のび太から学ぶ「すごい問い」
こんにちは。
気づけば今年も残りわずか。体調に気を付けて過ごしたいですね。
今回のコラムは、人間とAIをつなぐものについて考えてみたいです。
台湾の政治家でありプログラマーであるオードリー・タン氏によれば、かのパンデミックの最中、台湾においてもっとも避けたかったのは、いわゆる「デジタルデバイド」によって弱者を救えなくなる、という事態だったそうです。
山間部に住み、スマホを触ったことのない90歳のおばあちゃんでも、都会と同じスピードでマスクが入手できる、という状況を実現させたのは、「インクルージョン」という思想を大切にしたから、と語っています。
つまり、デジタル格差や情報格差によって取り残される人が、だれひとり生まれないようにすることが、信条だったということです。
この話を本で読んだとき、ふと私の頭に思い浮かんだのは、かの『ドラえもん』に出てくる、のび太くんでした。
今は、世の中はデジタルどころか生成型AIの時代に突入し、その進化はもう誰にも止めることができなさそうに思えます。
「これからの時代は、デジタルデバイドや情報格差は、ますます激しくなるのか、それとも、すべての人にデジタルはフレンドリーになるのか?」
というのは、次の時代を考えるために有効な問いになりそうです。
そして、そのことについて考えるためのヒントが、「のび太くんの存在だ」と、なぜか思ったのです。
「のび太」という存在の価値
彼の強みと魅力を、まとめて一言でいうなら、それは
ほしいものを手に入れられる能力
だと言えます。
もう少し付け加えるなら、
ほしいものを、自分がイメージしていた以上の状態で手に入れられるための「問い」を持っている
ということ。
(高度なAIを備えた)ロボットであるドラえもんに、「何がほしいのか」を問いかけ、ほしかった機能を備えた完璧なアイテムを手に入れる…
それはつまり、のび太くんには、ロボットであるドラえもんから、ほしいアウトプットを出させるための「すごい問い」を発する力がある、ということです。
AIとのうまい付き合い方を、のび太は教えてくれる
この、ドラえもんとのび太の関係は、AIと人間の対話を理解するのに非常に興味深い例だと思います。
彼らの物語から、ある意味でAIとの理想関係、つまり、ほしいものを正確にアウトプットさせるための、効果的な対話の方法を学ぶことができます。
それではここから、のび太くんが備えている「問い」の力に見る、法則性を考えてみたいと思います。
1. クリアで具体的な要望の提出
「ドラえもん、助けて!」というセリフは、具体的な要望を明示する良い例です。
AIとの対話では、明確な目的を持つことが重要です。「アドバイスがほしい」、「具体的な支援がほしい」など、相手が人間であれば、顔色や雰囲気で察してくれるので、はっきり言わなくても伝わることが多いものです。
ですがAIが相手の場合、「自分が相手に何を望んでいるのか」を最初に、明確に伝えることが、適切な回答や解決策を提供するための出発点となります。
2. 問題の背景を共有する
のび太がドラえもんに「僕、またテストで0点取っちゃったよ」、「ジャイアンにいじめられたんだ…」と伝える場面は、AIとの対話では問題のコンテクスト(文脈、背景)を共有することが重要だ、と教えてくれます。
困難な状況や自分の感情を包み隠さずドラえもんに伝えることが、より適切なアドバイスやソリューションを引き出しているわけです。
こうした背景や全体像の情報を伝えることは、AIが問題を理解し、適切な解決策を提供するための手がかりとなり、この情報があるとないのとでは、後のアウトプットの質が大きく変わってきます。
3. 開かれた質問を使う
のび太は例えば、「ドラえもん、宿題を早く終わらせる方法はないかな?」といった開かれた質問をします。これは、特定の解決策に固執せず、AIに対して広い視野での提案を求めている、という姿勢を示しているわけです。
こうした「オープンクエスチョン」は、AIが持つ広範な情報と能力を活用するうえで、効果を発します。私たちユーザーが想定していなかった、斬新な解決策やアイデアを、AI側が提供できるからです。
新しい視点や意外な解決策を引き出すためには、アウトプットの可能性を大きく広げましょう。大胆かつ思い切ったオープンクエスチョンを投げかけるのです。
4. フィードバックの提供
ドラえもんのアイテムを使ってみたが、思っていたのと違った…
そうした時のび太は、「これじゃあ、全然ダメだよ…」とか、「もっといい方法はなかったの?」といったフィードバックを与えます。
たしかに言われたドラえもんはちょっとかわいそうですが、このフィードバック自体は、AIに対して重要です。
特に想定通りではなかったときフィードバックは、AIがそのエラーから学び、改善を図るための貴重なデータを提供することになるからです。
また同時に、AIがユーザーのニーズや好みをより深く理解するための手がかりともなり、将来の対話やソリューションの質を高めることに繋がっていきます。
5. 創造的な発想を持つ
のび太は、ときどき驚くような創造的な発想を披露してくれますね。
例えば、「ドラえもん、空を飛んでみたいな」、「世界の向こう側に、今すぐ行ってみたいな」「亡くなったおばあちゃんに会いに行きたい」という発想は、通常の行動パターンから飛躍的に離れて、新たな解決策を探るための良い例です。
通常AIは、質問や指示に基づいて答えを提供しますが、ユーザーが創造的な発想を持ち込むことで、いっきに既存の枠を超え、驚くような解決策を探ることが可能になるのです。例えば、ある特定の問題に対して「普通では考えられないような解決策はないか?」などストレートにAIに尋ねることだってできます。
AIに創造的な問いを投げかけることで、AIの能力を最大限に活用し、従来の思考パターンに捉われない新しい解決策を見出すことが可能になるのです。
プロンプトの先駆者は、のび太くんだった
ドラえもんとのび太の物語は、約50年前からこの日本で、AIと人間の対話のあり方について、私たちに貴重な洞察を提供してくれています。
その中で、のび太は、いわゆる「プロンプト」の先駆者として、AIとの対話における重要な原則を示してくれる存在です。
具体的な要望の提出、問題の背景の共有、開かれた質問、適切なフィードバック、そして創造的な発想…
AIと人間がどのように効果的に対話すべきかを、わかりやすく実践してくれているのです。
そして、これからの時代のAIの在り方を考えるとき、冒頭の「インクルージョン」という観点は、人類とAIにとって重要な規範になってほしいものです。
90歳のおばあちゃんにとっても、身体に障害がある人にとっても、よりユーザーフレンドリーな存在としてAIが発展するためには、AIそのものの発展だけでなく、私たち自身にも求められていることがあると思います。
それは、私たち人間が、AIをまさに「フレンドリーな存在」として認識することから始まるのではないでしょうか?つまり、AIと良好な関係を築こうとする姿勢です。
これは、「恐れないこと」という態度が重要だ、とも言えます。
のび太のように、AIに対して積極的に関わることで、その可能性を最大限に引き出すことができたりするように、どんな人でも、自分の思いや言葉を持ちます。
AIとのより豊かな対話を実現し、最適なソリューションを引き出すために、一人の人間として「想いを語ること」、そして「知りたいことを問いかける」ことに、こだわっていきませんか?
AIのユーザーフレンドリーなAI時代を、皆で築いていきたいですね。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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