蒔いた種は九州各地に飛んでいった|2024スプラウト大分・宮崎・鹿児島①
今日は9/22。本来であれば「ひとよし球磨起業体験プログラム」のため、人吉に駆けつけるところ、台風と秋雨前線の影響で23日に延期を決定。学生たちは昨日から人吉入りする予定だったが、スケジュールを調整してもらい、今日から準備、明日の出店を迎える。
かく言う私は当初の予定通り、九州大学のアントレプレナーシップ教育センターであるQREC主催の国際シンポジウムに参加。世界各地のアントレ教育センターと日本国内の研究者が集まって熱い議論が戦わされた。
私も6月のタイ・バンコクで行った報告資料を持参し、何人かの先生に資料をお渡しした。このスプラウトで積み上げてきたデータの分析を行ったものだが、結果がどう受け止められるかわからないのもあるので、今の時点ではまだ蔵入り中。アジア各地を中心にさまざまな先生とお話をすることができたのもあり、2月のシンガポールツアーに向けて良い話が進められそうでもある。
そうした収穫もありつつ、途中中座してオンラインで新たなプログラムがスタートした。大分、宮崎、鹿児島3県のスプラウト同時開催(!)。オンラインだからできる取り組みがスタートしてしまいました(笑)。
今回はこの開催に至るまでの経緯、授業内でのディスカッション内容、大学生とのふりかえりを中心に述べていきましょう。
これまでのプログラムの記録はこちら。これまで大分と宮崎(にちなん)は別マガジンにしていましたが、これを機会に統合します。
ぜひ最後までご笑覧ください。
プログラム展開の経緯
このプログラムの大元は昨年実施した大分県日田市、豊後大野市、佐伯市の3都市でスタートした「おおいた起業体験プログラム」。12月から始まる3ヶ月間のプログラムで、それまでの他地域では5回で半年間に及ぶ長期間であったものを短期間で内容を絞り込んで実施した。
ちょうどこの計画が立ち上がった頃、鹿児島純心女子高校からもオファーを頂いていた。しかし、他地域からのオファーも相次ぐとともに、こちら側のリソースの問題もあってプログラムの展開を図ることができないでいた。そうした中で、ありがたいことに活動資金のメドが立つとともに、パートナーとしてゼミOBも携わっている合同会社hataoriが提供するプログラム「mokumoku」とのコラボレーションが実現した。対面は難しいのでオンラインでの実施になり、時間も限られていることから大分との合同で実施することになった。
そういう話をしていたところ、今年度は難しいだろうと思っていた宮崎での開催ができそうな状況になった。ところが、現在全国的に展開が進んでいる中高生のアントレプレナーシップを涵養するプログラム「frogs」が宮崎でも始まることになり、一般社団法人の担当者と会う機会があった。そして相談を持ち込んだところ「できます!」となって「スプラウト宮崎」が誕生した。
こうして2024年度は、「おおいた起業体験プログラム」が由布市を加えて4都市に拡大し、宮崎県全県を対象にした「スプラウト宮崎」、そして鹿児島市にあり、熱烈オファーを頂いた「スプラウト鹿児島純心女子高校」と3プログラムとして成立。ただし、こちらのリソースに限界があるので(ほんと学生には感謝している)、3地域合同のオンラインプログラムとし、販売実習は各地で行うというものになった。
そして、2024年9月21日。大分、宮崎、鹿児島の3県合同で広域のアントレプレナーシップ教育プログラム『スプラウト』の授業が始まった。
授業の様子|アイデア豊かな参加高校生たち
このプログラムには3県合同で高校生26名、大学生17名が集い、社会人メンターまで含めると50名近い参加者がいる。第1回の授業は数名欠席者がいたが、無事に授業がスタートした。
各地の事情はそれぞれ異なっていて、鹿児島純心女子高校のように1つの学校から10名近い参加者があるケースもあれば、日田のように1名で参加してくれたケースもある。また、大分のように4地域で募集をかけて、各地の高校生が集まったケースもあれば、宮崎のように県内各地から(北は延岡、南は日南まで!)という事例もある。
高校生は遠隔で参加しているものの、それぞれ意欲が高い。中には他の地域の高校生と友達になれるかもしれないという期待を抱いている高校生もいるとのこと。遠隔の長所をうまく活用し、グループワークでは地域を混ぜてディスカッションも行った。
一方、大学生もさまざまなバックグラウンドを持っている。おおいた起業体験プログラムは昨年度の取り組みを活用し、当ゼミの学生を主力としつつ、昨年のプログラムに参加してくれた学生に声かけをした。1人は壱岐商業高校でのプログラム卒業生であり、1人は現在ドイツへ留学中であるにもかかわらず時差を乗り越えて参加してくれている。また、福岡にある大分県の就職支援施設dot.でインターンをする大分県出身の学生も参加してくれており、昨年築いた土台が活用できている。
