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投資家失格

恥の多い投資をしてきた。
吾輩は投資家である。名乗るほどのものではない。

時の流れは絶えずして、
しかももとの市場にあらず。
よどみに群がる投資家は、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。

勝者必衰の理をあらわす。
奢れるもの久しからず。ただ若き日の初恋のごとし。

投資家の前に道はない。
投資家の屍で道ができる。

石の上にも30年というが、
投資家という生き方がまだわからない。

東に右肩上がりの新興企業あれば、
株を買い、
西に儲け話の噂あれば、
ためらいもなく便乗する。
南に証券営業からの懇願あれば、
ホイホイと入金し、
北に暗号資産ブームあれば、
過信するなと自らに警告する。

暴落すれば涙を流し、
暴騰すればオロオロ落ちつがず、
他人の成功に嫉妬し、他人の失敗に安堵する。

常にえたいの知れない不吉な塊が、
投資家の魂を押さえつける。
焦燥であり、嫌悪である。

含み損が問題ではない。
問題は、不吉さだ。

どんなに美しい女の抱擁も、
どんなに美しい詩の一節も、
不吉さを消し去れはしない。

テレビでは、世界の問題を
経済学者が、深刻な顔でプレゼンしている。
だけども問題は今日の株価 ゼニがない。

投資とは、
五感センサーが接続された頭脳と肉体と
奥に秘めたる魂で行うものであるから、

投資家が経験する道程は、
唯一無二で同じ道はない。

ただこの世は、川の流れのごとくすべてが流れていく。
生きてきたこの世界のただ1つの真理だと思う。


吾輩はことし60歳になった。
こめかみの白髪を黒く染めてはいるが、
富への欲望で瞳がキラキラしているので、

証券営業のお姉さんに年齢を言うと、
「え~、全然見えません!!」と驚愕させ、
腰を砕き、立ち上がれなくしてしまうこともある。

そんな金融業界の営業力に脱帽したりしながら、
このアジアの片隅で、暮らしている。

ああ、迷える投資家諸君よ!

投資家は、
この小さな惑星の上で、
眠り起きて投資する。

市場は今、眠りの中
 あの金を取り戻すのは我らだ!
投資家は皆、悩みの中
 あの金を取り戻すのは我らだ!

つれづれなるままに、情報機器に向かい、
心に浮かんでは消える欲望のまますごしても、

利確は満開の時のみに、損切は雲がない時のみに、試みるものではない。

投資とは魂を磨きつづけること。

金利に負けず
インフレにも負けず
国際紛争にも、黒田ミサイルにも負けぬ、
未来社会への強い希望を持ち、

大儲けもできず、
皆からアホと呼ばれ、
それでも、あきらめもしない。

そんな投資家に吾輩はなりたい。

同志たちに、
稚拙ながら一片の詩を贈る。


題:明け方の投資家たち

幾多の忘却と哀しみと
そして幾筋もの道程
ここに集まり獅子となれ
こんなハズじゃあなかった
今を吹き飛ばせ

2023年1月 桜庭リュウ  



〚参考文献〛
・吾輩は猫である(夏目漱石)
・人間失格(太宰治)
・平家物語(作者不明)
・方丈記(鴨長明)
・徒然草(吉田兼好)
・道程(高村光太郎)
・雨ニモマケズ(宮澤賢治)
・檸檬(梶井基次郎)
・傘がない(井上陽水)
・あの鐘を鳴らすのはあなた(阿久悠)
・二十億光年の孤独(谷川俊太郎)
・明け方の若者たち(カツセマサヒコ)



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