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工業高校でアントレプレナーシップを教える|2022博多工業高校×とびゼミコラボ授業②

お盆休み明けからバタバタ動き回っています。今日はインタビュー調査のため,京都に向かっています。今はその車内。この仕事をしているおかげでさまざまな機会を頂くことができ,本当に感謝しています。

前回も書いたように、高大連携によるアントレプレナーシッププログラム関連では,この夏休みには日田と壱岐での実習があり、学生とともに各地を飛び回っています。また、日田や鹿児島県南九州市頴娃(えい)町にインターンに行っていたり、飯塚でTANEMAKI活動を頑張っている学生もいたり、ゼミの主要な活動である「創業体験プログラム」の出店準備で(合宿に先んじて)大分県佐伯市に行く学生もいたりで、それぞれがそれぞれで頑張っているようです。

そういう中で、昨日(8/22),福岡大学から距離が近い高校の1つ、博多工業高校に学生3名とお伺いし、同高インテリア科の5人(課題研究ビジュアルデザインパート)の3年生にアントレプレナーシップの授業を行いました。今回はどのような授業になったのでしょうか。さっそく内容を振り返りましょう。

なお,今回の授業実施に至るまでの経緯は下記の記事をお読みください。

博多工業高校インテリア科によるプロジェクトの概要

今回授業を実施した博多工業高校インテリア科では課題研究の一環として油山地域活性化プロジェクト「油山ブランド”Memento森”」に取り組んでいる。同校の後ろに広がる油山の森林資源の有効活用と保全、そして木育・循環型社会の実現を目指す取り組みである。

高校生によるプレゼン。完成度相当高め。

高校生たちのプレゼンによれば、油山には古くから椿が生息し、その油を活用したり、木を伐採して活用していた記録が残っているのだそう。また,福岡にとっては生活にも密着した山。その後、産業として植林を進めてきたものの、経済環境の変化や担い手不足による森林の荒廃など,多くの課題も見えている。

一方,インテリア科では木工を通じて木に触れ合う機会が多い。加えて,インテリアデザインを学んでいることもあり「木材加工の知識と技術,デザイン計画力」を学んでいることが強みでもある。仕入れた木材を加工して製品に仕立てる技術だけでなく、その製品化に至るデサインにおいても強みを発揮することができると。そこで、昨今の環境保全やSDGsの考え方が学校教育に入ってきた流れもあって,生徒から自発的に何かできないかと提案があり、先生の後押しもあってこの活動がスタートしたのだそう。

具体的には,福岡市が推進する「FUKUOKA Green Next」事業の一環で進められている「油山市民の森のリニューアル」に合わせて椿油の搾り取り体験を文化祭の企画などで実施すること,間伐材の利用促進を図るための魅力ある木工製品の企画・開発と販売,森林管理の人手不足により生じている人工林管理の問題や林業関連事業への就業者増加を目指すことを目的に,福岡市農林水産局や油山市民の森公園管理事務所とのパートナーシップを結び活動を始めていくとのこと。

つまり,高校生が自分たちの手で油山から切り出された材木の端材を活用した製品開発、ブランドロゴの作成によるブランド化、行政との連携を行うことを通じた学びの場を創出してしまったということにもなる。

ただ,これを進めていくには課題も山積している。そもそもの生産可能量はどれほどか,販売ルートは構築できるか,収益を得るとしてマネジメントはどうするのか。「学校」という枠組みでできることとできないことがあるゆえに,どういう主体で運営していくかも難しい。

今回,高校生が改めて行ってくれたプレゼンテーションからその熱意が伝わってくるだけに,まさに持続可能な形で活動が継続できるような仕組みづくりができると良いのですが。さあ,どうしたものか。

異なる視点を導入することで得られる気づき|今回の授業概要

続いて,大学生による高校生への授業に。これまでは商業科あるいは総合学科などを対象とした授業を行ってきたが,今回は初めてインテリア科=工業系の学科での授業となる。ただ,どんな学科であれ,大学生が授業をしに来るなんてことは通常ないし,高校生も経営学や会計学を学んだことがないのだから,いつもどおりの授業をしようと。限られた時間の中で大学生がしっかり授業準備を進めてくれた。

