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物語でいろどる秘境の本棚

毎週水曜日が休館日な、小宮山剛プロデュース中の椎葉村図書館「ぶん文Bun」。宮崎県は椎葉村、日本三大秘境の地にあります。

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こういう休館日に私たちが出勤して何をしているかというと、皆さんが次来てくれたときに「おっ、変わったな」「イイ感じになったな」と思ってくださるような仕掛けをごそごそと考えているわけです。

今回は、ぶん文Bunの中でいろんなテーマに分かれている本棚を「物語」で彩ってみましたというお話です。

📚図書館の分類方法に納得がいかない僕

ぶん文Bunのテーマは23の漢字に分けられているのですが、それは日本で(世界で?)唯一のこと。「1」とか「8」とかの無味乾燥な記号で分類するのはつまらないな…ということで、ある程度抽象度がありつつも「これは面白いかもな」と思ってくれるような心地よいひっかかりを生んでくれる意味媒体として、僕は分類記号に漢字を選びました。

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そして普段思っていることなのですが…「小説が小説の棚に収まっているだけ」なのが図書館の常だし、分類上そうしなければならないと思うのですが、それってとても勿体ないことですよね。

小説・物語というのは多様なテーマに溶け込み、隣り合うテーマを次々に連鎖させる力をもっています。というのも、物語というものは決してひとつのテーマには収まらない可能性やおおきさを秘めているからです。

日本の図書館はそのほとんどが小説だけの棚(用語で「9類」と言う)で埋め尽くされていて、だいたいが「作家名のあいうえお順」で並べられた小説がきちんきちんと収められています。

実は、ぶん文Bunの立ち上げ企画の段階で僕は、小説の分類をつくらないほうがいいんじゃないかと考えていたんです。小説を小説として取り扱わず、あくまでそのテーマに応じたディスプレイをしてあげる。僕は2020年7月18日のぶん文Bunオープンまでに、そんな仕様を固めたかった…。

しかし実際は、オープンまでに小説を何千冊も集め、その全てのテーマを抽出しテーマごとに分ける…という作業にまで至ることはなく…。海外・邦文学どちらも頭に入っている年表をもとに小説を選びはしましたが「やっぱり作家名で探したい人もいるんじゃないか?」といった議論もあり、結局のところ海外文学を「文学の海」とし、日本文学を「文学の森」いう分類に振り分けました。広く泳いでいくような海外文学への旅と、深く分け入るような日本文学への探求が何だかしっくりきましたね。

とはいえ「あいうえお順」だけはどうしても納得がいかなかった小宮山。そこで作家名での並びを維持しつつ何か面白い…「見るだけでおもしろい」棚をつくれないかと考えた小宮山。

出てきた折衷案は「棚で文学年表をつくる」というものでした。

📚小説の棚を、見るだけでおもしろいものに

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日本文学の「森」には「作品をあるくクロノロジー」と副題をつけ、右から左へと進むごとに作家が「若く」なっていくように仕掛けました。つまり、作家の生年月日の順番で小説を並べていったのです。

右から左へ歩いて行けば、だんだんと最近の作家になっていく。そんななかで「お、この人たち同年代だったの」とか「俺と同い年!」みたいな発見がある。まさに、見るだけで学びになるような場をつくってみました。

「図書館の常識」としては、本の並びは左から右へと数字的な流れで配架(本を並べるという意味の用語)されなければならないようで、見学にいらしていたとある市の図書館長さんが驚いていらしたことが印象に残っています。

海外文学についても、英文学・米文学・仏文学・独文学・スペイン語圏の文学・アジア圏とおおまかなクラスターにわけながら、その中で作家を生年月日順に並べています。ノートン版のアンソロジーなんかを使って各国の「メインどころ」を拾い上げ、作家たちを生年月日順に並べていく作業は、なかなかにこころ楽しいものでした。

あとは、ノーベル文学賞を受賞した作家たちを受賞年順に並べたゾーンがあります。ここをたどれば世界文学の系譜を「総ざらい」できるというわけです。

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📚物語でいろどる時がきた

・・・と、こんな風に一応大人しく小説を小説として扱っていた僕なのですが、ぶん文Bunが開館して半年を過ぎたいま、徐々に余裕も出てきました。

そしてまた、実際問題として小説が増えてくると「年表のかたちが崩れてしまう」という問題が起こりました。棚の区切りごとに日本の重要な出来事(東京オリンピックとか、世界大戦の終了とか)を記すことで年表のマイルストーンを示していたのですが、枠ごとに小説が収まらないようになっては結局大きな並べ替えが必要になってしまいます。

