見出し画像

2021年、僕の心を震わせた「映画」ベスト10

昨年に続き、今年もコロナ禍という逆境の中で、新しい傑作が次々と公開されていった。そのあまりの豊作ぶりを前に、年間ベストを選出することの難しさを例年以上に強く感じたが、今回、僕がここで選んだ10本の作品に、あえて一貫する一つの軸を挙げるとすれば、それは「物語」の力だ。

言葉にならない感情に確かな輪郭を与え、次の世代へ語り継いでいくべき真理を紡ぎ、そして、時代を超えて共感の輪を広げていく。そうした「物語」が秘める原初的な可能性に、今年、僕は何度も何度も心を強く震わせられた。

本記事のタイトルにおいて予め断っているが、この年間ベストは極めて個人的なものであり、ここで紹介する全ての「物語」が、今この記事を読む全ての人に対して開かれているかは僕には分からないし、むしろ、その必要もないと思う。

ただ、僕は一人の映画ライターとして、2021年という時代に、この10本の「物語」が生み出されたことを、しっかりと言葉にして綴っておきたいと強く感じた。そして、このリストが、あなたが、いつか、これらの「物語」と出会うきっかけとなったら嬉しい。


------------------------------


【10位】
あのこは貴族

今作は、女性同士の連帯を謳ったシスターフッド映画ではあるが、僕は、とても普遍的な人生賛歌として今作のメッセージを受け取った。この社会に生きる人々は、誰しもがそれぞれの立場で分断と抑圧を感じているはずで、それ故に、この社会に定型的な悪役など滅多に存在しないことを、私たちは無意識的に理解している。今作は、そうした社会の在り方をフラットに見つめながら、安易に仮想敵を設定することなく、極めてフェアな観点から「連帯」と「解放」という選択肢を提示してくれる。まさに昨年の『ブックスマート』がそうであったように、分かりやすい悪役の登場しない物語は、2020年代の一つの潮流となるかもしれない。


【9位】
プロミシング・ヤング・ウーマン

この物語は、未だ旧時代的な価値観が支配的なものとして残り続ける2021年の世界に対する「最後の警鐘」であったのだと思う。この映画(および、『最後の決闘裁判』)を取り巻く言論シーンの中には、とても絶望的な気持ちにさせるものも数多く見受けられたが、この物語に込められたメッセージが正しく受け入れられる時、時代の価値観はポジティブな方向へと変わっていくはずだ。2021年はその過渡期であるとして、いつか後年から振り返った時、この作品は不可逆的なターニングポイントとなった作品として位置付けられると思うし、そう振り返る日が来ることを信じたい。今作が、「最後の警鐘」となることを願う。


【8位】
花束みたいな恋をした

長きにわたる文化史において、恋愛小説、恋愛マンガ、恋愛ドラマといったコンテンツが強い支持を獲得し続けている理由は、私たちは、そうした物語から恋愛を学ぶからなのだと思う。だからこそ、恋愛映画は映画史における一つの大きな潮流であり続けていて、そして、その最新型にして極めて鋭利な一作が、今年一大ムーブメントを巻き起こした『花恋』であった。今作を観て、恋愛は素晴らしいと、心からそう思える人が一人でもいたら、もしくは、この先にそう思える人が一人でも生まれたら、この映画には揺るぎない存在意義がある。そしてそれこそが、恋愛映画の使命なのだと思う。


【7位】
空白

人間は社会的な生き物であり、それ故に、自らの心を満たすために本能的に他者との関わり合いを求める。しかし、そうしたコミュニケーションに長けた人のほうが稀で、多くの人は、一定の不器用さを抱えながらこの不条理な世界を生きるしかなく、その姿は時に滑稽で愛おしいものでもある。もちろん、当の本人たちにとっては笑い事ではなく、事実、この映画を支配しているのは極めてシリアスでヘビーな空気ではあるが、それでも、この「空白」によって繋がれた人々が織り成す物語は、最後には、とても温かい感動をもたらしてくれる。今作は、「赦し」の物語として、この先、数え切れないほど多くの人々を救っていくはずだ。


【6位】
護られなかった者たちへ

東日本大震災という残酷にして無慈悲な現実に対して、そして、3.11以降も否応もなく続いていく日常に対して、時に、真正面から向き合うことを憚られるような気持ちになる。しかしこの物語は、今、日本を生きる全ての人々に、誠実な距離感をもって優しく寄り添ってくれる。現実に横たわる問題は複雑で多岐にわたり、その中には、福祉を取り巻く問題をはじめ震災をきっかけとして新たに表出したものも多い。この物語の中においても、そうした無数の問題が安易に解決へ向かうことはないが、しかし今作は、迷い嘆き、拭いきれない後悔を抱きながら、それでも未来に向けて生きようとする人々の一つの指針となると思う。