授業内容は毎度おなじみのアントレプレナーシップとコレクティブ・ジーニアス,それに経営戦略について。経営戦略も差別化とコスト・リーダーシップというポジショニングを教えつつ,事例研究として高校生が馴染みのあるだろうインテリア関連の小売業を取り上げた。

グループワークの様子①

すでに大学生側の経験値が溜まってきたとともに、今回も高校生にはGIGAスクール構想で配布されているiPadを活用した内容に授業を構成。レジュメにQRコードを貼り付け,それぞれの企業の戦略について述べられた記事を読んでもらう。そして,それを一定のフレームワーク(ここでは戦略〔ポジショニング〕と商品イメージ)で分類し,企業戦略の違いがあることを理解するというもの。

グループワークの様子②

取り上げた事例もニトリや無印良品のように高校生に馴染みのある企業もあれば、フランフランのようなもう少し年齢層が高いターゲットを対象とする企業、そして大塚家具のような高級家具を取り扱う販売店だったり。イメージしやすく、比較してパッと理解できそうな企業を選んでいる。

グループワークの様子③

こうして書くと,授業内容自体はそれほど難しくはないと言えるだろう。高校生が学びやすく,「学べた!」と実感できる授業内容にしている。また、大学生にとっても,こうして授業に落とし込んでいくプロセスそのものに学びがある。さらには,iPadがあることで、これまでであれば図や画像をこちらで用意しなければならなかったものを,Webや商品画像に直接アクセスできるだけでいろいろと手間が省けるようにもなった。大学生の誘導で,高校生も今までだったら目にしたことがない情報にアクセスできるようになる。非常に効率的で学びが多い授業設計と運営が可能になりつつあることを実感する。

休憩中の1コマ

続いて,私からの授業。これはいつもの話が並ぶ。事業(ビジネス)が持つ機能としての付加価値の創造,イノベーションの必要性,事業機会の探索と認識。そして,今回はインテリア・デザインを学ぶ生徒のために,デザイン思考の話を少し加えた。

商業高校から簿記を学んできている大学生を見ていて感じるし,お世話になっている先生も言われていることだが,15歳から簿記に慣れていることで「感覚的に」「身体が勝手に動くように」問題に彼・彼女たちは向き合っているように見える。まるで習慣の一部になっているかのように。それは,インテリア科の高校生も同じかもしれない。彼・彼女たちにとって,木材が常にあり,手を動かせば何かモノを生み出すことができる環境。絵を描いたりするのもそうだろう。それほどまでにデザインというものが身近にある。

しかし,それがビジネスを動かしていること,近年付加価値を生み出す源泉になっていることを知識としては十分に理解に及んでいない。当たり前だと思っていることに,知識や理論という切り口を入れることによって見える世界が変わってくる。また,学生が話をしたアントレプレナーシップとの関わりで言えば,今回の取り組み自体が新たな価値を創造しようという仕掛けなんだけれども,それを誰にどうやって届けていくか,どこに事業機会のようなものを見出していくかがポイントだよという話をした。そして,総じて自分の視点を広げるために,さまざまなものに興味・関心を持って,常に観察することが大事だよというメッセージを伝えて,今回の授業は終了した。

高校生にはどう見えたのだろうか?

さて,今回の授業を受けて高校生はどんなことを感じたのだろうか。

直接話を聞いたわけではないので何とも言えないが,とても熱心に授業を聞いてくれたし,ボーッとすることなくメモをしっかりと取っていた。丁寧な指導が行き届いていることもあって,高校生は能動的に学習するという意識,習慣が身についているようだ。

このプログラムは他の高校と同様に「課題研究」のコマで行われている。そして,授業終了後,教員が生徒の評価を行うためにふりかえりシート(博多工業ではリフレクションシート)を作成し,生徒が記入することになっている。博多工業ではGoogle Educationを活用していることから,生徒はGoogle Formにアクセスして回答することになっている。

果たしてどんなふりかえりが書かれているのか。高校生の反応を見たいのだけれども,まだ確認できず。

今後の課題とふりかえり

こうして1回目の博多工業高校とのコラボ授業が終了した。初めての工業高校での授業だったが,大学生の授業を高校生だけでなく,先生方も熱心に聞いてくださった。今回の授業を見て,先生方はどのような感想を持たれたのだろうか。生徒同様,お尋ねしてみたい。

