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磯貝剛
2020年2月29日 15:37
私と親友の小春(こはる)は、同じ児童養護施設で育ちました。親友と言いましたが、私としては、姉妹のほうがしっくり来ます。ですが、血の繋がりはありません。なので、あらためて関係を聞かれると、『親友』と言うことになるのかな、と思ったのです。本当に、双子の姉妹のように、つねに一緒にいました。施設に入ったのも、ほとんど同じ時期です。誕生日は小春のほうが早いですが、学年も同じです
2020年3月7日 12:42
登校拒否は、半年ほどつづきましたが、小春はなんとか、登校をはじめたのです。ですが、中学にあがると、小春の不登校は、より多くなってしまいました。同級生の男子は、男っぽくなります。そして、上級生は成人男性と、そんなに体格がかわりません。さらに、心ない女子生徒が、小春に対して、的外れな陰口をしていたと聞いたことがあります。『自分のことかわいいと思ってる』と。その陰口を、私は直接、
2020年3月14日 16:23
中学を卒業して、高校入学です。 通信制の女子高をみつけて、小春はそこへ入学しました。私は近くの、公立の高校へ。このころになると、小春は体調を極端にくずしたり、発作をおこしてしまうことが、少なくなりました。恐怖症が軽くなってくれたからではないです。恐怖症とのつきあいかたが、うまくなったから、だそうです。それは、男性と接しない、と言いかえれてしまいますが……でも、直接では
2020年3月21日 13:18
そして、高校卒業です。私は、生花店へ就職しました。私が就職したのは、高校の3年間アルバイトをしていた、フラワーショップの店長さんの知人が経営するお店です。人気のお店なのですよ。店長は、知人である、そのお店のオーナーに「元気もあるし、まじめ」と、私を紹介してくました。うれしかったです。私の母も結婚する前は、生花店で働いていたのです。母は家でも、たくさんの花を育てていました
2020年3月30日 06:50
あるとき小春は、SNSで拡散されてきた風景の写真に惹かれたのです。SNSでも男性を避けていた小春は、知らない人へコメントや『いいね』をするときに、その人が、男性か女性かを確認していました。ですが、その風景写真の投稿者は、SNSのサムネイル画像も風景写真でした。アカウント名は、性別が判断できるものではなかったです。投稿している文章の一人称は「私」でした。文章の内容は、男性とも女性
2020年5月5日 19:43
私は、小春にゆっくり近づいたのです。そして、すこしはなれた対面に座りました。「小春、大丈夫?」そう、小さな声で問いながら、様子をみました。大丈夫そうではなかったです。……ずっと気をはっていたのでしょう。たぶん、本人も気づかないうちにです。小春は、睦夫さんに会えるうれしさで、いっぱいだったと思います。ですが、その一方で自分が緊張している事を、自覚しにくくなっていたのか
2020年5月14日 17:51
小春と睦夫さんは、メッセージアプリでのやり取りしかしていません。会ったこともなく、顔もしらない人を好きなるのはおかしい、と言う人はいるかも知れないです。ですが、小春は男性と会うこと自体が難しいのです。それに、小春も睦夫さんも、誠実すぎて、奥手になってしまっているくらいだと思えます。私は、一度だけ交際したことがあります。相手は、高校のときの同級生でした。つき合ったのは卒業後で
2020年5月17日 18:32
小春の表情に、自然な明るさがもどりました。小春がまた、SNSですら男性を避けてしまうという、最悪️の事態はまぬがれたのです。そして、陸夫さんと約束した日がおとずれました。あらためて、三人で会う日です。小春のコーデは完璧でした。街に出るわけでもないので、決めすぎず、それでいて、ちゃんとかわいかったのです。小春は緊張している様子でした。ですがそれは、普通の女の子も、初デート
2020年5月21日 17:59
公園で大丈夫だったので、少し遠出をすることになりました。小春の作った服の、撮影をしにいこうという話になったのです。睦夫さんは、撮影の穴場をたくさん知っていました。人がこなくて、小春が好きそうな、画になる場所を。探がすのも得意です。小春は睦夫さんの写真が好きです。そして、どの写真が特に好きかを伝えていました。なので、睦夫さんは、小春の好みを心得ていたのです。睦夫さんの
2020年6月4日 17:48
私は晴れて、ふたりに対する役目を終えました。私はそれから、ふたりのことに立ち入らないように、つとめていました。ですが、一度、まがさして思慮のないことをしまったことがあります。睦夫さんは、あまりにも出来た人です。私はふと、もしかしたらと思ったことがありました。男性は、性行為を我慢をするのが、つらいことだと聞いたことがあります。睦夫さんは、性的なことに興味がないのではないかと。
2020年6月8日 06:54
小春と睦夫さんの交際は続きました。交際が始まって、4年が経ったのです。ですが、小春と睦夫さんの交際は、平穏なものとはいきませんでした。小春の恐怖症です。症状の改善の進展が、ありませんでした。そんな自分を責めてしまう、小春。交際がはじまった最初の1、2年は、恐怖症を克服できる希望をもっていました。小春も、睦夫さんも。ですが、小春は一向に、睦夫さんと触れあうことが、でき
2020年6月9日 18:10
何回も、つらそうに別れを切り出す小春。そんな小春を見ているうちに、睦夫さんは、自分が小春を苦しめていると考えるようになったのです。睦夫さんは私に言いました。「僕は小春と一緒にいたいです。でも一緒にいることで小春をつらくさせてしまうのなら、交際を続けたいというのは、僕の身勝手さなのではないかと……」睦夫さんはとうとう、小春の話に「わかった考えてみる」と、返事をしたそうです。
2020年6月10日 20:57
「咲ちゃん、ごめんね」そう言って、母はベッドで休んでいることが多くなりました。父が出ていったあと、母の具合は、みるみるうちに悪くなりました。顔色は青白く、やせて、病気のようでした。日に日になにもできなくなって、ベットで具合悪そうに寝ていることがほとんどでした。私が買ってきたお弁当屋さんのお弁当も、あまり手をつけません。そして、母はよく泣いていました。部屋から鼻をすする音
2020年6月11日 18:00
つぎの朝、母の部屋をのぞきました。「おはよう。咲ちゃん」母は、笑顔でそう言ってくれたのです。昨日と同じようにベッドに座ったまま。私がした飾りつけも、そのままにしてくれていました。昨日の母の声は、聞きまちがえではなかったのです。私は、朝ごはんをもってきました。母はにっこりと、「ありがとう」と言ってくれました。ですがそのあと、「ごめんね、お母さんお腹いっぱいなの。咲ちゃ