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新しい旅のはじまり|2024ひとよし球磨起業体験プログラム①

大型連休を終えて,ここからは夏休みまで祝日はなし。気温も上がるし,梅雨も来る。体調管理が難しくなる時期でもあります。

そんなことお構いなしに,高大連携アントレプレナーシッププログラム『スプラウト』は各地に赴き講義を行います。今日は今年度から新たな地域として取り組みを始める熊本県人吉市に学生5名とともに訪れ,「ひとよし球磨起業体験プログラム」の第1回講義に臨みました。

依頼者のゼミ3期OBりょーすけ(左)と私

人吉で「スプラウト」を行うことになったのは,ゼミ3期OBであるりょーすけからの依頼によるもの。今年度同地区の青年会議所で高校生向けの地域に愛着を持ってもらえるような取り組みを取り仕切る立場になったこともあり,SNSでゼミ生や私が各地で取り組んでいる「スプラウト」に目をつけ,「ぜひこれを人吉でやって欲しい」と依頼されたのはこの冬のこと。以来,何度か打ち合わせを重ねながら地元の高校生12人が集まり,「ひとよし球磨起業体験プログラム」と題して5回(ないし6回)の講義と1回の模擬店出店のプログラムを実施することになりました。

今回の記事は「新しい旅のはじまり」というなんともありきたりの表題になってはいますが,この人吉での高校生や若手経営者との出会いを媒介する大学生の役割というものが見え,これまでとはまた異なる「スプラウト」の姿がそこにあったこともあってこの表題にしました。

改めて本プログラムを通じて,地域に密着した経済活動を地域で育った若者たちが理解できる,つながりを感じられると得心しました。それは,高校生には身近に働く大人を感じてもらうこと,青年会議所に所属する若手経営者である社会人には10数年前の自分を重ね合わせることでここまでの時間をふりかえる時間を取ることができることなど,有形無形の財産を残せるキッカケになりそうだということ。

本文に入る前に,これまで各地で実施してきた「スプラウト」についてのnoteはこちらを参照してください。

土砂降りの雨の中,人吉へ

朝8時,私の自宅に学生が集合して人吉へ向けて出発。昨日まで晴れていたのに,今日に限って大雨。あいにくの天気ではあるが,意気揚々と人吉に向かう。途中休憩を2回挟み,ちょうど3時間で人吉に到着。

人吉市中心部は2020年7月の豪雨で美しい街並みが濁流に流されてしまい,未だ復興の途中にある。特に鉄路は壊滅的な被害を受け,まもなく4年を経過する中で,ようやく八代〜人吉の鉄路での復旧が決まったところ。八代〜吉松間については未だ目処が立っていない。

人吉に着くや否やランチタイム。ランチはHASSENBAで。

晴れていれば授業開始までの数時間を人吉市中心部の散策に充てることもできたが,この天気ではなかなか難しい。そこで,復興のシンボル的存在でもあるHASSENBAに設けられている九州パンケーキのカフェで食事を頂きながら打ち合わせをすることにした。

今回のチームは5名で構成。2人の「スプラウト」の全体を統括するリーダーと,3人の本プログラムを運営する学生から成る。

メンバーの中には2年生から活動に携わっていたり,先のおおいた起業体験プログラムですでに中核的な役割を果たしている学生もいるが,全く初めての学生もいるため,「授業そのものをどうやって進めていくのか,実感がない」と素直にその感情を語ってくれた学生もいる。が,そこはミーティングの中で流れを確認しながら,1つ1つ疑問を解消して講義に臨む準備を進めていた。

いよいよ講義スタート

今回,本プログラムに参加した高校生は,先述の通り12名。ただし,部活動のため1名欠席で11名でスタート。高校生を2人または3人のグループに分け,そこに青年会議所から社会人が1人,ゼミ生(学生)が1人つく形で講義がスタートした。

当初の予定から変更して,私の話からスタート。最近各地でのプログラムもそうだが,大学の校務として行う高校での模擬講義でも話をする「創造的な地方都市を創るヒント」と題した話をする。

前半は私からの講義

簡単に言えば,どんな地方都市にでも企業はあり,その企業は付加価値を得ることで自らの存続と利害関係者との良好な関係,そして地域に経済的な富をもたらしているという話。このプログラムでは高校生にそれを実感してもらうために,5回の座学と1回の実践(出店)を行うのだよという動機づけに当たる講義。

その前に「働く」ということに対する実感を高校生に得てもらうために,今回はゼミOBりょーすけが準備して,2人の社会人のインタビュー記事を作ってくれた。

これを読んで高校生たちがどのように感じたのか。その話を聞いて社会人がどのように感じるのか。10分程度の短い時間ではあるが,アイスブレイクを兼ねて話をする。

高校生×大学生×社会人の邂逅から何が生まれるか。

ここで一般的には高校生に意見を求めてもなかなか言葉が出てこなさそうではあるが,今回のこのプログラムでは高校生が積極的に話をしてくれている。自己紹介,なんで参加したのか,どんなことを期待しているのかを話ながら,2つの記事に出てくる社会人に対する感想を話す。自主的に参加しているからなのか,とても意欲的なディスカッションが行われた。