【5位】
すばらしき世界

この世界は、あまりにも厳しく、辛辣で、そして、それでも温かい。『すばらしき世界』という今作のタイトルについて、それを皮肉として受け取るかどうかは観る人次第だが、一つ言えるのは、この映画が生まれたこの世界は、決して悪いものではないかもしれない、ということだ。微かでも、仄かでも、今にも消え失せてしまいそうだとしても、今作は、誰しもの心の中にある性善の灯りとその儚い揺らめきを、確かに映し出すことに成功している。その奇跡のような瞬間に、強く心を動かされた。この世界は、あまりにも厳しく、辛辣であるけれど、それでも生きるに値する価値があることを証明するために、この物語は生まれたのだと思う。


【4位】
ノマドランド

今作は、「アメリカ映画」の、より具体的に言えば、「自由の国=アメリカのリアルを映し出す映画」の最新型であり、同時に、その系譜の頂点に君臨する一本だと思う。アメリカの現在を批評することは、そのまま世界そのものを批評することに繋がり、クロエ・ジャオ監督の眼差しは、フラットでありながら慈悲深く、何よりも鋭い。そして、これは彼女のフィルムメイカーとしての才能だが、映画のストーリーテリングの手法が詩的であればあるほど、今作が内包する「絶望」と「希望」のメッセージはその強度を増し、鋭くなる。アメリカのリアルを射抜いた歴史的傑作として、いつまでも参照され続けていく作品になると思う。


【3位】
ヤクザと家族 The Family

藤井道人監督は、映画を撮ることを通して、つまり物語を紡ぐことを通して、僕たちが生きる不条理で不寛容な現実に懸命に抗い続けている。映画は、物語は、決してスクリーンの中に閉じたものではない。観客の心を動かすことによって、たとえ間接的な形であったとしても、この変えるべき現実を変えることができる。藤井監督は、そう強く信じているはずで、これほどまでに鮮烈な闘志を感じさせる作品を立て続けに撮るフィルムメーカーは、極めて稀だ。彼の次回作は、Netflix版『新聞記者』。きっと、より深く、鋭く、この時代に斬り込んでくれるはず。彼の勇気が、いつか結実する日を信じたい。


【2位】
竜とそばかすの姫

細田守監督の作品は、特に近年、その堂々たるメジャー作品としての佇まいからすれば異様なほどに大きな賛否両論を巻き起こす。僕としても、今作は、明らかに万人に開かれたタイプの作品ではないと思うし、『サマーウォーズ』のような超王道エンタメを期待していた人は、小さくはないショックを受けたと思う。それでも、この物語に救われる人は必ずいる。途方もなく聳え立つ「正義」を前にして静かに膝を付いた時、その振りかざされる「正義」によって小さな声さえも奪われてしまった時、手を差し伸べてくれるのは、きっと、その「正義」を超越していくこうした物語なのかもしれない。この物語が生まれた意義は、必ずある。


【1位】
るろうに剣心 最終章 The Final

台詞ではなく、一つひとつの動作や振舞い、つまりアクションによって物語を紡ぐ。今作は、まさに、ストーリーテリングにおける一つの境地へと達していると思う。熾烈なアクションシークエンスを通して描かれる魂と魂のぶつかり合いは、まさに重厚にして深淵なヒューマンドラマであり、そして、こうした肉体表現は言語を介さないからこそ、ユニバーサルな表現としてそのまま海を越えていく可能性を秘めている。この日本から世界に誇るべき王道のアクション映画が生まれた事実は、2020年代以降の映画業界、何より、僕たち観客にとっての果てしない希望となる。

本来は2020年に封切られる予定だった今作は、約1年の延期を経て公開に至るが、その公開日の翌日に緊急事態宣言が発令。その未曾有の逆境の中で、大友啓史監督は「嵐の中、覚悟の船出です」「エンタメの灯を無くすわけにはいかない」という力強いメッセージを掲げてくれた。その鮮烈な意志と覚悟に、今作の公開を待ち続けていた僕は、強く心を震わせられた。また、スクリーンで作品に触れた時、温かく報われたような思いをした。このウィズ・コロナ時代において、エンターテインメントの灯を絶やすことなく守り続ける全ての人々に、最大限の敬意を表したい。そして、日本が世界に誇るべきアクション超大作である今作を、僕は全力で支持する。


2021年、僕の心を震わせた「映画」ベスト10

【1位】るろうに剣心 最終章 The Final
【2位】竜とそばかすの姫
【3位】ヤクザと家族 The Family
【4位】ノマドランド
【5位】すばらしき世界
【6位】護られなかった者たちへ
【7位】空白
【8位】花束みたいな恋をした
【9位】プロミシング・ヤング・ウーマン
【10位】あのこは貴族



【関連記事】


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

最後までお読み頂き、誠にありがとうございます。 これからも引き続き、「音楽」と「映画」を「言葉」にして綴っていきます。共感してくださった方は、フォロー/サポートをして頂けたら嬉しいです。 もしサポートを頂けた場合は、新しく「言葉」を綴ることで、全力でご期待に応えていきます。