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創作とほほ日記12 ・恋愛小説について

村上春樹の「ノルウェーの森」のキャッチコピーは「100%恋愛小説」だった。
「100%恋愛小説」とはいかなるものか、村上春樹が異常に盛り上がっていた時でもあり、ワクワクして発売日を迎えた。地元の本屋に行って売ってなく、国立に行ってやはりなく、立川で2軒回っても全然なく、吉祥寺でやっと見つけた。嬉しかった。

読んで、えらい面白かった。ラストで漱石の「それから」を思い出した。しかし今は、内容を何も覚えていない。
その時は、影響されて自分でも書こうと思った。書いたが、短いし、落ち着いて読み直してみると、読めたもんじゃなかった。
今もポンコツ小説を書いているが、「恋愛小説」なんか、恐ろしくて書けない。なぜ書けないか、考えてみた。

noteを見てると、いろんな方が恋愛詩や恋愛小説を書いている。羨ましい。書いているのは、わりかし若い人が多いようだ。当たり前だ。当事者なんだから。

恋愛は楽しいものである。そして苦しいものである。

観覧車回れよ回れ想ひ出は君には一日我には一生
       栗木京子

切ない短歌である。恋愛は、うまくいっているようでも互いの気持ちに温度差がある。まして、片思いなら、尚更である。
その思いが詩や小説のテーマになる。

が、それを生のままで書くと、独りよがりになりやすい。noteの皆さんは、言葉のチョイスや構成、比喩なんかを使って、よく表現されている。
そしてなりより恋愛の今現在の当事者としての熱が詩や小説に力を与え、作品を支えている。

が、私はオヤジである。恋愛など、遠い昔である。当事者意識がまるでない。恋愛に年齢は関係ないというが、中年以降も燃えるような恋をする人もいようが、私は違う。
そういう当事者感のまるでない者が恋愛小説を書くとなると、100%とはいかない。なんか別の要素が必要になる。
恋を阻むものだ。障害だ。だが、この障害を乗り越えて恋を成就する小説を書くのは、ほんとに難しい。成就しなくてもいいが、説得力のある失恋話を書くのも、ほんとに難しい。

障害には以下のようなものがある。

1、身分差の恋
 戦前はあったが、今は身分がないので皇族以外成立しない。
 今書くとすれば、職業で差をつけるしかなくなる。
必然職業差別に通じる。
2、どちらかが結婚している恋。
 既婚者が女の場合、女が倦怠期か血迷ってるように見える。既婚者が男の場合、男が無責任の軽薄なやつにみえる。
2、学歴差の恋
 東大出と中卒とか。出会わすのが難しいし、たぶん二人の話は合わない。また今時、学歴差は思ったほど社会で問題にされない。東大出てもダメなやつがいることを皆んな知っている。学歴を誇るやつに碌な奴がいないと知っている。
3、年齢差の恋
 男が年上だと、男に都合のいい御伽話になる。女が年上だと、女を男前に書かないと、話ができない。女が男になり男が女になる。かっこいい女が女々しい男のことを思って身を引く未来しか見えない。
4、働かない男との恋
 過去、随分書かれた。
 ミュージシャン志望
 役者志望。
 作家志望。
 画家志望。
 パチプロ志望。
 いずれも不幸しかない。
どーせ別れて終わるだろうと予想がつく。
 女が働かないのは、結構あるのでドラマにならない。
5、ルッキズムを乗り越える恋
 容姿に拘る人間は程度が低いと思われがちなので、ドラマになりにくい。容姿には触れない方がいい。
6、男の背が低い、女の背が高い。背の差がある恋
 これも現実には拘るくせに、テーマにはなりにくい。山田太一「君を見上げて」があるが。
7、貧富差のある恋
 金をテーマにすると、浅ければ「金色夜叉」になる。登場人物が薄っぺらになる。金しか考えない人間は魅力がない。深めれば、社会問題にテーマがすり替わる。
8、思想の違いがある恋
 昔、過激派の対立セクトにいる恋人の話があった。結局うまくいかないしか、話のもってきようがない。宗教も同じで、恋愛とどっちが上かの話になりやすい。思想vs恋愛、宗教vs恋愛、になり、恋愛小説でなくなる。
9、近親間の恋
 兄妹、姉弟、親子。実は血縁ではなかった以外は、特殊な小説になる。
10、妖怪、宇宙人、獣との恋。
 特殊である。大島渚に「マックス・モン・アムール」という猿との恋という特殊映画がある。
11、親の仇。きょうだいの仇。仇との恋
 親が融資を受けられず死んだ。その子供たちの恋。
 交通事故で兄が死んだ。加害者と被害者の妹との恋。 
 最近、よくある。またか感がある。
12、先生との恋
 先生側がどうしても気持ち悪くなるので、うまく話にならない。
13、犯罪者、反社との恋
 今は、こういう類の人物に魅力を持たせにくい。恋する方が馬鹿に見える。親が人殺しとかの場合はドラマになるが、恋なのか同情なのかわからなくなる。
14、ライバルとの恋
 最高のシェフを目指すライバルの二人とか。恋よりお仕事小説になる。
15、差別を乗り越える恋
 在日、同和、民族、職業、外国人。障碍者。日本には様々の差別問題があるが、これを真正面から取り組めば、恋愛はそうした問題を考える手段となってしまう。政治もそうである。また、ちゃんとした見識のないものが、そうそう触れてはいけないと思う。
15、LGBTの恋
 よくわからない。これを恋愛の障害と書くと怒られそうである。
 ただBLは市民権を得た感がある。あるが、ボーイズラブだけいい、というのもどうかと思う。
 いや、私の知らないところで着々と実績を重ねているのか? よくわからない。
16、死
 過去死ぬほど書かれたし、今も書かれる。相手が死ぬのでプラトニック感が高まり、純愛的要素が強くなる。が、またか感はぬぐえない。

かように「恋愛小説」を書くのは難しい。勿論、一つの要素として「恋愛」も小説に入れることはできるが、それをメインで書くのは難しいということである。
だから、中年以降で「恋愛小説」を書ける人は本当にすごいと思う。noteの中にも何人かいらっしゃる。尊敬する。
ジャック・ニコルソンの映画に「恋愛小説家」というのがあるそうだ。見ていないが、ぜひ見たいと思っている。

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