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忘れられない人④

翌日17時にセクキャバの店長と面接することになった。比嘉がスーツを着てこいというので、祖父に大学の入学式のために準備してくれたスーツを引っ張り出して着た。こんな怪しいバイトの面接のために着るのかと思うと、なんだか惨めな気分になった。

店の前で待っていると比嘉は約束の時間の5分前にやってきた。比嘉でも社会人になると時間を守れるようになるのかと感心した。比嘉に案内されて店の中に入ると店長がいた。店長は50代でスカスカの髪の毛をリーゼントにしているオジサンだった。今思うと何度目かに逮捕されたときの田代まさしのようだった。ワイシャツの袖が茶色に変色してボロボロだった。この人は、ひどく貧乏なやばい人だと一瞬でわかった。

店長は、比嘉より30歳は年上なのに部下という複雑な関係で、比嘉のことを「比嘉マネージャー」と呼んで、へりくだったというより卑屈に話していた。

比嘉が「俺の同級生で飲食は初めてだから、手取り足取り教えてやって。覚えは良いはずだから」と紹介してくれた。面接というより紹介だった。

とりあえず、最初は店の清掃とキッチンを担当することになった。最初は余裕ないと思うけど、余裕が出てきたら店の様子や他の人の働きぶりをみて学んでみてということだった。

キッチン担当はそんなに忙しくないだろうと鷹を括っていたが、20席以上ある店だとかなりてんてこ舞いだった。少しでもモタモタするとホール担当から容赦なく怒鳴られる。

そして働いている人達はとこかの人としての何かが欠落しているように思えた。

ボーイ同士は地元のヤンキー同士でよく殴り合いになっていたし、話す内容は車の話くらいだ。

働いている女の子達は平気でドタキャンするし、更衣室に平気でバナナの皮が無造作に床に捨ててあったりする。ゴミ袋に捨て丁寧に床を拭きながらマリオカートかよって思った。

セクキャバのボーイは社会の底辺で、まさしく女の子が身を削って稼いだお金で食べさせてもらってのでしょうがない。愚痴を黙って聞くくらいならかわいいものだが、嫌なお客さんに当たって逆ギレされ罵倒される事も多々あった。

2 ヶ月くらい働くと、ホールとか酒の発注とかひととおりの仕事を覚えてきた。裸の女性にもあまり興奮することも無くなり、仕事だと割り切れるようになってきた。店長は、「〇〇大の学生さんだね。仕事の覚えが早いわ」と働きっぷりを褒めてくれて、よく飯にさそってくれた。実際は比嘉の友達だったからおべんちゃらだったのかなと思うけど。

それでも、多分この人達は人としての何かが壊れてるのだと感じて心が荒んできた。

系列の店舗同士で抜きものやアイスなど品物を貸し借りして回していた。また、系列の各店舗で人が足りないと従業員を融通し合ってもいた。僕は一番の若手でお使いや手伝いは僕が主に担当した。

キャバクラには比嘉の事務室(と言っても事務机が置いてあるだけだけど)があって比嘉と話ができるので、キャバクラの方に行くのが楽しみだった。

でも実際には別の理由があった。

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