このピンチ…。僕は「時はきた」と考えました。いよいよ、ぶん文Bunにある様々なテーマを「物語でいろどる」時がやってきたのであります。僕は自分がよく知る小説を基本として、あるいはテーマを調べながら、「文学の森」の中で悪く言えば埋もれかけていた小説たちを新たなテーマへと振り分け始めました。

こうして移動させることで、棚に風が当たります。そうすることで、今までその本に出会うことがなかった方の眼につくようになったり、新しい興味を喚起することができるのです。

ぶん文Bunは「本を探す」場所ではなく「本と出会う」場所。僕はまさに今、新たなセレンディピティをつくろうとしているのです。

以下、これから始まる物語のいろどりを、ちょっとだけお見せいたしましょう…。

📚いろんな分類の棚を、物語でいろどる

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むちゃくちゃ小説・アンソロジーが並んでいますが、これはぶん文Bunでいう「食」の棚。「食文化の環」という棚です。ポプラ社さんのおいしい文学賞を受賞した『母さんは料理がへたすぎる』や、瀬尾まいこさんの『幸福な食卓』がこの棚の可能性をぐっと広げてくれます。

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『流』と『宝島』はセットで読んでもらいたいのです。半島〜大陸の問題を扱う棚と、アメリカ問題を扱う棚との間にいいつなぎができました!

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シングルコーナーに瀬尾まいこさんの『卵の緒』をおいてみたり。

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ゴールデン街の棚を馳星周さんにもっと賑やかしてもらったり。

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馳星周さんの直木賞受賞作はこちら・・・。

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しっかり、わんさんコーナーに展示しています。西加奈子さんの『さくら』も、ぜひとも犬本と共に手に取りたいですね。

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猫さんだって負けていません。猫アンソロジーを岩合光昭さんと並べるというネコネコぶりです。

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辞書と新書と小説がむすびつきました。三浦しおんさんの『舟を編む』は、辞書をつくるストーリーが感涙を呼ぶ作品ですね。

📚大事なのは「探し方」より「出会い方」

多分「私だったら他の棚に置くかも」という感想があったり「恣意的ではないのか」という疑問があったりすることでしょう。大いに結構です。また「小説を探している人が困ってしまう」という声があるかもしれません。

ただ、小説家の名前で探す際はぶん文BunのWeb OPAC(ウェブ上の書誌探索)で探してもらえば、どのコーナーにあるかだけでなく、どの棚のどの「箱」の中にあるかまでを、テーマの漢字と箱番号の数字を組み合わせて教えてくれます。ためしに、下記にあるぶん文Bunウェブ検索(ぶん探)にてお気に入りの一冊を探してみてください。

はっきり言ってしまえば、既に知っている本を探す人のことは「ほうっておいても大丈夫」ということです。僕が可能性を拓くべきなのは、まだその物語を知らない人、小説なんて読んでも面白くないと思っている人、あるいはその逆で(そしてこれが大切)「本好きとは小説好きである」と思っている人の新たな出会いについてだと思うのです。

図書館が小説ばかりで埋め尽くされるから、フィクションなんて役に立たないという路線にのっかって、図書館は貸本屋だの図書館は文化政策だの図書館は金の無駄遣いだのと言われるのです。図書館も図書館で、ベストセラーを何冊も何冊も買ったり、とりあえず人気の小説は買っとけという判断をするから、責められる隙だらけになってしまうのです。

大事なのは小説にせよなんにせよ「その図書館にだけふさわしいものを選んでいるか?」ということです。そして集められた媒体を駆使して「その図書館でだけ味わえる物語をいろどっているか?」ということ。これが一番大切です。

📚図書館よ、意志ある仕事をできているか

先ほど「恣意的ではないのか」という疑問が生まれる余地について言及しましたが、逆に言えば図書館の配架というものには「意志がない」のです。なぜ本を買うのかが自動的に決定されてしまう(業者に選書を丸投げしちゃう)なんてことは図書館の死そのものなので言語道断ですが、なぜそこにその本を置くのか、何をその本でむすびつけるのか、そのディスプレイは有効か?有機的か?人の眼を惹きつけられるか…?そんなことを考える余地がない図書館であってはならないのです。

