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鈍色幻視行/恩田陸 2023年5月 感想

「旅が終わったのだ。不意にそう思った。私たちの旅は終わった。」(四十五、大円団、あるいは聖者の行進より)

何度も映像化が試みられるも、死亡事故により何度も計画が頓挫してきたいわくつきの作品「夜果つるところ」を題材とした小説です。
題材や帯の雰囲気から謎多い作品を解き明かしながら、旅の中で事件も起こりつつ解決していくお話かと思いきや、良い意味で裏切られる作品でした。

まず、今回の題材は人生、そして死と遺された人々の葛藤だと感じました。人生をなぞらえるように舞台が船旅とされている、そして陸地=日常生活、現実から離れたどこまでも均一な海の上で自分の人生やさまざまな思い、葛藤、苦しみが浮き彫りとなっていく様子がそれぞれの登場人物ごとに描かれていきます。その苦しみ、普段は押し殺しているような感情が「夜果つるところ」というフィルターを通して物語の解釈に投影されています。
小説の謎は解き明かすための謎として存在しているのではなく、謎を通してそれぞれの人生に納得のいく解釈をもたらす鍵として存在している、そんな印象がありました。
最後に主人公が小説の謎に対して出した一つの解答は、他の人にとっての解答ではなくあくまでも主人公がこれまでの人生で感じたこと、さまざまな人の話を聞いて感じたことに対する解答にすぎない、と思います。すっきり解決するミステリーを求めている人にはかなり物足りない結末になっているのかな、という印象です。

自分が若輩者ということ、想定していた物語と大きく違ったこともあり噛み砕けていない部分や人生のなぞらえかたに難しいと感じる部分も多かったのが正直なところです。しかし、この物語を5年後、10年後に読んだらまた自分もこの物語を通して自分の人生にさまざまな解釈を与えることができ、その度に謎に対する解答も異なったものになる、そんな予感がしています。

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