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BTS対ガガ対テイラー、激戦のグラミー賞ポップカテゴリ深掘り

 BTSはグラミー賞を受賞できるのか? 彼ら主体で推測できる有利と不利な点を挙げる記事を書いたのですが↓

 グラミー賞について書けなかった情報もまだまだあるので、記事の内容を前提に、競合たるテイラー・スウィフトやレディー・ガガ、影の主役The Weeknd含めてつらつら書いていきます。 

戦況:The Weeknd落選サプライズで乱戦に?

 BTS「Dynamite」がノミネートされた第63回最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス賞部門なんですが、記事に書いた通り「誰がとってもおかしくない」激戦状態になっています。実はですね、元々この部門、一部ウォッチャーのあいだでは「The Weekndで決まりでしょ」みたいに語られていました。本命とされていたのはレトロディスコ要素もある「In Your Eyes」リミックス。元々、原曲が3月にリリースされているから「早期リリース」法則によって知名度を稼いでいる。ポップデュオ部門エントリー権があるのはリミックスバージョンで、5月リリースのドージャ・キャット参加版です。The WeekndもドージャもBIG4カテゴリの有力候補だったので、受賞予想の鉄板だったわけです。

 しかし、候補発表の11月、RealSoundELLE JAPANでさんざんお伝えした通り、筆頭候補Weekndがゼロノミネーションの締め出しをされるビッグサプライズが起こった。こうして、ポップデュオ部門の本命候補がいなくなり、予想が難航する乱戦に突入しました。個人的に、Weekndが入っていたとしてもテイラー・スウィフトは充分最強枠だと思いますが、リリースが遅いことに加えて、そもそも『folklore』がポップ部門に入れられるか疑問視されていたりもしてました。主要部門、特に年間最優秀アルバム賞を含めて「本命候補Weekndの全落によってさらに有利になった候補」の代表格こそテイラーかなと。

時期:「早期リリース」法則が破られる可能性

 最有力候補の不在により、勝利に重要とされる「早期リリース」方式が崩れる、つまり期間後半に発表された作品が獲る可能性も高まりました。これまでのポップデュオ部門9ウィナーのうち8作品が早期秋冬にUSリリースをしていたわけですが、ここで、残り1個のレアケース、第61回に受賞したレディー・ガガ&ブラッドリー・クーパー「Shallow」です。このときの締切は2018年9月30日。「Shallow」はなんと2018年9月27日リリースによって滑り込み勝利を決めているのです。BTS「Dynamite」以上にギリギリのエントリーでした。ただ、この「Shallow」は別格とも言えます。なんといっても映画『アリー/ スター誕生』の主題歌。『スター誕生』自体が長い歴史を持つ芸能映画フランチャイズであり、多くの高齢の音楽業界人にとって1976年公開のバーブラ・ストライサンド版は伝説。おまけに曲自体がオールドロック風味なので、レトロ&ロック好きのポップカテゴリ会員にとっては"Hype"な存在でした。

 今回この特例「Shallow」に近いのは、あえて言うなら、両とも「グラミーのお気に入り」であるテイラー・スウィフトとBon Iverの「exile」でしょう。夏リリースなのでスケジューリング的には不利でしたが、同曲を収録したアルバム『forklore』は、サプライズリリース&本格オルタナティブアルバムとしての高評価で"Hype"な話題をつくりあげました。
 ちなみに、基本的にグラミー受賞に熱心な姿勢を見せてきたテイラーは、元々、マライア・キャリーが言うところの「リリース時期をグラミーに合わせるアーティスト」代表格でした。デビューから6th『Reputation』まで全てのアルバムをグラミー得票に有利な10、11月リリースにしています。同6thがグラミーにあまりノミネートされなかったあとは夏リリースに切り替え。そして、2020年パンデミックの時事性を備える『folklore』はサプライズリリースがうまく働きセンセーションを巻き起こしてみせた。これでまたBIG4に帰還すれば「早期リリース」方式の女王が上手いタイミングで切り替えたことになります。

サウンド:BIG4と同じオールドスクールロック志向だが受賞は異なる

 グラミー賞の代表格である主要四部門、BIG4こと一般フィールドですが、こことポップカテゴリは有権者層が異なります。前者は全会員、後者はポップジャンル専門会員。そのため、BIG4とポップカテゴリは受賞結果が異なるパターンが見られます。たとえば、ビリー・アイリッシュがBIG4無双した第62回では、彼女の「Bad Guy」とアリアナ「7 rings」を抜いてリゾ「Truth Hurts」が受賞してたり。

