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忘れられない人⑧

初めて奈美と飲んだ日から、出勤が重なる日は必ず店が終わってから落ち合うようになった。

コンビニで待ち合わせて買い物して公園に行ってり、雨の日はカラオケで待ち合わせたり。結局、どこでもずっと明け方まで話をした。内容はもう憶えてない。たわいもない話だったと思う。でも楽しかったのだけはずっと憶えている。

一度、夜中に有名なラーメン屋にドライブして食べに行った事もあった。背脂多めのラーメンが脂っこくて、二人とも胸焼けして帰り道の途中で奈美が吐いたのを憶えている。その日に奈美の部屋に上がってホットミルクを飲んだ。砂糖を入れるか、入れないかで言い争いになったけど、奈美が言うとおり砂糖を入れた方が美味しかった。

告白は僕の方からした。一目惚れしてずっと好きだったこと。店のルールが気になってなかなか先に進めなかったこと。初めて飲みに行くことになって嬉しかったこと。容姿も性格も全部好きで、付き合いたいという話をした。

『....いいよ』奈美は少し間をとって答えた。実はこの無言の時間に、僕はフラれたと思って胸が張り裂けそうになったんだけど。

その日に、僕の部屋に行った。部屋は片付けてていつでも泊まれるようになってたけど、結局、屋上で過ごした。

付き合うようになってからは僕の部屋の合鍵を渡した。部屋は格段に綺麗に保たれるようになった。

奈美が同伴とかアフターは断った方が良いかと尋ねてきた。「何かあったら嫌だから誰とどこに行くかだけは教えて。アフターの時は迎えに行くから。」と答えた。そのころ奈美には常連のお客さんが4、5人いた。なんとなく店に迷惑は掛けたくなかった。でも、内心は心配で心配で居ても立っても居られなかったけれど。店でみせる高嶺の花みたいな凛とした姿と、深夜に自転車で二人乗りしてふざけてる姿と、いったいどっちが本当の奈美なんだろうと思った。どちらも大好きだったけど。

一度、奈美がアフターでお寿司屋さんに連れていってもらって、寿司折をもって帰った事があった。奈美が「一緒に食べよ」って言ってくれたけど、他の男が買った寿司を食べる自分がなんだか惨めに思えて、不貞腐れて「要らない」って答えた。そしたら、奈美が今にも泣きだしそうな顔をしてて、悪いことをしてしまったと思った。僕は正直に、自分が惨めに思えたことと「僕も奈美をちゃんとした寿司屋に連れて行けるようになりたいから、もう少し待てて」って答えた。結局、奈美は泣きだしちゃったけど。

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