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欅坂46、「反逆」のポップ・ミュージック10選

2020年10月、欅坂46は、その5年間の歴史に自ら終止符を打つ。

迷い、挫け、葛藤と逡巡を繰り返しながら、そして、平手友梨奈の脱退という悲痛な現実と向き合いながら、それでも彼女たちは、他でもない自分たちの未来のために、櫻坂46として新しく生まれ変わる。僕は、その深い覚悟に、最大限の敬意を払いたい。

今回は、彼女たちがJ-POPシーンの中心で打ち鳴らし続けてきた「反逆」のポップ・ミュージックの中から10曲を厳選し、一つのリストにまとめた。

この記事が、あなたが欅坂46の楽曲と出会う/再会するきっかけになったら嬉しい。



サイレントマジョリティー(2016)

君は君らしく生きていく自由があるんだ
大人たちに支配されるな
初めから  そうあきらめてしまったら
僕らは何のために生まれたのか?

アイドルグループのデビュー曲として、いや、さらに広義のJ-POPとして見ても、この楽曲が放つ異彩は、やはりあまりにも凄まじいものがある。当初は、「大人への反抗」を訴える歌詞を「大人」の代表である秋元康が書いていることに対する批判も見受けられたが、"サイレントマジョリティー"は、そうしたメタ的な論議を無化し、瞬間的に彼女たち(および、同じ青の時代を生きる全ての人々)の唄となった。今作のミュージックビデオが映し出す平手友梨奈の鮮烈な眼差しは、同曲のメッセージに圧倒的なリアリティを与えていたし、何よりも圧倒的に鋭い。ここから、欅坂46の熾烈な物語が幕を開ける。


世界には愛しかない(2016)

全力で走ったせいで、息がまだ弾んでた。
自分の気持ちに正直になるって清々しい。
僕は信じてる。世界には愛しかないんだ。

不和と不信に満ちたこの世界に対して、それでも「世界には愛しかない」という究極の理想論を叩きつける同曲は、その理想が透徹なものであればあるほど鮮烈なカウンターメッセージとして機能する。その意味で同曲には、"サイレントマジョリティー"を凌駕するパンク性が宿っているのだと思う。それでいて同時に、この曲のアップリフティングなサウンドデザインと、晴れやかに開かれていく心象風景を映し出す歌詞は、眩い「青春」の季節を真正面から描いている。今から振り返れば、欅坂46のシングル表題曲は、内なる感情を冷徹に研ぎ澄ませていく楽曲が多かったが、この曲(および、3rdシングル"二人セゾン")は、彼女たちにとっての「もう一つの可能性」を示唆していたのかもしれない。


不協和音(2017)

不協和音を
僕は恐れたりしない
嫌われたって
僕には僕の正義があるんだ

グループとしての方向性を決定付けることになった宿命の一曲。この楽曲を授けられた平手友梨奈は、表現者としてさらなる覚醒を果たした。同時に、彼女の表現スタンスとグループとの距離感は、これ以降、不可逆的に変容してしまうことになる。極めて残酷な構造ではあるが、この曲は、平手の孤独な闘争を激化させる一端を担ってしまったのだ。2017年、および、その「リベンジ」となった2019年の紅白歌合戦において披露された同曲は、広く世間に鮮烈な印象を与え、欅坂46の「反逆」のパブリックイメージが確固たるものとして共有されることになる。


エキセントリック(2017)

I am eccentric  変わり者でいい
理解されない方が  よっぽど楽だと思ったんだ
他人の目  気にしない  愛なんて縁を切る
はみ出してしまおう  自由なんてそんなもの

まるで、内なる感情を押し殺すように言葉を吐き捨てていくポエトリーリーディングに導かれ、エッジーで無機質なトラックが次第にその冷徹さを増していく。この曲が、カップリング曲でありながらライブ定番曲となり得たのは、彼女たちのJ-POPシーンにおける居心地の悪さや孤立感を正しすぎるほどに表してしまっていたからだろう。アイドルの王道に背を向け、まるで開き直るかのように激しく舞う彼女たちの姿は、道なき道を切り開く覚悟を懸命に伝えているかのようだった。


月曜日の朝、スカートを切られた(2017)

月曜日の朝、スカートを切られた
通学電車の誰かにやられたんだろう
どこかの暗闇でストレス溜め込んで
憂さ晴らしか
私は悲鳴なんか上げない

歌謡曲のマナーに則った優雅で美しいメロディと、内なる感情を爆発させたセンセーショナルな言葉たち。その危うい矛盾こそが、欅坂46の表現の核心なのかもしれない。なお、同曲のミュージックビデオは、"サイレントマジョリティー"の前日譚として制作されており、その意味でこの曲は、欅坂46が表現し続けてきた「反逆」の物語のエピソード0として位置付けられる。欅坂46になる前、まだ何者でもなかった少女の目線から告発を為す同曲は、まだ少しだけ透徹なイノセンスを残しているからこそ、深く鋭く、心の奥に突き刺さるのだと思う。