こうして手応えある授業ができたと思ったんだけれども、ご担当頂いている先生曰く,さまざまな理由で生徒たちには自己効力感がないのだという。今回の高校生のプレゼンを見ても,やろうとしている取り組みについて聞いても,そして大学生の授業を熱心に受講することで学ぼうという意欲が高いにも関わらずだ。

最後は高校生からのご挨拶

ちょうど先日の出張の機内でポール・ダフ『私たちは子どもに何ができるのか』を読んだ。先日行ったとある高校での授業において,学生が生徒の関係性構築において苦労をしているという話を聞いていたからだ。何か方策を打たねばならないと考えていたので,そのヒントを得るため。また,そうした生徒の傾向として自己効力感の低さが挙げられていることについてはすでに知っていたこともあった。

その解決策は,極めて簡単に言えば,デシの言う「内発的動機づけ」を高めるような教育アプローチを取ることが必要だいうこと。そして,「内発的動機づけ」を高めるには,①有能感②自律性③関係性(人との繋がり)に考慮した授業設計を行うようにするのが良いと。この取り組みで大学生が授業をしている価値はここにある。

教員と生徒というタテの関係ではなく,大学生と高校生という斜め上の関係を構築すること,学校での学びとは異なるボイスチェンジを行うことが効果的であること,そしてどこをどうすれば高校生に理解できる授業を設計できるかを感覚的に理解していること。この高大連携プログラムを通じて,大学生と高校生が交流することで,互いに(高校生も大学生も)有能感,自律性,関係性を養うことができると考えている。

こういう実践の中で積み上げてきた仮説的な見解を少しずつ実証していきたいというのが研究上の課題。これを検証できていないから,他の学生たちに「学びの効果があるんだよ」と言えないのが教育上の課題。そして,やればやるほど,さまざまなオーダーにお応えできそうな手応えがあるけど,こちらのリソースが足りないというのがプログラム連携上の課題。

ま,いろいろと課題はありますが,今回の授業は概ねポジティブな評価を頂けたと感じています。さ,このあとどういう展開になるのでしょうか。今回はあくまでもテスト(プロトタイピング)ということで,今後の展開はまだ未定。ぜひ何かサポートできると良いのですが。

余談|商店街NEXTチャレンジャー事業に参加してきました

さて,この日は福岡市の商店街活性化事業として行われている「商店街NEXTチャレンジャー事業」の授業日でもありました。これまで2回は新型コロナウィルス前で商工会議所に集まってワークショップを行ってきましたが,今年はさまざまな商店街を巡りながら,現地の空気を感じつつ,当該商店街の代表者(理事長など)の話を伺って,それを参加者で共有するという作り付けになっている。

そして,今回の会場はずっと行きたかった今宿のコワーキングスペース「SALT」!海を望む素晴らしいロケーション。素晴らしい場所で学ぶことができました。ま,実際には子守りもセットで娘氏を同伴させたので,声がうるさかったのでしょうが(ごめんなさい)。

今回の会場は今宿のコワーキングスペースSALT

ここで嬉しい再会が。2020年度の8期生のプロジェクトで今宿商店街とのコラボ企画が立ち上がったのですが,その後いろいろと不備があって続かなくなってしまいました。その時に連絡役をしてくださっていた(プロ野球選手などからも指名が入る)グローブ店のオーナーが理事長に。そして,SALTの担当者を巻き込んで,当時話してくださっていた構想が形になりつつあると。

例えば,「今宿オンライン商店街」がそれ。普通,商店街というと売上に直結することが期待されそうだが,ここではそれぞれの店舗にまつわるストーリーが書かれている。これをするには相当の編集能力がいるのだろうけれども,ここはさすがというところ。

で,再び「何か一緒にやりましょう!」と打診を頂きました。何ができるかはさておき,こうして打診をくださることはとてもありがたいこと。幸い近くの大学で授業もしているし,大学生を巻き込んだ何かが生まれると良いなぁ。どうなるかなぁ。

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