ひとを変えるものとは

学生時代を思い出すと人を傷つけた鮮明に思い出が蘇る。
特に男の子を傷つけた。

入学式当日に私に一目惚れをしてくれた人と付き合った。
女子校生活で彼氏ができても、距離が遠いせいか相手は共学だからか、向こうの都合に合わせて会うことしかできなくて、うまく感情を表に出せないまま時間だけが過ぎたり、しつこく連絡をしたりということをしてしまっていた私は、告白されてそのあと近くに恋人がいてくれるということを体験してみたかったんだと思う。

しかしその一目惚れした人はあまり好きになれなかった。
でも別れを告げることができなくてズルズルしているうちに他に気になる男の子ができた。
その男の子も私のことを好いていてくれているのがわかったからなんだか嬉しかった。
2人で話すのが楽しくて、どこか知的で、心優しくてちょっと不器用な感じがするその男の子のことがちょっと好きになった。
でもそれはちょっと好きという程度の気持ちだった。
私たちは彼の家でオムライスを作るデートをした。
「なんとなく、これは良くないことだろうな」というのは分かっていたけれど、「この人とうまくいったら今の彼氏に別れを告げればいいや」と思ってした軽率な行動をとった。
オムライスを作って、テレビを見て、ゲームも少しやったかな、すごく楽しかった。
彼といるといつもどこか冷静を装っている自分が子供に戻れるような気がして、すごく心地よかった。
天使のような人だった。
少し野暮ったかったかもしれない、けど心はいつも温かくて私のことをよく見てくれていた。
私の感情の変化にもよく気が付いてくれた。
そんなこと、家族にもされたことなかったから、すごく嬉しかったんだ。
彼はなぜか私のことを「ねえさん」と呼んでいた。
「ねえさん今日元気??」「あれ、ねえさん今日は元気ない?」って、気にかけてくれたんだ。
最初はそれが私に対してだけ言われているということにも気が付かなかったけれど。

でもそのあと、2人でオムライスを彼の家で作ったことが彼氏にばれてしまった。
どういうことなんだという話になって、彼氏は周りの友達にそれを相談して仲良くしていた人たちに私は嫌われた。
そんな視線が痛かった。なんだか消えたくなった。
だって別れてくださいって、言えなかったんだ。
なんだか心に引っかかるものを感じながら、目先の友達との飲み会やサークルでの遊びや趣味で心を紛らわしていたらいつの間にか時間が経っていた。
自分の心をごまかすことだけが笑っちゃうくらい上手かった。
そのあと私は彼氏に呼び出されて、なんだかその会話は全然覚えていないのだけれど、後半私は泣き真似をした。
いや、たぶん心はほんとに泣いていた。
「別れたいのに別れたいと言い出せなくて、好きな人にも軽いって思われちゃったな、悲しいな。仲良しだった友達も一気に私を嫌いになって悲しいな、消えたいな」って。
でも涙は目から出てこなかったから、泣き真似をした。
体調が悪そうなフリもした。
そうしたらこの場所から早く抜け出せると思ったからだった。

そして私は彼氏と別れることができた。
だけど好きな人に乗り換えることはしなかった。
心が浮ついたのに私だけが幸せになるのは違う気がした。
だから結局私のことを好きになってくれた天使みたいな人にも冷たい言葉を言わないといけなくなった。
「私はあなたと付き合うこともできない」って言った。
たぶんラインで言った。
そのあと私を好きになってくれた彼はSNSで歌の歌詞を書くようになった。
私と仲良くしていた女友達をそれをメンヘラといって笑ったけど、私は笑えずただ心が痛かった。
彼がこんなに歌を書くのがわからなかったけど、きっと私のせいでこうなっているということは分かったから、なんだか見ているのがつらくなってSNSを全部絶って、授業にあまり行かなくなって家で映画ばかり見て腐った毎日を送った。

映画をたくさん見た日々は私にいろんなことを教えてくれた。
映画を見るようになってから私は「優しい人になりたい」と思うようになった。
人に優しくできる、人のことを傷つけない人になりたいと思うようになった。

でも自分の感情というものはいまいちわからなかった。
自分の感情を言葉にするだけの語彙力がなかったんだと思う。
語彙力だけじゃなく感性も。
人の気持ちを想像する力も、自分の行動が人に及ぼす影響を想像する力がなかった。
だから目の前の人を傷つけたんだと思う。

一人の天使のような男の子とたくさんの人の人生と感情と思考の産物である映画が、私を優しい人に育ててくれた。
優しい人というのはもともと優しかったわけではなく、人を傷つけたりそれによって自分が心を痛めて同じことを繰り返さないようにしていたから優しくなったんだね。

今の私は優しいし強い。
今の私がどうなりたいかと考えたとき、それを一言で言うならば

「人を守れる人になりたい」

ということばになる。

これまでたくさんの人を傷つけてきたから、私みたいに人間的に未熟な人のせいで傷ついた心優しい人を癒したいと思う。
そして未熟なことで人を傷つけてしまう人の感性を育てたい。

そんなことをぼんやり考えている。


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