こうして前半45分の講義は終了。続いていよいよ大学生による講義が始まる。

不安と期待が交じる中での学生による講義

そして,後半。学生による「アントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアス」の講義。このネタ自体はすでに各地で高校生に話されている内容であるため,そこまで不安はない。ただ,担当者がよく内容を吟味していて,昨年度のレジュメをベースに順番を入れ替え,講義を進めやすいような工夫をしていた。ここが若干の不安要素。

後半は学生による講義

講義はつつがなく進む。ここに至るまで何度も確認し,準備をしっかりしてきたのだろう。ただ,ところどころ理解が不十分なところになると,高校生に伝っているのか,理解できているのかという不安が見え隠れする。

理解したつもりでいるのと実際に喋って伝えるのでは違う。

講義をすることで改めて気づくことでもある。今日の講義内容はゼミでも繰り返し聞いている話でもあるし,自分たち自身が実践してきたことであるはずなのだけれども,いざ人に説明するとなると感覚的な理解,言葉を与えることなく理解しているつもりになっていた箇所があぶり出されてしまう。

だからと言って講義を放り出すのではなく,最後まで責任持って講義をしたことは十分な及第点だと言えよう。

高校生の皆さんは大雨の中逞しくも,立派に講義に臨んでくださいました。

それは参加している高校生に助けられたということでもある。今回のような「地域型」のプログラムは,基本的に意欲があって高校生が参加しているケースが多く,高校に入って講義をする場合と比しても明らかに理解度が高いと感じられる。商業高校や商業科ではないので,当然言葉等で難しく感じる部分もあるに違いないのだが,ノートを丁寧に取り,メモをしっかりと残すことで,新しく学んだ概念を使いながらでも自らの言葉で議論を進めようとしている。

今回参加している主たる学年は2年生。3年生は明確に○○大学に行きたい,将来は起業したいと目標を持って参加しているが,2年生の場合は高校での勉強はしっかりと取り組んでいるけれども,まだ具体的な志望校等は見えていない。ただ,講義終了後にちょっと立ち話をすると,「めちゃくちゃ面白かったです。理系なんですけど,文転しようと思いました」と言われるほど。

さすがに「いや,理系の勉強をしっかりとやっておいたら良いよ。正直,理系の勉強をしておけば,最後の最後で文転はできるから」と伝えたが,高校生の理解度が高いがゆえに,それなりのインパクトが与えられたということなのだろう。この大雨の中,わざわざ足を運んでくれた高校生に対しておみやげを残すことができたのかもしれない。

最後は人吉の「人」ポーズで記念写真

こうして90分の講義は終了。最後は青年会議所理事長を中心に高校生とともに人吉の「人」ポーズで記念写真撮影。

「学校で習ったことがないことだから難しかったけど,楽しかった」という顔つきで高校生が帰路につく。その顔を見て,今回関わっている誰もが安堵感のある顔をしていたのが印象的だった。こうして無事に「ひとよし球磨起業体験プログラム」の第1回講義が終了した。

おわりに:ふりかえり

講義終了後はふりかえりのため,青年会議所代表がオーナーを務める「麻葉珈琲」でミーティング。築130年の古民家を再生し,本格的なスペシャリティコーヒーと趣向を凝らしたお菓子を頂くことができる。

虎をあしらった「あんバター最中」。

また,人吉の伝統工芸品である「花手箱」をモチーフにしたドリップパックが売られていたりと,ブランディングに相当な力を入れていることが伺える。実際,今日の講義というか,プログラムの狙いは付加価値の創造と差別化にあり,それを大学生のサポートのもと,高校生に考えてもらって実際に商売をすることにあるのだから,ぜひ彼らには一度は訪問してもらわねばならない場所と言えるかもしれない。

美しい椿柄があしらわれたショップカード

この市域中心部は目抜き通りとも言える場所のはずだが,2020年の豪雨で水が4mも上ってきたところであり,現在でもところどころ空き地がある。私たちは2階でお茶を頂いたが,その目線のところまで水が上がってきたのだと話して頂き,改めて自然の脅威を感じることになった。

ふりかえりでは,この近くに設けられた「人吉コンテナマルシェ」で何かができないかという話に。まだ細部を詰めなければならないが,高校生の自由な発想,彼・彼女たちだから見える事業機会を基礎に,社会人と大学生が手助けをしながらマルシェを開催する。そんな方向性が見えた。そこには,ゼミ活動の一環としての「社会課題をビジネスで解決するプロジェクト」でお店を出したいと言っている学生チームも参加するかもしれない。

こうして,OBの声掛けによって始まった人吉・球磨地域での「スプラウト」を通じて,今日1日でたくさんの種まきをすることができたと言えるかもしれない。もちろん,これが芽を出し,葉を開き,花が咲くまでは長い時間を要するが,今日の講義を通じて得た大きな手応えは未来に希望を抱かせるものだと言って差し支えないであろう。

17時までミーティングを行った後,学生が今回のツアーで楽しみにしていた温泉に向かった。その施設で夕飯を食べ,3時間かけて帰宅。日帰りで人吉に行くのは忍びないが,今日の旅は学生にとっても心地よい疲れを残して終えることができたのではないだろうか。

第2回は6月15日に実施予定。オンライン講義であるが,きっとまた何かが混じり合って化学反応が起きるだろう。今から楽しみで仕方がない。

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