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サンドイッチとウィンナー21

 高校部の校舎を歩いた。中学部に行って知った顔に合うのがいやだった。中学部の人たちが後藤さんのこと話題にしてるのを聞くのが嫌だった。それで、高校部の三階、文化部が集まってるフロアに自然と足が向いていた。なんか私と関係ないような張り紙が続いていた。歴研とか星座研究会とかアニ研とか。人通りは一階に比べると格段少なかった。でもそれなり漫研とか賑わっていた。アニ研と漫研がどう違うのか分からなかったが、心のざわめきを押さえるためにふらふら回ってみた。いくつか教室を回って、文芸部という張り紙の教室に入った。漫研の教室から比べると、閑古鳥の声が聞こえてくるようだった。私を含めて見学者は三人しかいない。眼鏡をかけた文芸部員の人が、「よかったら部誌もらってください」と控えめに声をかけてくる。私は部誌をもらって、ぱらぱらめくりながら教室内を回る。他校の寄贈部誌が置いてある。何気なくスッと見ていると、高校の部誌に混じって中学校の部誌もいくつかあった。ひとつ手にとって開いた。後藤さんの顔が浮かぶ。ちゃんと話をしよう。自分のことも言おう。そんなことを考え考え、ページを追った。
 関口隆司。
 手が止まった。いきなり、関口君がそこにいた。同姓同名? いや絶対違う。関口君だ。絶対そうだ。
「こ、これ」
 と眼鏡の文芸部員の人に言った。
「何ですか」
「私の知り合いが書いてるんですけど、この部誌、ちょっと借りさせてもらえませんか」
 眼鏡さんはちょっと困った顔をする。手渡して見てもらうと、ああこれ、と言った。
「これ中学校の部誌でしょ。渡されたとき、あれって思ったのよ」
「どんな子でしたか」
「男の子。背が高くて初め高校生かと思ったわ。貸してあげたいけど、でも寄贈されたもんだから、私の一存で決められないの」
「私、中学部の吉田って言います。生徒手帳もあります。借りられないんなら、知り合いのとこだけでもコピーしたいんですけど。生徒手帳置いていくんで、三十分、じゃなくって二十分で、じゃなくって十五分で戻ってきますから、ちょっとこの部誌貸して頂けませんか」
 私の勢いがあんまりすごかったのか、もともと中学校の部誌なんてあんまり興味なかったのか、眼鏡さんは生徒手帳と引き替えに部誌を貸してくれた。
 私は借りた部誌を手に図書室に急いだ。文化祭で開いてないかと思ったが、幸運なことに開いていた。もっとも文化祭は学校施設のPRでもあるわけだから、開いているのは当たり前ではあったのだけれど。私は関口君の小説を夢中でコピーした。し終えると部誌を返しに走って、三階の上、屋上へ通じる踊り場にあがった。そこには廃棄する机や椅子がいくつか置いてある。そのひとつに座って、私は関口君の小説を読み始めた。

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