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セルロースの形に魅せられて

今回は環境資源科学科の堀川先生にインタビューしました。
樹木との出会いからセルロースの面白さまで語っていただきました。ぜひご覧ください!

堀川先生
<プロフィール>
お名前:堀川祥生先生
所属学科:環境資源科学科
所属研究室:バイオマス構造機能学研究室
趣味:オンラインゲーム

樹木との出会い


—樹木を研究のテーマに選んだ理由を教えてください。

研究室の先生と出会ったのは月曜2限の講義でした。その先生は中日ファンで、だいたい講義は中日の試合に関するお話から始まりました(笑)。勝手に親近感を抱いたのが発端ですね。

—なるほど。樹木が入り口ではなかったわけですね?

ただし、大学院時代は実験をやっているうちになぜかわからないけど、夢中になる時がありました。「理由もなく無我夢中になるようなことがあったら、それは大切にした方がいい」と言われたことがありまして、それをきっかけにこの道でやっていきたいなと。今、振り返るとですけどね。

—そもそも、農学部に進学されたのはどうしてだったのでしょうか?

姉2人が農学部に進学していたからですかね。そう思うと主体性がないですね(笑)。でも、農学部という響きに悪いイメージはありませんでした。ちなみに学業は疎かにしていましたが、大変充実した学生生活でした。タイムマシーンがあったら大学時代に帰りたいなと思うぐらいです。

—実際私も大学や学科を選ぶ上で、今後何をやりたいかというのをすごく考えて選びました。でも、今、人との出会いという話を聞いて結構ストンと落ちる部分があって……

いろんな形がありますからね。その選び方も大事です。「棚から牡丹餅」という諺がありますよね?思いがけない幸運に出会うこと、という意味ですが、まずは棚の下に行くことが大切だと思います。牡丹餅が落ちてくるかはそこからです。だから、知らない場所を訪れ、人と出会い、議論することは大切だと思いますね。

セルロースは面白い


—研究で特に面白いなと思った瞬間は何ですか?

六角形をしているセルロース合成酵素の形を、電子顕微鏡を使って実際に確認することに取り組みました。これは、ウォーリーを探すより難しい(笑)。サンプルを用意して、電子顕微鏡の鏡筒にセットして観察を始めてから見つけるのに6時間以上かかりました。見つかった時の喜びは今でも忘れられません。理由はわからないけど面白いなと。ただ、理由が無いっていうのも結構大事で、それは相性がいいってことかなと思います。

—セルロースは今研究されているテーマでもありますよね?

はい。セルロースを作るのは樹木であり、その樹木は生き物ですから、他の生物同様に進化してきたわけです。だから、樹木の先祖もセルロースを作ります。例えば水草、海藻、バクテリアとかですね。どれもサイズが違ったり断面が違ったりしますが構造的には同じです。実はナタデココやホヤもセルロースなんですよ。

—ホヤにもセルロースがあるとは驚きました。

動物でセルロースがあるのはホヤだけです。あと僕は、生物の構造多様性という観点から、他の研究にも興味を持っています。セルロースを合成する新たな生物を見つけたり、自分の解釈がピタッとハマったりした時というのはとてもやりがいを感じます。あの膝を打つみたいな感じ。そういうのが研究の一つの魅力ですね。

セルロースの始まりに迫る


—今やっていないけどやってみたい研究はありますか?

セルロースを最初に作り始めた生き物が何かに興味があります。生物は途中で枝分かれしながら進化していくので、植物の先祖と言われるシアノバクテリアを調べるだけでなく、途中の枝葉も調べる必要があります。

—結構壮大ですね。

でも壮大な方がいいと思います。答えは無いけど、答えを探すことが研究の魅力だと思っているので、解答に辿り着きたいと思って取り組むのは大事かなと思います。

—現時点から目標までどうやっていけばいいかわからないこともあると思いますが、そういう時はどうしていますか?

登山に例えると、“頂上”つまり目標が見えているならそれに向かって真っ直ぐ行くのがセオリーだと思います。大きな岩があってどうしても前進できない時は、横に移動する。グッと回りながら歩みを進めればまた元の立ち位置に戻りますが、螺旋と一緒で一周回ったら元の位置より高くなっている事があります。

—日進月歩ですね。

研究者として去年の自分より、今年の自分は成長できているかは常に気にしています。大学の研究者には研究と教育の両方の側面があります。学生さんが研究者を目指す場合、一番身近な将来像は我々大学の教員じゃないですか。であれば、愚痴ばかり言っていたり、俯いていたりしちゃいけないと思っています。物事は前向きに考える、捨てるようなことでも何かそこから勉強できることはないかと考える、というのは大切にしています。

木の断面
木の断面からも多くのことがわかる

夢中になるものを追い続ける


―では最後に、高校生に向けてメッセージをお願いします。

自分が夢中になることは大事にしてほしいですね。夢中になるものってね、役に立ちそうとかお金になりそうとかそういった実利的なことがなくても一生懸命できるわけですよ。夢中っていい言葉で文字通り“夢の中”と書くでしょう?部活でもゲームでもアイドルでも何でもいいと思います。夢中になれることがあったら、それを大切にしてほしいと思います。

―今夢中になれるものがない人はどうしたら良いでしょうか?

夢中になることって出会うしかないと思います。カブトムシ集めってカブトムシを知らない限り始まることはないですよね?例えば、実際に木材を持ってみて握ってみる。何でこんなに軽くて強いのか、どうして木は円柱なのか、どうして輪切りの木材はパックマンみたいに割れているのか。そういった問いを理解していく、そして興味を持つ。僕は大学の先生が果たすべき役割は自然科学の面白さに気づかせてあげることだと思っていて、講義もその役割を担っている持っていると思います。

―高校生の頃の自分に聞かせたいです…(笑)

 いやいや(笑)。でもその気持ちが大切です。今から始めればいいと思いますよ。

文章:ほき
インタビュー日時:2022 年 02 月 21日
インタビュアー:ほき
記事再編集日時:2023 年 07 月 11 日

※インタビューは感染症に配慮して行っております。


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