鹿児島は先に紹介したように合同会社hataoriに協力をお願いして6名の学生・社会人が参加している。今回リーダー役を担っている学生は福岡出身。先の熊本県人吉でのプログラムに参加した後、当ゼミのプロジェクトリーダーと意気投合して福岡で食事をしたらしい。そういう連携もあって鹿児島での雰囲気もなかなか良かったようだ。
宮崎もこの取り組みに共感して参加してくれた大学生が2名。授業開始前に事前ミーティングをして初めて大学生と話をしたが、メンターの2人ともしっかりしているし、このプログラムの狙いも十分理解できたよう。サポートする大学生も精鋭揃いというところか(皆さん、本当にありがとう)。
さて、授業内容はと言うと、通常の『スプラウト』をベースにしている。私の講演的な話をしたあとに、「アントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアス」で一歩踏み出す勇気を持ってみようと投げかけ、企業は「経営理念」という目的を持ち、彼らが考えるありたい社会の構築に向けて活動するとともに、消費者である私たちにどう働きかけているかを知る意味で「経営戦略」に差別化とコストリーダーシップがあることを説明する。
こうした話を受けた後にはグループワークを行う。今回も定番のお祭りワークを行うが、これまでと異なり、お祭りであってもお店を出す目的を設定しようと理念を設定し、その理念に従って商材を選択して商品をいくらでどのように販売するかを高校生が考える。
そこで出たアイデアが個性的なものが多かった。あるグループは当初コストリーダーシップ戦略で考えていたものを、講義の主旨と購入するであろう顧客設定を変えて差別化戦略に入れ替えたり、100円でお客さん自身に綿菓子を作ってもらう戦略を考えたりと面白いアイデアが出た。また、チームで綿菓子とたこ焼きがそれぞれ出たので、そのアイデアを合体させて「たこ焼き味の綿菓子」なんてアイデアも出たりした。発想が柔軟。
実はそのあとの振り返りで大学生チームからは、綿菓子をお客さんに作ってもらう体験型の売り方に対して「実はそれやってみたら、上手い下手があるからお客さんが捌けなくて100円じゃ商売にならないんじゃないかと思ったんですけど、それ指摘して良かったんですかね?」という問いかけがあった。もちろんそれはOKで、高校生をより深い洞察に導くならどんどん意見を言うべきだし、大学生と高校生双方がそうした気づきの中で学べる環境づくりができている。
こうして授業は若干の延長をしてしまったが、17:15に終了。終始ポジティブな雰囲気で授業が進んだように感じられたし、対面とはまた異なる「そこにいるようでそこにいない」「遠くの大学生と対話ができている」「でもここにもすぐ話ができる人がいる」といったような「手に届きそうで届かない」「手に届かなさそうで手に届く」距離感がまたそうした雰囲気を醸成したのかもしれない。
ふりかえり
さて、毎度のふりかえり。
オンライン、しかも高校生は各地にいて、大学生もさまざまな地域の異なるバックグラウンドで過ごす人たち。それがアントレプレナーシップ教育という紐帯で結びつくのだから不思議なもの。改めてこのプログラムが持っている可能性を感じることができた。
参加者の誰もがポジティブで、やらされている感じがしない。これから何が始まるのだろうかという楽しさに溢れている。各地の社会人メンターに高校生の雰囲気を聞くと次のような答えが返ってきた。
「参加学生が思った以上にやる気でした。他地域の学生の意見などが刺激になったんじゃないかと思ってます。」
「参加学生2人とも、毎月1回は、こう言った授業を受けたいといってくれて、嬉しかったです。少し、難しい部分があった様だったので、フォローしながら進めて良かったです。」
とりあえずホッとした。
前日に先週の福岡女子商業高校の第1回授業の振り返りをゼミの時間にした。そこではさまざまな指摘を頂いたことは糧にするべきだし、まだまだ授業をより良くする余白だし、これから改善すれば良いと。また、学生のふりかえりからは(私も同様のことを感じていたが)伝えるべき概念の説明がうまく進められなかったという話もあったが、それは理解がまだまだ不十分だし、他地域での第2回授業に活かせば良いとも話した。
今できることを精一杯して、もし不十分だと感じれば他の学生でも私でもフォローができる。間違えていればその場で修正するが、完全に説明ができるほど成熟していないこともわかっている。ただ、それを理解して説明することで学びを深めるという目的もあるから、そのプロセスにある限りは現状を許容しようしつつ、次に繋げていこうという話。
こうして今年のおおいた・宮崎・鹿児島でのスプラウト第1回は無事終了。少しずつではあるが、協力してくださる大学生や団体が増えてきたことはありがたい。しかし、このままでは当ゼミの学生の負担は下がらない。これを下げるだけでなく、持続可能性の高いものにするにはもう一工夫が必要になるかもしれない。
さて、それをどう進めるか。アントレプレナーシップ教育のポテンシャルはいかに。
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