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コロナ禍における小売業界の動向を調べつつ、返品サービスの大いなるポテンシャルについて考えてみた

週末に近所のスーパーへ行き、洗剤やトイレットペーパーを買う。そんな日常の買い物もオンラインで済ませてしまうほど、ここ1年で食品、アパレル、生活雑貨、etc…と自分自身の買い物体験が大きく変わったと実感しています。そう感じる人も多いのではないでしょうか?

2020年、コロナをきっかけに激変した小売業界。その動向を国内外の資料から調べ、そこから気づいたことを紹介します。

小売業界全体が苦戦する中、販売額を伸ばした業種とは?

2020年10月、経済産業省の経済解析室は「2020年上期小売業販売を振り返る」というレポートにて、コロナ禍で暗妙の分かれた小売業販売の動向を振り返っています。

同レポートの概要を一部抜粋します。
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・ 卸売業販売額は183兆5,420億円と前年同期比マイナス13.0%の減少。小売業販売額は71兆2,490億円と、前年同期比マイナス5.3%の減少。

・ 業態別では、百貨店、コンビニエンスストアの販売額が減少。総合スーパー、家電大型専門店、ドラッグストア、ホームセンターの販売額が増加。

・ 百貨店販売額は、事業所数の減少だけでなく休業や外出自粛等の影響により、1事業所当たりの販売額が大幅に減少し、前年同期比マイナス33.1%の減少。

・ スーパー販売額は、1店舗当たりの販売額が大幅な増加に転じ、店舗数の拡大による販売額増加も加わり、前年同期比3.8%の増加。

・ コンビニエンスストア販売額は、店舗数の減少に加え、1店舗当たりの販売額が大幅な減少に転じ、前年同期比マイナス4.5%の減少。

・ 家電大型専門店販売額は「情報家電」等が増加したため、前年同期比3.5%の増加。

・ ドラッグストア販売額は「食品」を筆頭にビューティケア以外の全ての品目で販売額が増加したため、前年同期比9.3%の増加。

・ ホームセンター販売額は「家庭用品・日用品」等が増加したため前年同期比7.5%の増加。
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2020年上期の小売業界はコロナ禍による外出自粛や休業、営業時間短縮などの影響により、卸売業販売額が大幅に減少し、それに伴って小売業販売額も減少しました。

その中でも、業種ごとに明暗が分かれているところが興味深いポイントです。

たとえば、コンビニエンスストアや織物・衣服・身の回り品小売業、自動車小売業などは、外出自粛やテレワーク増加などの影響で、3月以降販売額が顕著に減少しています。「24時間年中無休」のイメージが強かったコンビニが、時短営業や臨時休業したことはかなり衝撃的でした。

また、百貨店は前年比マイナス幅が大幅に拡大しています。百貨店に関してはおそらく、インバウンド消費減少の影響も大きかったのではないでしょうか。

百貨店やコンビニエンスストアが苦境に立たされる一方、総合スーパーは販売額伸び率がプラスに転じています。これは、不要不急の外出自粛で消費者の行動範囲が自宅近隣に限られる中、飲食料品や生活必需品が充実しているスーパーに対するニーズが増加したのではないかと考えられています。

さらに、家電大型専門店、ドラッグストア、ホームセンターの「専門量販店3業態」はいずれも販売額が増加。家電はビジネスにおけるテレワークやIT化の促進に伴う情報家電の好調、そして特別定額給付金効果による生活家電の復調も指摘されています。ホームセンターは巣ごもり需要の増加でDIY用具・素材などが好調でした。

ドラッグストアは、衛生用品への世の中の関心が高まったことに加え、生活必需品も1箇所に揃う利便性も支持されたと考えられています。ただし、マスク着用で化粧の必要性が変化した(化粧するならアイメイクだけ、口紅はいらない、などなど)からか、ビューティーケア(化粧品・小物)はドラッグストアの商品分類の中で唯一、前年同期比マイナスに転じています。

こうしてデータで振り返ってみると、改めて新型コロナウイルスの影響の甚大さを痛感します。また、外出自粛やテレワークといった人々の暮らしの変化が、消費行動をどう変えるのかがリアルに可視化されますよね。

コロナでEC市場規模とEC利用率の急増は確実

2020年は小売業全体で見ると「停滞」の一年だったかもしれませんが、店舗への来店や対面接客に対する人々の意識が変わったことで、ここ一年で飛躍的に世の中に浸透しているのがECと非接触です。

特に前者の勢いは凄まじいものがあり、コロナをきっかけに、これまで店舗で購入していた飲食料品や日用品も含めて、ネット通販で買い物する機会が急増した人も多いのではないでしょうか。

