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タビオ

社会科の記者になって3年。
今日はある人物をインタビューする。
その人物に会いに刑務所に来ていた。

その人物は革命を成し遂げた。
10年前の血の火曜日事件。議会が開催されていた国会議事堂に過激革命軍数千人が押し寄せ、議事堂を制圧。瞬く間に革命軍リーダーを王とする統治国家を樹立。この国初の絶対王政政権が誕生したのだ。

今日会いに来た彼はそのリーダーだった。
彼による王政国家は約半年で転覆する。この時代のこの国の民には王政は受け入れられなかった。彼らがそうしたように、力により制圧されてしまった。

面会場に彼がやってくる。
彼の見た目は何も変わっていなかった。この国の王になった頃と髪型も体型も目つきも何も変わっていない。少し笑みを浮かべた表情も何も変わっていない。
透明なケース越しに僕らは顔を突き合わせた。

彼は冷静に僕の質問に答えていく。
当たり障りのない答えが返ってくる。どこの雑誌に書かれている芸能人の答えを音読してるような答え方だった。
革命を起こした動機を訊かれた時でさえ、この国を良くしたかったからと一言で済ませてしまう。

そんな彼が情熱的に語り出したのは、
「どうやってあれだけ多くの人を革命に扇動することができたのか?」という質問の時だった。

「黄色い靴下ですよ」と彼は話し始める。
「私はファッション系ECサイトを運営していたのですが、とある個人商店から1組の黄色い靴下が持ち込まれたのです。

『この黄色い靴下は、糸を染めるところから編み込むところまで全て手作業でやっている。だからとても質が良いし、高価なものだ。
ただ、その工程の中で誤って呪いをかけてしまった。その呪いはきっとあなたなら上手く使うことができると思う』とその個人商店社長は言うのです。

その呪いとは?と私が問うと、
『この靴下を履いたものは自由意志を失う』

この社長の言葉が全てでした。
この靴下を履かせることで、私の意のままに人々を操ることができると確信しました。

黄色い靴下を無料で配布し、そして配布した人々にメールで指示を出しました。
何でも彼らは私の言うことを聴いてくれたのです。

あの革命も同じです。
黄色い靴下を履いて彼らは立ち上がったのです」

僕は思い出していた。
国会議事堂を占拠する革命軍の足下は、みんな黄色かったことを。

その黄色い靴下は今どこに?と尋ねる。
「まだありますよ。というより、革命軍のメンバーはみんなまだ持っています。私が指示を出せば、きっと彼らはまた動き始める」

インタビューが終わり、彼は立ち上がって後ろのドアに歩いていく。
足元には黄色い靴下が見えていた。

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