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若者の政治離れと「時事問題」

オードリー・タン「まだ誰も見たことのない『未来』の話をしよう」

オードリー・タン「まだ誰も見たことのない『未来』の話をしよう」を読んでいる。最初はITを活用した政治の話を見るものだ、と思って読み始めたのだが、途中から予てより自分が思っていた「若者の政治離れ」に直結することが書いてあって、大変に勉強になっている。塾教師してた頃に読んでたら普通に皆に勧めていただろう話。

「ソーシャルイノベーション」による国民の支援、そのためにあらゆる場面で論壇の門戸を広くとる。そこにデジタルが活用され、そしてその成果物はオープンソースとして新たなイノベーションや、場合によっては台湾国外の人々の生活に資する形で提供される。投票権のない若年層にも、意見を発信する機会は平等に与えられており、そこで発信される意見に老若男女が議論し、必要ならば支援を惜しまない。
そりゃ若いうちから政治的な感性が磨かれれば、20代の投票率8割越えになるのもうなづけるのだ。そして自分たちが課題を解決して終わり、ではなくそれが世界全体に広がった経験を共有していれば、自分が今いる狭い社会の幸せが満たされたとしても、政治への要求がやむことはない。

「若者が政治に関心がないことは、悪いことではない」「それだけ日本で平和に暮らしているということだ」

麻生太郎氏の講演より引用

確かにまことそのとおりだ、と聞いた瞬間は思っていたが、グローバル化する社会の中で、日本で平和に暮らしているから政治に関心がなくて良い、という感性は、(間違っているとは今でも思わないが)疑ってかかってもよかったのではないか、と少し反省する。

私は社会科の教師だったから、政治の話をせざるを得ないことが多かった。
割と生徒たちにも、若者の政治離れ、というのは認識があったようだが、投票に行かないから関心がない、とは思っていないし、投票に行くのもいかないのも権利だからどちらを勧めることもなかった。
でも、自分たちにとって不利な状況や思わぬ困苦があって、それを政治なら解決できる、という場面は存在するし、投票するにせよ立候補するにせよ、そういう手段で社会の未来を変えられることは知っておいてほしい、と思っているし、それを手を変え品を変え話してきた、つもりだ。

その中で、大変に疑問に思ったことがあったので、そのことを書こうと思ったのに、前置きがずいぶんと長くなってしまった。

定期テストにおける「時事問題」への疑問

現行の指導要領においては、観点別評価における観点の1つとして「主体的に学習に取り組む態度」が存在する。
それを客観的に計る目安として、定期テストに時事問題が出題されることがある。私が指導していた地域では、半分近い中学校で、○月○日~○月○日のニュース、という形で範囲が示されて、そのニュースの中から問題が出されていた。
定期テストでいい点を取りたい生徒たちからは「時事問題の対策プリントが欲しい」と言われたこともあったし、テストで点数を取らせるのも大切な仕事だから実際作ったりもした。インターネットで調べれば、様々な塾が動画やテキストで、時事問題のまとめをつくって公開している。
そして実際に出題されている問題を見ても、そういったものを丁寧に勉強すればとれるような問題が多い。

Q1、ウクライナの首都の日本における呼称が、キエフから(    )に変更されることが発表された。(     )に当てはまる言葉を答えよ。
Q2、フィンランドが加盟を目指している、北大西洋条約機構のことを、アルファベット4字で何というか。

いかにもそれっぽい問題をつくってみた

で、これで「主体的に学習に取り組む態度」が計れているのだろうか。
現場の教師たちも気づいているはずだ。すでに世の中には「時事問題の教科書」が山ほど存在し、それを丸暗記している生徒が〇をもらっているのが実態ではないだろうか。(もちろんそうでない生徒も〇をもらう。興味関心の本当にある生徒はノー勉でもとれる。)もちろんそれを読み漁るのも主体的な学習かもしれないが、であれば教科書を一生懸命読むのも主体的な学習で、わざわざ時事問題で計る必要はないのだ。

Q1、この3か月で日本の国会で決まったことを1つ挙げ、それに対する賛成・反対とその理由を述べよ。(賛成・反対どちらを選んだからと言って減点はしない)
Q2、2022年のウクライナについて、あなたが知っていることを3つ箇条書きせよ。

採点が大変、という意見はいったん置いといてほしい。
他に現場の先生方が削るべき仕事はたくさんあると思う

Q1はおそらく大人でも答えにくい難問。
文通費を日割り支給にしたこととか、ゼレンスキー大統領の演説とか、多感な時期を考えるとAV出演者の保護に関する話題を挙げてくる生徒がいてもよい。そして、国会で話し合われることは本来賛成反対がわかれることなので、教師が「正しい方向に導く」ことのできないものばかりのはずだ。
Q2は採点が死にそうだが、本当に関心があれば、ニュースに流れていないことを書いてくるかもしれない。
・首都はキーウだ(もちろんキエフでも○)
・人口が約4000万人だ
・元コメディアンが大統領だ
とかでも○なのだ。
3つ目はちょっと目に触れて気になったので調べたことがあった(リンクはWikipedia)。日本でいうところの大泉洋が首相になるような感じか?「ザ・政治家」からの信任を得ないといけない議院内閣制よりも、大統領制だからこそ可能だった人事のように思う。閑話休題。
つまり、関心があれば、教えられたこと以外のことを知ろうとするし、それこそが「主体的に学習に取り組む態度」ではないのだろうか。その成果を発揮するテスト(舞台)を用意するべきだし、覚えるだけの時事問題を出題されて、「ニュースのキーワードを覚えたら評価される」なんて感覚で大人になったとしたら、その人が世の中を変えるために投票に行こうとか、立候補うしようなんて思わなくないか?と感じてしまうのだ。

※ちなみにそもそも「主体的に学習に取り組む態度」を引き出すのが教師の仕事じゃねーか、そこに低い評価をつけるんなら自分の力量不足を反省しろよなと本当は思っているのだけど、そこは今日はおいといて話しています。

この時事問題一つで何かが変わるわけではないが、日本の主権者教育を考えるうえで、もっとも疑問に思っていたことの1つだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

ちなみに台湾式の政治システムを取り入れるには、越えるべきハードルはあまりにも高いが、例えばこのnoteのようなオープンに意見を発信できる場で、もっともっと活発に政治の話が行われるようになってほしいし、定期的に行っている「特集」に日本の省庁が「○○についてどう思う?」をお題に記事を募集したっていいように思う。台湾のように新しいプラットフォームを次から次へと立ち上げずとも、既存の民間のプラットフォームを活用すれば、もっともっとたくさんの意見が集約できるはず。
日本では政治家が考え、意見を言い、国民が賛成か反対か考える、という感じだが、台湾はあくまで元の意見は国民ベース、(もちろん国際問題は政府ベースになってしまうが)政府や立法機関はそこに追従していることも興味深かった。

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