国外に目を向けてみると、ECの市場のポテンシャルの高さが伝わってきます。

たとえば、経済産業省が取りまとめた報告書によると、2020年のアメリカにおけるEC市場規模は前年比18.0%増、EC化率も前年比3.5%増の14.5%以上に達するという予測があります。

https://www.meti.go.jp/press/2020/07/20200722003/20200722003-1.pdf
経済産業省「令和元年度 内外一体の経済成長戦略構築にかかる 国際経済調査事業 (電子商取引に関する市場調査)」 p.118参照

米アドビ・アナリティクスのデータでは、2020年アメリカのブラックフライデーに消費者がオンラインショッピングに費やした金額はおよそ90億ドル(約9,400億円)と前年比21.6%も伸長。EC活用が急速に浸透していることがうかがえます。

一方、日本のEC市場規模(BtoC)は2019年が19兆3,609億円で前年比7.65%増、EC化率は6.76%で前年比0.54%増と、アメリカほどの勢いはないものの着実に伸び続けており、2020年はコロナの影響で双方の数値が急上昇することが確実視されています。

https://www.meti.go.jp/press/2020/07/20200722003/20200722003-1.pdf
経済産業省「令和元年度 内外一体の経済成長戦略構築にかかる 国際経済調査事業 (電子商取引に関する市場調査)」 p.006参照

ECは今後も継続的かつ大きな成長が見込める分野であり、小売業に携わる事業者にとっては、もはやEC戦略は必須だと言えるでしょう。

返品プロセスはユーザー体験を向上させる重要な機会になる

ところで、EC関連ニュースについて調べていたら、少し気になる情報を見つけました。それは、2020年アメリカのEC売上のうち、約18%にあたる金額相当が返品されたという主旨のニュースです。

全米小売業連盟(NRF)とデータ分析会社のアプリス・リテールの調査によると、2020年アメリカのEC売上の5,650億ドル(約58兆7,600億円)のうち、18.1%にあたる1,020億ドル(約10兆6,208億円)相当が返品されたそうです(ちなみに、ホリデーシーズンは13.3%に増加)。

そのうち7.5%にあたる77億ドル(約8,008億円)は不正であることも鑑みると、返品による損失は少なくないことがわかりますが、NRFバイス・プレジデントのマーク・マシューズ氏は「小売業にとって返品プロセスは、顧客と繋がりユーザー体験を向上させるための重要な機会と捉えられている」と語り、返品が決してネガティブな側面ばかりではないことを強調しています。

では、日本のEC業界における「返品」はどのように考えられているでしょうか?

経済産業省が2020年8月にリリースした「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」では、特定商取引法上の法定返品権について、このような見解が示されています。

インターネット通販は、特定商取引法上の「通信販売」に該当する(特定商取引法第2条第2項)。「通信販売」では、消費者の自主性が損なわれるほどの不意打ち性がないということから、訪問販売等について規定されているようなクーリング・オフ制度(一定期間内に限り無条件で契約の解除ができる制度。特定商取引法第9条等)は設けられておらず、返品の可否や条件については、消費者にとって容易に認識することができるように表示することで、販売業者が自由に決定することができる。
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/ec/20200828001-1.pdf
経済産業省「「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」」p.086参照

つまり、返品の可否や返品条件を消費者がわかるように表示さえしていれば、その内容は事業者側が自由に決められるということ。

これは極端に言えば、(不良品などを除いて)返品不可とすることも、事業者にとって有利な返品条件を設定することも可能になります。

しかし、NRFマシューズ氏の「返品プロセスはユーザー体験を向上させる重要な機会」という言葉を念頭に置くと、返品サービスをとことん充実させたり、カスタマーファーストに基づいて設計したりすることで、商品・サービスの差別化ポイントになり得るとも考えられるのではないでしょうか。

MMD研究所が2020年10月31日~11月2日の期間に実施した「コロナ禍での総合ECサイトに関する調査」によると、国内総合ECサイトの利用トップはAmazonの69.7%、次いで楽天市場が41.4%と、EC市場の勢力はコロナ禍でもAmazonが突き抜けている状況です。

Amazonが圧倒的な人気を誇る理由には、品揃えの豊富さ、商品の探しやすさ(UI設計)、商品が届くスピードなどが主な理由として考えられますが、返品対応をはじめとする優れたユーザー体験も支持されているのではないでしょうか。

先日、私もAmazonで購入した商品がイメージしていたものと違うことがあり、返品ポリシーに基づいて返品リクエストを送ったところ、とてもスピーディかつスムーズに返品処理が行われ、シンプルな手続きで戸惑うことなく返品作業を進めることができました。

このようなユーザー体験を得られると、たとえ商品に満足できなかったとしても「また今度利用してみようかな」という気持ちになります。

近年、返品サービスに特化した海外スタートアップ企業も出てきているようです。今後は総合ECサイトだけでなく自社サイトでD2Cビジネスを展開する小売業者が増えることを考えると、ユーザー体験を高める一つの手段として返品対応がより重要になると同時に、新しい返品サービスへのニーズも高まっていくのかもしれませんね。

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