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ガガ、Weeknd、BTSのグラミー賞キャンペーン

 パンデミックによって多くの音楽リリースが延期となった2020年ですが、エントリー資格が締め切られようとしている9月、グラミー賞獲得へのキャンペーン戦略が始まっています(同賞のシステムについては拙著『アメリカン・セレブリティーズ』ケンドリック・ラマー章参照)。派手に動いたのは、ともにアルバムをリリースしたレディー・ガガとThe Weeknd。

 それぞれBillboard、Rolling Stone誌のグラミー賞特集の表紙を飾り、ボリュームあるインタビューを掲載しました。ここで重要なのは以下のライン。原文はもっと硬く(戦略的な)言い回しなので意訳ですが……

「2021年のグラミー賞で『Chromatica』と「Rain on Me」はBIG4カテゴリに選ばれるだろう。ガガは11のグラミーを持っているが、同部門で勝利したことはない」
「2021年グラミー賞のトップカテゴリー郡候補となったアルバム『After Hours』は、The Weekndが誇りに思っている作品でもある」

 どちらもグラミー賞の主要4部門(BIG4)の筆頭候補であることを言い切っています。つまるところ、アーティスト本人、そしてレーベルが受賞意欲をアピールするアワードキャンペーン。とは言っても、この二誌のグラミー特集で表紙を飾ることがBIG4勝利につながるわけではありません。元々9月ごろには「本命候補のスター」がほぼ決まっている状態なので、フィーチャーされたアクトがノミネートされる可能性は普通に高いでしょう(特にWeeknd)。

 一応インタビュー内容を深読みしてみると…… ガガのインタビューでは、「Rain on Me」が厳しい2020年において希望のアンセムとなったことが熱弁されています。また、アルバム『Chromatica』がリリース当時R&B、ラップ、ラテンジャンル以外で最大のストリーミング消費を稼いだことなど「グラミー賞BIG4カテゴリにふさわしいアルバムである」訴求がなされている(会員向け戦略として考えるなら、「昔より人気が落ちている」ネガティブ印象対策?)。一方、Weekndの『After Hours』はセールス成績も申し分なく2020年の米国音楽産業を代表するアルバムです。ただし、その内容について「後年もっとも評価されるアルバムではないかもしれないけど、自分にとっては間違いなく最も完璧なアルバム」とコメントしています(会員向け戦略として考えるなら。「初期ミックステープのほうが傑作」評判対策?)。

 そんななか、別の一手に出たのがBTS。英語曲「Dynamite」がBillboard HOT100首位を獲得したのち記者会見で、以下のように目標を語りました。

SUGA:自分が言った目標が一つずつ達成できたということは本当に嬉しいですが、一方では「また話してもいいのか」と思います。目標を決める時、少しプレッシャーになるのは事実です(中略)それでも目標を言わないといけないですね。毎回僕が話すので負担を感じますが、実は僕たちが年初に「グラミー賞」に行きました。そこでコラボステージを披露しましたが、今度はBTSだけの単独ステージをやってみたいと思いました。賞ももらえれば嬉しいですが、それは僕たちの意志でできることというよりも、多くの方々の力を借りなければならないので、まず「グラミー賞」のステージに立ってBTSの歌を歌いたいです。

 謙虚かつストレートにグラミー賞を名指ししたわけですね。これ何気に効くんじゃないか?と思いました。理由は、近年グラミー常連の西洋トップスターたちはグラミー批判がほぼスタンダードになっているから。この問題についても拙著『アメリカン・セレブリティーズ』ケンドリック・ラマー章に書きましたが、たとえば2019年グラミー賞では、デュア・リパとドレイクが受賞スピーチでアワードを批判するようなスピーチを行いました。大賞を受けたチャイルディッシュ・ガンビーノに関しては出席すらしなかった(報道によると、レーベル陣営はガンビーノ受賞のためにアワードキャンペーンに尽力&出資したようですが)。

 また、アリアナ・グランデも運営側を糾弾してパフォーマンスを取りやめています。翌2020年には出演交渉をしていたというテイラー・スウィフトもキャンセルしたと報じられた。理由は明かされていませんが、以下の渡辺志保さんとの対談で持ち上がった、性暴力、性&人種差別、不正ノミネート告発であると噂されています。

 要するに、今のグラミー賞って「常連スターから批判される or 特段持ち上げられたりしない」立場にあるので、BTSの礼儀正しい「グラミー賞は憧れです!」アプローチは幹部に結構刺さるかもしれません。つづいて、その次に来たのがこれ。

 なんかグラミーミュージアムが定額制ストリーミングサービスを開始したんですが、ローンチを飾る目玉インタビューが、今年大々的なアワードキャンペーンを行ってBIG4全勝したビリー・アイリッシュ兄妹。そしてBTSです。彼らの有料コンテンツとなればファンが押し寄せるであろうことは言うまでもありません。アカデミー賞と異なりグラミー賞に予想は禁物なのですが、例えばサブカテゴリであるポップカテゴリの候補に入っても驚くような展開じゃない感じですよね。

 ていうかグラミー賞、あのガチ不正告発のあと「トップ人気ではないけど幹部が好きそうなアクトがBIG4候補入り」芸つづけるのかが気になります。楽しみなのは、文化現象下ネタ曲ことカーディB「WAP」がBIG4入りなるかの行く末……。



よろこびます