【銀杏の並木とあの朝のお茶漬け】
見慣れない満天の星空は、どこか発疹のようで少し心配になってしまった。空は健康だろうか。健康な空、不健康な空ってなんだろう。
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季節が確かに移ろう中で、ぼくは光の変化を探した。
懐かしいと感じるあの頃の光の色と、今日の朝の光の色を比較して、「一体なにが変わったのだろう」と。
ぼくには光が変わったようには見えなかった。
だから変わったのはぼくの方だと思った。
1分1秒とおおらかに戯れる余裕がなくなったんだと、光がぼくに説明した。
時代が便利を加速させていき、ぼくは速度と身軽さを得たはずなのに、焦りと重苦しさも同時に増していくようだ。
誰かが勝手に、ルームランナーの速度をあげたらしい。頼んでもいないのに。
でもそれはぼくの帰属意識が操作したものだと、すぐにわかった。
次の一歩を、もう少しゆったりと、もっと高く、ステップを刻んで歩こうとしてみる。なかなかどうして。つまずきそうになって、うまく歩けない。
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あの朝のお茶漬けが懐かしい。
灯油ストーブのにおいが、眠るぼくの鼻を抜けていき、そのまままぶたをこじ開ける。のそりのそり、階段を降りると食卓の上に、湯気を立てるお茶漬けが置いてある。
あの朝の光と、この朝の光に、なんの違いもなかった。
セピア色にならない記憶の光。
二度と戻れない。
悲しくはないのさ。
ぼくら行こう。黄色く柔らかい光の中を。
お茶漬けは幻なんかじゃなかった。だから今だって幻じゃない。
温かい現実の中を行こう。
読んでくれてありがとう。