しかもそれは「この図書館だけの意志」を反映したディスプレイでなければなりません。
※このあたりは小宮山剛のブログ「意志あるところ本あり」に詳しく書いております※

📚意志ある棚つくりを実現するために

図書館関係ではない方には伝わりづらいかもしれませんが、実は、こういう風に「動かしちゃおっかな~☆」みたいな感じで本を動かすということが、一般の図書館では難しいのです。多分、まわりの図書館職員から怒られるでしょう笑。

というのも、図書館で本を探すときに使う背表紙の大きなラベル(三段ラベル)の表示を変えたりしなければならないとかなんとか、色々大変なんだそうです。すみません…この点はちょっと「フツーの図書館」があまりよくわかっていません笑。

とにかくこんなふうに、ちょっと動かしてみよう!という感じでディスプレイを変えられるのが、ぶん文Bunで採用している図書館システム「Change Magic」と、本に貼っているカラーバーコード「LENコード」の強みです。

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↑これはぶん文Bunの本ですが、背表紙の下部にちょこんと可愛く貼られているのがLENコード。可愛いでしょう?

📚tupera tuperaさんのご提案によせて

最近絵本作家のtupera tuperaさんが問題提起をしてくださっていたのですが、LENコードのように小さいシールでなくバーコードを貼らなくてはならない図書館だとこんなに哀しい出来事が起きてしまうのだとか・・・。

tupera tuperaさんの絵本は表紙がとても印象的で、つくり手の思いをしっかりと図書館のお客さまに伝えるためにも、こんな仕様はあってはならないことだと思います。LENコードの可愛さが、じつはとても大事なのですね。

うちのニホンミツバチ、コハチローもtupera tuperaさんへしっかりアピール。ぴしゃっと仕事をしてますな。

ご覧のとおり、表紙をしっかり見せていますね。あとはISBN読みこみ用のバーコードもあまり美しいものではないので、ぶん文Bunオリジナルシールを貼り極限まで隠しています(バーコードの先端だけ読みこめるようにすれば大丈夫なので)。

📚大事なのは、本のある場をどのように魅せたいかという意志

最後はいろいろとLENコードの仕様について話しました。とはいえ一番大事なのは「魅力的な棚をつくりたい」という思いや「意志あるところ本あり」の気持ちで意志ある棚をつくっていくことです。

この思いやコンセプトがないままLENコードを導入しても、ただICタグの金額を抑えられて読み取り機械が安くなる(ウェブカメラでOK)だけに終わってしまうのかもしれません…。まぁ、それだけでもメリット充分なんですけれど。

椎葉村図書館「ぶん文Bun」で採用しているシステムやLENコード、そしてコンセプトメイクには「図書館と地域をむすぶ協議会」の太田剛さんに関わっていただいております。下記の動画は、LENコードの作成をはじめぶん文Bunの図書に係る整備を務めてくださったナカバヤシさんが主催するセミナーにて太田剛さんと小宮山剛が「剛×剛」の対談をぶち上げているものです!

この動画をご覧いただいてもわからないことがあったり、もっと訊きたいことがある場合は是非宮崎県の日本三大秘境・椎葉村まで遊びにいらしてください…。と言いたいところですがスケジュール的にも世情的にもなかなか遠くて来られないという方が多いかと思いますので、よろしければウェブミーティング(Google MeetやZoom)にてご案内をさせていただきます

実際にぶん文Bunの中、また椎葉村交流拠点施設Katerieの内部もご覧いただきながら御説明をしつつ、楽しくお話しできれば嬉しいです。

また、最近は『みんなの図書館』に論文も投稿しております。同誌5月号~8月号の4回にわたり連載する「日本三大秘境椎葉村、クリエイティブ司書爆誕秘話」にて詳述しておりますので、手に入れられる方はどうぞご覧ください…(それこそ図書館に置いていることが多いかもしれません!)

…ちょっと「図書館のもようがえしたよ~」くらいのライトな記事にするつもりが、気づけば5,000字…。本当に反省します。次こそは2,000字くらいのプロダクト・ライティングに徹するんだ!!

いやいいよこのままで!!長くてもいいんだよ!!という方は是非、この記事にも「いいね」をお願いいたします笑。

それでは、ここまでお読みいただきありがとうございます。

またの機会に…。