見出し画像

写真のセレクトをするタイミング

1.「写真のセレクトは寝かせてからのほうがよい」という先人の知恵

 このことは僕的には写真をとりだして割と早い時期から言われてきましたし、経験のある写真家(特にプロで他人の指導をされてる方は)の方のご意見が一致してます。ただ、なぜそうなのかということまで言及されることが少ないのでここではそれをまとめてみます。

1.1 何故、撮影から時間がある程度たってからのほうが良いのか

 これはこれから話していく二つの大きな理由に影響しているんじゃないかという僕の私見です。参考論文はありませんw

2. 写真をセレクトする時に起こる認知心理学

 基礎的・一般的な写真の良し悪しは教科書的に書かれているので省きますす。これはセレクトの時期に(自分の経験上)あまり影響しません。知識や技術的な問題ですので、セレクトする写真家にとっていつでもどんな時期でも一定です。

2.1  写真自体の持つ多義性

 問題なのは、写真は「多義性」をもつということで、わかりやすく言えばどんなふうにでも解釈できるということです。僕自身は「アートはこうでなくっちゃ」という感じですがw、逆にいえば正解がないのが困ったところ。前述したような、構図やピントや露出なんかがいわゆる適正でなくても見直すと面白い写真を見逃していた、なんてことはこの「多義性」によるところが大きいかと。解釈がいろいろできる分、セレクト時の「気分」によるところが一定程度出てきます。このあいまいな「気分」というのを考えていきます。

2.2 撮影時の撮影者の記憶

 先ほど「気分」と称した撮影者がセレクトする場合の心理的影響の一部は概ね「撮影時の記憶」にあると考えています。例えば画になりにくい景色に偶然いい光が入った時やずっと撮りたかったモデルさんと初めてセッションした時などある種の突発的な気持ちの揺れなどがその記憶の一部を形成しています。その気持ちの動きが写真自体に「客観的に」表現されていればいいのですが、撮影直後だと「撮影時の記憶」が写真にその感動を付加してしまいます。

2.3 ポートレート撮影時の特殊事情

 ポートレートの場合は、モデルさんと写真家の撮影セッションになりますね。撮影の良し悪しは撮影時の関係や雰囲気にかかっています。ただし、撮影の結果としての写真は撮影時の雰囲気や関係性と別のベクトルが働きます。先ほど述べた「多義性」という点で評価が曖昧なうえに、撮影時の「記憶」が付加されてしまうことです。この場合の「記憶」というのは場所や日時などの客観的情報だけではなく、セッションでの一体感・一緒に協力したり提案した時の関係性・提案したものがうまくいったときの快感・想定外の瞬間が画になった時の喜びなど肯定的なものが中心です。すなわち「情緒的な記憶」というのが写真の評価に付加されてきます。特に共同作業であるポートレートは自分一人の快感だけでなく、撮影時の一体感やモデルさんとの達成感がおこりやすいので余計にその記憶が残りやすくそれが写真の評価に影響を及ぼしやすいと考えられます(自戒ですがwww)。すなわち記憶で補完された写真は写真そのものが表現している以上に高い評価をされる(その逆も然り)、ということです
 余談ですがこういうクリエイティブな一体感って癖になるんですよねw。ちなみに、これはその次も撮影したくなるというメカニズムは、恐らく腹側被蓋核からA10神経経由して側坐核への投射および腹側被蓋野から海馬-扁桃体経由で側坐核への投射なんでしょうが、これは嗜癖と情緒的記憶のドパミンカスケードになります。人物撮影が趣味で写真より撮影が好きっていう方はこの辺りが影響してそうですね。

2.4 撮影者による写真の評価は、「記憶」が影響してくる

 で、まとめると、写真の評価は多義性というあいまいさがある故、さらに撮影者のセレクトが撮影時の情緒的な記憶に左右されやすいという二重の意味で写真の評価にバイアスがかかるというメカニズムになっています。ですので「セレクトは第二のシャッターチャンス」といわれるのは写真を撮るとき以上に、さまざまな心理的影響を受けやすいということを表しているのかもしれません。
 ちなみに、これだけ偉そうにいっていても速報出したりセレクト微妙だったりしますので自分ではできているというようなおこがましいことは言えませんwww

3. 鑑賞者と写真家の評価の違い

 さて、このような「情緒的記憶」の問題は鑑賞者とセレクトしている写真家の間で大きな溝を作ってしまいます。というのは鑑賞者は撮影の「情緒的経験」をしていないので写真自体から読み取ったもの以外は存在しないわけです。でのすのフォトグラファーのセレクトと鑑賞者の良し悪しはここで決定的な差がでます(勿論、鑑賞者が大量の写真を見ていて知識があればその差はもっと広がりますが)。写真のセレクト・評価は写真家にとっては撮影時の記憶が影響してくる、それも概ね無意識の状態でそれが影響してくるのがセレクトに大きな影響を及ぼすと思われます。ま、でも、これを良しとしてもいいんですけどね。ただ、SNSを含めてこの点で齟齬が出てくるのは理解していてもいいし、写真展などで少ない枚数の出展だとこのあたりはシビアになってきます。

4. 撮影時の記憶の影響を少なくするためには?

 で、最初の話に戻ります。この撮影時の情緒的記憶は、どうも短期記憶に近いので時間がたてば忘れられやすいようです。ですので、写真のセレクトを時間をおいて行ったり、また、かなり以前の写真をアップしなおしたりする場合、この記憶の影響が受けにくくなるので「鑑賞者」の視点に近づき、写真から表現される以外の付加価値は少なくなる、という仕組みが推定されます。さらに、自分の写真を当事者でない第三者に選んでもらうと写真自体そのものの評価になりますね。レビューしてもらう大事さはそのあたりもありそうです。
 いやあ写真って本当に心がうつるものなんですねw




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?