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リル・ナズ・エックスの「悪魔のコード」とメタルの関係

 ナンバーワンヒットを連発して天下をとりつつあるポップラップスター、リル・ナズ・エックスについて下記コラムで紹介したわけですが↓

 こぼれ話として、音楽面のお話です。同記事で紹介したように、ポップスター路線を走る現行『MONTERO』シーズンの彼は、表題曲「MONTERO (Call Me by Your Name)」にてキリスト教/旧約聖書にもとづく「悪魔/禁忌」モチーフで大きな話題を博しました。これには同性愛を否定する信仰に苦しんだ経験が込められているわけですが、同作以外にも「悪魔のスニーカー」を販売してNikeと裁判沙汰になったりと、キリスト教の「悪魔/禁忌」モチーフは彼の看板にもなりつつあります。

 そして面白いのが「MONTERO (CMBYN)」が、そのまま「悪魔のトライトーン」と呼ばれるコード進行をとっていることです。そもそも、リルナズのヒット曲を多く手がけてきたプロデューサー・デュオ、Take A Daytripによると、彼らが贈りだしたトップ10ヒットすべて「フリギア旋法」調。解説の概要は以下。

・長いあいだ「悪魔のトライトーン」と呼ばれて禁じられてきたコード進行
・延々に緊張感を持続させる
・常にループするコード進行でなにも解消されない
・「Montero (CMBYN)」ではマイナーセカンドに上がってマイナーセカンドに戻る、これによってリスナーの緊張感を与えたあとに気分をやわらげている、つねに感情を押し引きさせる構造

 Take A Daytripはリル・ナズの多くのヒットを手がけているので、この特徴そのまま「リル・ナズのサウンド」として思い浮かぶかもしれません(アルバム『MONTERO』15曲中10曲をプロデュースしたほか「Panini」「Rodeo」「Holiday」も担当)。

 さらにたどると、Take A Daytripのフリギアン作風を決定づけたのは2017年シェック・ウェス「Mo Bamba」。リル・ナズといえば「Old Town Road」で注目されたので「同曲のカントリーラップのルーツは(彼も認めるように)ヤング・サグ」だとよく言われていますが、こちらも重要作ですね。

 そして、この「悪魔のトライトーン」を調べてみると、不吉すぎて歴史上さまざまな呼び名があったようです。「音楽の悪魔」、「悪魔のインターバル」「悪魔の音程」、今風だと「悪魔のコード」等々。具体的なテクニックについてはこちら(英文記事)。メロディは人を心地よくさせるべき、と考えられていたこともあり、長らく拒否されていた「悪魔のトライトーン」ですが、一気に日の目を見たのは1970年、ホルスト「惑星/火星、戦争をもたらす者」に触発されたブラック・サバスの「Black Sabbath」だそう。この前にもジミ・ヘンドリックスが「Purple Haze」冒頭でトライトーンをやっていたそうなのですが、サバス以降ヘビーメタル界隈に根づいていき、ジューダス・プリーストやメタリカ、マリリン・マンソン、スリップノットが使っていったそう。スレイヤーの7th題『Diabolus in Musica』はこの技法へのオマージュだとか。

 ということで、1970年代以降メタル界で広まった「悪魔」の技法が、2021年の今ではポップラップとして流行っているお話でした。ちなみに、功績者であるTake A Daytripのサウンドデザインを決定づけた一曲は、カニエ・ウェスト「Devil In A New Dress」だそう。つまりここでも「悪魔」。色々できすぎている……。

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