
普段CRJという団体でカレッジチャートの作成やラジオでの選曲をしていますが、あまりアルバムについて詳しく書く機会がなかったので今回2021年のまとめとして書いてみることにしました。


Kings Of Convenience - Peace Or Love

今年は人との関係性に焦点を当てた作品が多く世に出た印象がありますが、その中でも特に思い入れが強い作品です。
20代から共に活動する2人が年齢と共に積み重ねてきた人生の苦悩、愛、教訓…そういったものが穏やかな語り口と巧みな構成で素朴に伝わってきます。
教会のような豊かな響きを持った「Rumors」、盟友Feistが参加した「Catholic Country」などその音楽はまるで祈りのようでもあります。
しかしなぜPeace "Or" Loveなのでしょうか。思えば今回のアルバムの歌詞はアルバムの名前に反して別れ、後悔を暗に示す内容が多く感じました。
最後の曲「Washing Machine」では

It's true, I'm more wise now than I was when I was twenty-one
It's true, I've less time now than I had when I was twenty-one

と歌われていますが、その答えは今まさに21歳の自分ではなくこれからの自分が示してくれるのかもしれません。

mitsume - Ⅵ 

『mitsume』~『A Long Day』までに培ったソングライティングとミニマルなアンサンブル、そして電子音を折り混ぜ空虚で奥深い世界観を両立させた前作『Ghost』では10年目にしてバンドマジックが起きた、とインタビューで語っていたように音楽的に既に完成した雰囲気を漂わせ今後どこへ向かっていくのだろうと予想できない面が自分の中にありました。
そうして出来た今作は原点とも言えるギターに重点を置いた作品。川辺さんの余白ある歌詞はより甘く想像豊かになり、サウンドは初めてライブを見た時の感動を思い起こすこれぞミツメ!という爽やかさとオルタナティブな違和感の絶妙なバランスを極限まで追い求めていて、1stとは違うバンドの進化と妙を実感するとともに改めてミツメが大好きだ…!と感じたアルバムでした。

NOT WONK - dimen

不安定な時期に一番精神の拠り所となった作品。
時代の転換点となりうる果敢なサウンドの挑戦はもちろん、不安も希望も飲み込んで真っ直ぐに進もうとしながら決して取り残さず見捨てないという優しさと厳しさ、多様でしなやかな視点を併せ持つのが眩しくもあり、今のバンドとしてあるべき姿のように感じ最高に心を打たれます。
個人的な経験も含めて、本当に今年出会えてよかった作品です。


パソコン音楽クラブ - See-Voice

こちらの作品は知り合いの方が書いたこのレビューを見て聴いたのが非常に大きかったと思います。

批評、音楽を読み解くことがこんなにもアルバムの響きや一つ一つの言葉を鮮明に浮かび上がらせるのかと改めて実感しました。
純文学のように繊細で有機的なエレクトロミュージックでパソコン音楽クラブが表現しようとした記憶の海と、リスナーの中に一人一人存在する海。
二つの海の声の重なり合いに思いを馳せて聴くとより豊かな世界が広がるのではないでしょうか。

Alice Phoebe Lou - Glow

フィルム写真の粒子感と豊かな階調、ハスキーで力強くも絹のように繊細な彼女の素晴らしい歌声が全曲で存分に活かされた作品。
彼女の溢れる生命力とパーソナルな感情、全編に漂うホームビデオのようなアットホームな質感が唯一無二な魅力を持っています。
ベルリンのストリートから始まり、世界中に音楽が届くようになっても変わらないインディペンデントな姿勢や共に音楽を作るメンバーへの愛を感じる点も惹かれる一面です。

quickly, quickly - The Long and Short of It

Lo-fiなビートトラックを中心にリリースし人気を集めてきた彼の最新作。
曲の印象はジャズ、インディーに接近しながら、曲の一つ一つにトラックメイカーとしての細かな音の処理や曲構成のこだわりが融合しアルバムの流れも非常に高いレベルでまとまっています。
すっかり世間に浸透したように感じるLo-fiなビートメイクのエッセンスが、こういった形で既存のジャンルに新たな風を吹き込む様子はこれからのインディーシーンのさらなる広がりと可能性を感じます。

Faye Webster - I Know I'm Funny haha

落ち着いたスライドギターの音色とFaye特有の人懐っこさと言えるような素直で人間らしい感情の機敏や誠実さが加わった歌詞が、アーティストとリスナーの心の距離の近さを全編に感じさせるアルバム。
家族、恋人、友人…など、今の時代一人一人孤独を感じながらも一緒の空間にいることでその穴を埋め合い生きているのだと実感します。

Helado Negro - Far In

スティールパンなどの南国の民族楽器を連想させるような軽やかなシンセの音や微かに混じる不協和音の響きは、息が詰まりそうになるほど甘美で夢心地な空気を纏い異国の桃源郷を想像豊かに描き出しています。
最終曲「Mirror Talk」では主人公は鏡の中の自分と向き合い問いかけていますが、もしかすると桃源郷というのは外ではなく混沌とした世界からの逃避や自分の出自や音楽性をそのような対話で見つめ直した結果、彼の心の奥深く『Far In』に生まれたものなのかもしれません。

downt - downt

自宅の窓から耳に入ってくる都会の喧騒とは対照的に日常の中には感じることがない人の存在、希薄な関係。近年より浮き彫りになったのでは無いかと思います。

僕はこの街を見下ろした
孤独と愛を背中合わせに
だれかのイメージの中で
きみは創られていく

そんな「111511」で歌われている情景のように、数字の羅列という無機質な世界と人間の対比、また東京というあらゆるものが通り過ぎていく街の虚構や壮大な流れを巧みに、そして純粋に沸き立つ心と共に描きだした1stアルバム。
あまり表では多くを語らない彼らですが、伝えるべきことはこの音楽の中で既に語っている、そういったメッセージがあるからなのだと思います。

この記事が参加している募集

振り返りnote

もしサポートしていただけたら本当に嬉しいです。