避雷針(2017)

世の中の常識に傷つくのなら
君の代わりに僕が炎上してやるさ
いつだってそばで立っててやるよ
悪意からの避雷針

大切な誰かを守りたいという純粋な気持ちが、壮絶な自己犠牲の精神へと接続されていく。その時、あらゆるネガティブな感情が、ポジティブなものへと転換される。この物語の先には悲劇が続いていくことが安易に想像できるが、同曲には、アイドルの王道に背を向けて茨の道をゆく彼女たちの諦念と信念が宿っているように思う。この曲が、"エキセントリック"と同じく、カップリング曲ながらライブ定番曲として披露され続けているのは、それ故だろう。


ガラスを割れ!(2018)

想像のガラスを割れ!
思い込んでいるだけ Oh! Oh!
やる前からあきらめるなよ
おまえはもっとおまえらしく  生きろ!

「自らを縛り付けるものからの解放」という意味においては、それまでの彼女たちの楽曲と共通しているが、しかし、これほどまでに直情的なメッセージソングは、グループ史上初だろう。直接フィジカルに訴えかけるようなダイナミズムを秘めたロックサウンドは、内省的な怒りや衝動を、極めてポジティブなエネルギーへと転換させる役割を担っていて、その意味で同曲は、普遍的な「応援ソング」としても機能する。この曲は、欅坂46が訴え続けるメッセージが、J-POPシーンにおいて大きな普遍性を獲得し得ることを堂々と証明してみせた。


黒い羊(2019)

自らの真実を捨て白い羊のふりをする者よ
黒い羊を見つけ  指を差して笑うのか?
それなら僕はいつだって
それでも僕はいつだって
ここで悪目立ちしてよう

結果的に、平手友梨奈がセンターを務める最後のシングル曲となったこの曲は、デビュー以降、長きにわたり茨の道を切り開き続けてきた彼女たちによる音楽シーンへの最終回答である。中盤の《全部  僕のせいだ》という平手の独白は、あまりにも悲痛な響きを放っていて、壮絶な諦念にも似た覇気を放つ同曲は、J-POPシーンにおける欅坂46の存在そのものを的確に表現したナンバーであると言える。欅坂46の「反逆」の物語は、一切の妥協も忖度も迎合もなく、ここに最も美しい形で結実したのだ。その事実に、ただただ心が震え、言葉を失うほどに美しいメロディが残す仄暗い余韻が、いつまでも消えない。


角を曲がる(2019)

みんなが期待するような人に
絶対になれなくてごめんなさい
ここにいるのに気付いてもらえないから
一人きりで角を曲がる

2018年に公開された映画『響 -HIBIKI-』の主題歌。グループ名義となっているが、実質的には、同作の主演を務めた平手友梨奈のソロ曲である。2019年9月、東京ドーム公演2日目、ダブルアンコールで初めてライブ披露されたこの曲は、欅坂46が紡いできた孤独の物語、そのあまりにも濃密すぎるエッセンスを鮮やかに表していた。そして平手は、その物語の全てを背負うようにして、2020年1月に脱退を発表した。幸いにも、平手はこの曲のパフォーマンスにおいて、自らの表現の次元をまた一段引き上げた。角を曲がったその先に、彼女の表現者としての新たな坂道が続いていくことを信じたい。


誰がその鐘を鳴らすのか?(2020)

瞳を閉じて  聴いてごらんよ
自分の言いたいことを
声高に言い合ってるだけだ
際限のない自己主張は
ただのノイズでしかない
一度だけでいいから
一斉に口をつぐんで
みんなで黙ってみよう

平手友梨奈の脱退後に初めてリリースされた新曲にして、欅坂46のラストシングルとなった楽曲。特筆すべきは、この曲においては、センターポジションが設定されていないことだ。欅坂46が最後に辿り着いた結論、それは、「個」の物語からの解放。そして、その先に広がる限りない「世界」の肯定である。"サイレントマジョリティー"から幕を開けた「私 VS 私以外」の物語は、最後には《みんなで黙ってみよう》と謳う同曲に着地したのだ。欅坂46が打ち鳴らしてきた「反逆」のポップ・ミュージックは、ここに終幕する。欅坂46に別れを告げ、新たに櫻坂46として歩み出す彼女たちの再出発を、心から祝福したい。



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