 受賞のズレはあれど、基本的なイメージとして、ポップカテゴリで強いのはBIG4と同じ「(高齢白人が聴きやすい)オールドスクール要素ある大ヒット」、次点「ロックジャンル」が挙げられます。前者の例としては、ポップソロ部門でのアデルとエド・シーラン無双が代表格。後者はポップデュオ部門で顕著。第60回、歴史的メガヒット「Despacito」が破れてポルトガル・ザ・マンの60sリバイバル「Feel It Still」が勝利。第59回では、チェインスモーカーズ「Closer」、リアーナ「Work」を下してTwenty One Pilots「Stressed Out」が栄冠に。

 またもやレディー・ガガが特例を叩き出していたりもします。第61回ポップソロパフォーマンスでカントリーロック寄りな「Joanne (Where Do You Think You're Goin'?)」で受賞してるのです。これ、良い曲ですが、カテゴリの水準的にメガヒットもロングヒットもしたとは言えない。当時の競合はポスト・マローン、カミラ・カベロ、アリアナ・グランデ、ベック。ポップ会員が好む「高齢白人ウケのレトロ要素ある大ヒット」が無かったため、有名スターが早期リリースした「高齢白人ウケのレトロ要素」たる「Joanne」が競り勝った雰囲気です。ガガってバリバリのダンスポップだったキャリア初期は「グラミー不遇」カウントされてたんですが、その後のオールドスクール路線で「グラミーのお気に入り」になった流れなんですよね。今回ポップデュオでノミネートされたのダンスポップ「Rain On Me」なので、強さがわかりません。ガガ陣営もアピールしたように「パンデミックアンセム」の側面もあるのでアワードウォッチャー間では人気候補なのですが、ノミネート数的には、リリース時期も良いジャスティン・ビーバー『Changes』のほうが評価されているとも読めます。テイラーの『folklore』がポップカテゴリにおいても得票しやすいサウンドというのは言わずもがな。

 個人的な印象としては、BTS「Dynamite」も「レトロ要素あるポップ」とは言える気がします。ただ、グラミーのポップ部門で強い非ロックラベル楽曲のって、リゾとか「Uptown Funk」、「Get Lucky」みたいなファンキーなオールドスクール濃いめ。「Old Town Road (Remix)」は珍しいウィナーですが、カントリースターのビリー・レイ・サイラスが参加した版なので。「Dynamite」の場合、ソングライターが強く意識した『Teenage Dream』期ケイティ・ペリー寄りで、「卓越性重視」とか言ってくるグラミー規範に倣うとライトなバブルガム寄りかなと。

結論:期待厳禁グラミー賞

 BTSの受賞ポテンシャルを考えると、浮かぶのは「ポジティブな話題性」、そして「ポジティブなアワードキャンペーン」です。しかしながら「グラミー賞にそういう評判を気にする傾向があるなら今こんな常時罵声を浴びる状態になっていないのでわ……?」が過ぎるので、受賞レベルの得票につながるか何とも言えないんですよね。元々アカデミー賞より予想に使える指標が少ないこともあり、ポップデュオに関しては最初の結論どおり「誰がとってもおかしくない」印象です。もはや全然名前があがらない夏リリースのレゲトン「UN DIA (ONE DAY)」が獲って「デュア・リパどれだけ気に入られてるの……」となるのがグラミーあるあるでもあります。それ以上の定番展開は、レトロ要素ある白人アーティストのBIG4受賞により「はなから期待しちゃいけない」ムード醸成でしょうが……。

 やっぱりWeeknd全落選の衝撃が大きすぎるんですよね。ケンドリック・ラマーとビヨンセのようなスターの高評価アルバムが駄目で、王道ポップスターとしての栄華を極めてみせたWeekndでも駄目。その上、今回BIG4に関しては「幹部が審査会で意識的に彼を落とした」疑惑すら出て糾弾されている。ドレイクが見切りをつけるよう呼びかけたように、もはや授賞式前から「はなから期待しちゃいけない」状態が広がっている。一番大規模でポジティブな予想は、アカデミー賞に落選したジェニファー・ロペスと同じように、WeekndがNFLスーパーボウルハーフタイムショーを成功させて「本物のスターに賞など要らないのだ」と評されることでしょう。

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