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春うらら 

「すみません。死にたいんですけど」から始まるLINE。誰かに送るわけでもなく、自分しかいないグループLINEに送る。どうしようもない時の吐き場所として作った自分だけのグループLINE、どれだけトークを遡っても出てくるのはこの一文だけ。いつからだろうこの文を頻繁に送るようになったのは。



いつものように【自殺 掲示板】で検索する。自殺願望を持つ人たちが自分の境遇やどんな自殺方法がいいかなど自由に書き込める掲示板があるのだ。『じ』と入力しただけで予測変換に『自殺』が出るため検索もお手の物だ。厚生労働省のサイト、いのちの電話のサイト、某放送局のサイト。約500万件の検索結果。1番下までスクロールして、次へ、次へ、次へ。






















〈404 not found〉


先日まで見れたサイトは既に閉鎖されていてもう開くことすらできないらしい。同じ願望を持つ者の悩みを見ることで、身近にいるように感じて、自分だけではないのだと安心していたのに。またひとつ居場所を失った。けど大丈夫、きっと他にもあるはず。また探せばいい。



今日の出演作はゾンビ映画だった。通行人Eとして突然舞台が始まる。街には沢山の人が倒れていて、血が流れ、身体の破片があちこちに飛び散っている。ここにいてはいけない。猛烈な吐き気を抑え何が起きているかわからないまま走り出す。もう死んでしまいたいと思っていたのに、本能が生きようとしているようで走る足が止まらない。本当は死にたくないのかもしれない。大丈夫、安全な場所があるはず。

無我夢中に走っている所突然出てきた人にぶつかる。謝らなければ、と顔を上げると顔も身体もぐちゃぐちゃの人だったもの。これに捕まったら終わってしまうんだ、とドクドクと脳に響く心臓の音を聞きながら考えるも身体が動かない。所詮通行人Eなのでそのまま呆気なく噛まれてしまう。痛いのは嫌だな。次々と襲われて、腕も顔もお腹も、全部がぐちゃぐちゃになっていく。痛くて涙が出そうなのに、そんな感覚も分からなくて、少しずつ目の前が真っ暗になる。もしかして、私もゾンビになっちゃうのかな...って意識が途切れたところで目が覚める。太陽が眩しい。



今日もまた世界が滅びていないことに絶望する。空から大きな隕石が降ってくる夢、太陽が近づいてきて全てが燃えていく夢、世界が海に沈む夢。寝すぎてもう見る夢すらとっくのとうに無くなっている。大丈夫、次こそは醒めない夢が見れるから。


重たい身体を起こして財布だけ持って家を出る。生暖かい空気と春の匂いに包まれながら川沿いを歩いていると、桜がぽつり、ぽつりと咲いていて、自分が知らないうちに春がもうすぐそこまで近づいてきているのを感じた。


アルコール消毒をし店内をグルリと見渡す。まずは医薬品コーナー。沢山入っていそうなものの中で錠剤が小さそうなものを選ぶ。薬を飲み込むための飲み物がないから次は飲み物コーナーへ。ストロングゼロを2本。

「袋にお入れしますか?」
「いや、大丈夫です。」

久しぶりに出した声。年齢確認されなかったな。ポケットに財布と薬を入れて元来た道を歩く。久しぶりに暖かい日差しを浴びて喉も乾いたし、1本だけ開けてしまおう。ずっと「大丈夫」と言い続けてきた。いや、言い聞かせてきたのかもしれない。きっとこれが自分の最後の言葉になる。目的も果たしたし早く家に帰らなきゃ。春に追いつかれてしまう前に。









それでは、おやすみなさい。



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